病床
今朝は何だか、朝から体調が悪かった。
頭は痛いし、目眩はするし……
熱っぽさも咳もある。
多分、風邪でもひいたのだろう。
「ごちそう様でした……」
食欲が無く、殆ど手を付けずに箸を置いた。
「何だ、何だ? 嬢ちゃん、全然食ってねぇじゃねぇか?」
原田サンが心配そうに言う。
「ちょっと……食欲が無くて」
「桜、もう食わねぇの!? んじゃ、もーらいっ!!」
「うん。残すの申し訳ないんだけど……食べられそうにないから、良かったら平助クンが食べて?」
「おっ! ありがとな♪お前もゆっくり休んで早く良くなれよ?」
平助クンは元気良く言った。
「桜サン……大丈夫ですか? 今日は大事をとって、部屋でゆっくり休むと良い。隊務の事は心配しなくて結構ですよ」
山南サンも心配そうな表情で言う。
「ありがとう……ございます」
当の私は、返事をするのがやっとだった。
「あれ? 嬢ちゃん、部屋に戻んねぇのか?」
怠さで立ち上がれずに居た私を気にして、原田サンが尋ねた。
「今ちょっと……自分で戻れそうにないので……もう少ししたら戻り……ます」
そう答えた瞬間
私の体が宙に浮いた。
「それならそうと、早く言えよ! 嬢ちゃん一人くれぇ運べるっつーの。……まったく、遠慮なんざ水くせぇじゃねぇか!」
私を抱えると、原田サンはそう言った。
怠さで意識が保てず、いつの間にか意識を手放す。
「お、佐之助じゃねぇか。ん!? こいつ……一体どうしたんだ!?」
部屋を出た所で、原田サンは土方サンと会った。
「どうもこうもねぇよ。調子悪ぃみてぇで、部屋に連れてこうとしたら……気ぃ失っちまった」
「な……に!? 佐之助、悪ぃがこいつは俺が連れていく!! 山南サンに伝えておいてくれ」
土方サンは原田サンにそう告げると私を受け取り、部屋に向かった。
土方サンは私の部屋にするか自分の部屋にするか迷ったが、仕事をこなしながら看病できる利点から、自分の部屋に連れて行く事にした。
部屋に着くなり私を布団に寝かせる。
「うわっ……あっちぃな、こいつ」
土方サンは、自分が熱を出した時にしてもらった事を思い出し、冷した手拭いを私に当てた。
「早く……良くなると良いんだがな」
眠る私の頭を撫でると、土方サンはそっと呟いた。
「こ……こは?」
「お、目ぇ覚めたか!?」
「土方……サンが何で此処に?」
私は、不思議そうに尋ねた。
「お前、朝げの時に倒れたんだよ。だから、俺の部屋に連れてきたんだ」
「そう……ですか。ありがとうございました。私、部屋に戻りますね?」
そう言い、立ち上がろうとする。
「あっ……」
急に立ち上がった為か、よろけてしまった。
「今日はしばらく此処に居ろ。良くなったら部屋に戻りゃあ良い」
よろける私を土方サンは受け止めると、そのまま布団に横にならせた。
「何か食えそうなモンはあるか?お前、朝げも全然食ってねぇらしいな」
「あまり食欲が無くて……すみません」
「飲み物なら飲めそうか? 熱出した時には、水分は沢山取れって、お前が以前言っていただろ?」
「はい。……水分なら何とか」
私がそう答えると、土方サンは部屋を出た。
布団を掛け、天井の木目を数える。
いつの間にか、再び眠りについていた。
目覚めると、土方サンだけでなく原田サンや永倉サン、平助クンそれに総司サンも居た。
「桜チャン……大丈夫? 葵に餡蜜届けさせたんだけど、食べられそう?」
総司サンは心配そうに言う。
「嬢ちゃん、桃食うか? こりゃあ上等な甘ぇ桃だぞ!」
原田サンは桃を差し出した。
「俺はこれを持ってきた! 少しは気が紛れるだろ?」
平助クンは庭の桜から一枝手折ってきた様で、花瓶に差しながら言った。
「みんな……ありがとうございます」
深々と頭を下げた。
「こいつらが……な。お前に何か持ってってやりてぇって聞かなくてなぁ。騒がしちまって悪かったな」
土方サンはすまなそうに言った。
「お、熱が下がったみてぇだな?」
土方サンは私の額に手を当てると、安堵の表情を浮かべる。
「なんか……食えそうか?」
「はい」
すっかり調子が良くなった私は、女中の用意してくれたお粥と、皆が持ってきてくれた物を頂いた。
その後も、隊務を終えた者が色々な物を持ち寄り、次々と見舞いに来てくれた。
誰かに心配してもらえる……
それが如何に幸せな事なのかを痛感した一日だった。




