表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
ほのぼの番外編
72/181

病床


 今朝は何だか、朝から体調が悪かった。


 頭は痛いし、目眩はするし……


 熱っぽさも咳もある。


 多分、風邪でもひいたのだろう。




「ごちそう様でした……」


 食欲が無く、殆ど手を付けずに箸を置いた。


「何だ、何だ? 嬢ちゃん、全然食ってねぇじゃねぇか?」


 原田サンが心配そうに言う。


「ちょっと……食欲が無くて」


「桜、もう食わねぇの!? んじゃ、もーらいっ!!」


「うん。残すの申し訳ないんだけど……食べられそうにないから、良かったら平助クンが食べて?」


「おっ! ありがとな♪お前もゆっくり休んで早く良くなれよ?」


 平助クンは元気良く言った。



「桜サン……大丈夫ですか? 今日は大事をとって、部屋でゆっくり休むと良い。隊務の事は心配しなくて結構ですよ」


 山南サンも心配そうな表情で言う。


「ありがとう……ございます」


 当の私は、返事をするのがやっとだった。




「あれ? 嬢ちゃん、部屋に戻んねぇのか?」


 怠さで立ち上がれずに居た私を気にして、原田サンが尋ねた。


「今ちょっと……自分で戻れそうにないので……もう少ししたら戻り……ます」


 そう答えた瞬間


 私の体が宙に浮いた。


「それならそうと、早く言えよ! 嬢ちゃん一人くれぇ運べるっつーの。……まったく、遠慮なんざ水くせぇじゃねぇか!」


 私を抱えると、原田サンはそう言った。


 怠さで意識が保てず、いつの間にか意識を手放す。




「お、佐之助じゃねぇか。ん!? こいつ……一体どうしたんだ!?」


 部屋を出た所で、原田サンは土方サンと会った。


「どうもこうもねぇよ。調子悪ぃみてぇで、部屋に連れてこうとしたら……気ぃ失っちまった」


「な……に!? 佐之助、悪ぃがこいつは俺が連れていく!! 山南サンに伝えておいてくれ」


 土方サンは原田サンにそう告げると私を受け取り、部屋に向かった。


 土方サンは私の部屋にするか自分の部屋にするか迷ったが、仕事をこなしながら看病できる利点から、自分の部屋に連れて行く事にした。





 部屋に着くなり私を布団に寝かせる。


「うわっ……あっちぃな、こいつ」


 土方サンは、自分が熱を出した時にしてもらった事を思い出し、冷した手拭いを私に当てた。


「早く……良くなると良いんだがな」


 眠る私の頭を撫でると、土方サンはそっと呟いた。





「こ……こは?」


「お、目ぇ覚めたか!?」


「土方……サンが何で此処に?」


 私は、不思議そうに尋ねた。


「お前、朝げの時に倒れたんだよ。だから、俺の部屋に連れてきたんだ」


「そう……ですか。ありがとうございました。私、部屋に戻りますね?」


 そう言い、立ち上がろうとする。


「あっ……」


 急に立ち上がった為か、よろけてしまった。


「今日はしばらく此処に居ろ。良くなったら部屋に戻りゃあ良い」


 よろける私を土方サンは受け止めると、そのまま布団に横にならせた。


「何か食えそうなモンはあるか?お前、朝げも全然食ってねぇらしいな」


「あまり食欲が無くて……すみません」


「飲み物なら飲めそうか? 熱出した時には、水分は沢山取れって、お前が以前言っていただろ?」


「はい。……水分なら何とか」


 私がそう答えると、土方サンは部屋を出た。


 布団を掛け、天井の木目を数える。


 いつの間にか、再び眠りについていた。





 目覚めると、土方サンだけでなく原田サンや永倉サン、平助クンそれに総司サンも居た。


「桜チャン……大丈夫? 葵に餡蜜届けさせたんだけど、食べられそう?」


 総司サンは心配そうに言う。


「嬢ちゃん、桃食うか? こりゃあ上等な甘ぇ桃だぞ!」


 原田サンは桃を差し出した。


「俺はこれを持ってきた! 少しは気が紛れるだろ?」


 平助クンは庭の桜から一枝手折ってきた様で、花瓶に差しながら言った。


「みんな……ありがとうございます」


 深々と頭を下げた。


「こいつらが……な。お前に何か持ってってやりてぇって聞かなくてなぁ。騒がしちまって悪かったな」


 土方サンはすまなそうに言った。



「お、熱が下がったみてぇだな?」



 土方サンは私の額に手を当てると、安堵の表情を浮かべる。


「なんか……食えそうか?」


「はい」


 すっかり調子が良くなった私は、女中の用意してくれたお粥と、皆が持ってきてくれた物を頂いた。


 その後も、隊務を終えた者が色々な物を持ち寄り、次々と見舞いに来てくれた。





 誰かに心配してもらえる……




 それが如何に幸せな事なのかを痛感した一日だった。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ