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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第12章 新選組屯所 ― 桜の帰還 ―
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新選組 帰還


 土方サン……いつ戻るんだろう。



 ここ数日、溜め息ばかり付いている気がする。


 教科書や書物を開き気を反らすが、つい考えてしまう。


 晴れない表情のまま、今日も医務室で隊務をこなす。




「桜サン、入りますよ?」


 山南サンが医務室の扉を開けた。


「今宵、夕げ前に皆さんが戻られるそうです」


 山南サンの言葉に表情が明るくなる。


「おやおや……そんなに嬉しそうな表情を見るのは久し振りですね」


 山南サンはフッと笑った。



 



 夕刻

 

 土方サン達の帰還を門の前で待つ。


 もう何刻も待つが、早く会いたい気持ちが勝っており、全く苦にならない。


 しばらくすると、大勢の足音が聞こえて来た。


「只今戻った」


 近藤サンが一番に門をくぐる。


「勇はん……お帰りなさいまし。無事に戻られ安心しはりました」


 いつの間にか桜の隣りに居た雛菊サンは、嬉しそうな表情で近藤サンを出迎えた。


「ああ……出迎え御苦労。今宵は宴を開く。女中にそう伝えてくれ」


「畏まりました」


 近藤サンは雛菊サンと別れると、部屋に戻った。


 隊士達も続々と帰還する。




 私は必死に土方サンの姿を探した。




「お帰りなさいっっ!!」



 土方サンの姿が目に入るなり、嬉しさから私はつい土方サンに飛び付いてしまった。



「あっ……おい!」



 咄嗟に、土方サンは私を受け止めた。


「無事で……本当に……良かった」


 泣きながら、精一杯告げた。


「おいおい……泣くんじゃねぇよ」


 土方サンは私の頭を撫でながら、困った様に言った。


「お前……随分冷てぇな。もしかして、ずっと此処で待っていたのか?」


「だって……土方サンに早く会いたかったから」


「全く、お前は無茶しやがる」

 

 私と土方サンは顔を見合わせて笑った。




「あぁ! 土方サンが桜チャンを泣かせてる~!!」



 

 後から入ってきた総司サンは、からかうように言った。


 総司サンに続き、永倉サンや原田サン達も帰還する。


「副長は羨ましいねぇ……出迎えてくれる女が居るなんてなぁ」


 永倉サンはしみじみ言った。


「嬢ちゃん、俺には飛び付いて来ねぇのか?」


 原田サンはニヤニヤしながら尋ねる。


「俺も空いてるぜ!」


 更に平助クンが割って入った。


「そんな事したら……副長に真っ先に粛正されますよ?」


 斎藤サンは、真剣な表情で言った。



「皆さんも……お帰りなさい!!」



 いつものやり取りが懐かしく感じ、私は満面の笑みで言った。


「そういや土方サンなぁ……嬢ちゃんの」


 原田サンがこっそり耳打ちする。


「左之介!! 良いからさっさと部屋に行け!!」


 土方サンが声を荒げると、原田サンは渋々部屋に向かった。


「土方サン? さっき原田サンが言いかけた事は何ですか?」


「あぁ……それは後のお楽しみだ。俺は着替えて来る。少ししたら部屋に来い」


 そう言うと、土方サンは去って行った。





 頃合いを見計らい、土方サンの部屋に行く。


「土方サン……入っても良いですか?」


「ああ」


「失礼します」


 土方サンは隊服から着流しに着替えて終わっていた。


「まぁ……座れ」


「はい」


 私が腰を下ろそうとした時、一人の隊士が部屋を訪れた。


「副長、失礼します。お荷物をお持ちしました!」


「あぁ……すまなかったな。そこに置いておいてくれ」


 土方サンの目の前に大きな葛籠を置くと、隊士は部屋を後にした。


「これは……何ですか?」


「お前への土産だ。……開けてみろ」


 そっと葛籠を開けた。


 中には着物やら簪やら櫛やら……たくさんの品が入っていた。


「これ……全部、私に?」


 恐る恐る尋ねる。


「お前以外に土産物をくれる女なんざ、居やしねぇよ」


 土方サンは照れ臭そうに呟いた。


「ありがとうございます!! それにしても……大量ですねぇ?」


「大坂は栄えた街だからなぁ……お前に似合いそうなモンを一つ気に入って買うと、また他の店で違うモンを見付けちまう。それを全部買っていたら……こんなになっちまった」


 離れていても、私を想っていてくれた事が本当に嬉しかった。


「ありがとう……こざいます」


 嬉し涙を流す私を、土方サンは強く抱き締めた。


「お前は、本当に良く泣くなぁ?」


「だって……土方サンに会えた事が嬉しくて」


「俺も……会いたかった。こんな風に感じたのは……初めてだ」


 そう呟くと、優しく口付けた。



「その着物……着てみねぇか?」


「良いんですか?」


「当たり前だ! お前に買ってきたんだろうが!」


「早速着てきます! 夕げの宴……楽しみにしていて下さいね?」


「あぁ」



 そう言うと、自室に戻った。



 土方サンが選んだ着物は藤色で、梅の花の刺繍が華やかに施されていた。


 この着物に合わせる様に簪も櫛も、漆塗りの上から金箔で、美しい梅の花の柄があしらわれていた。


 早速着付けると、姿鏡の前に立ちしばらくの間、見入っていた。




 夕餉の時刻になる。


 広間に行くと、半数が集まっていた。


 土方サンの姿はまだ無い。


「嬢ちゃん! そりゃあ土方サンの土産じゃねぇか?」


 原田サンが尋ねた。


「はい。先程頂きました!」


「実はな……」


 原田サンは先程言おうとした事を話し出した。


「土方サン……大坂への道中や大坂に着いてからもずっと、嬢ちゃんへの土産を見てばかりだったんだぜ~」


「そうそう! お蔭で、荷が増える増える! 荷係りの隊士も苦笑いだったよなぁ?」


 原田サンに続いて永倉サンも割り込んで来た。


「それならまだ良いよ! 俺なんか、大坂で土産物探しに付き合わされたんだぜ? 大坂の街を覚えちまうくれぇ歩かされたよ」


 平助クンは思い出しながら言った。


「副長も、それだけこいつの事が大切なのだろう」


 斎藤サンは静かに呟くと笑顔を向けた。


「いやぁ……ありゃあ異常だな!」


 原田サンと永倉サンは息ピッタリに言った。


「嬢ちゃんへの執着心がすげぇもんな!」


「いくら初めて心から惚れたからって……ありゃ、やり過ぎだわ」


 二人は溜め息をついた。




「私は嬉しいから良いんです!!」



 ハッキリと言い切った。



「おっ? 何だ何だ! 随分盛り上がって居るじゃないか! 何の話だ?」


 近藤サンが現れ、皆に尋ねた。


「いやねぇ、土方サンのこいつへの土産物の多さについて話してたんですよ。」


 原田サンが答える。


「そういえば……その着物は土産の一つだろう? よく似合っている。トシはその着物を選ぶのにかなりの時間を割いていたからなぁ……奴も喜ぶだろう」


 近藤サンは笑顔で言った。


「それにしても、土産物の量が多すぎますよ」


 平助クンの言葉に、近藤サンは少し考える。


「あいつは今までまともな恋愛をして来なかったからなぁ……初めての事に、浮き足だって居るのだろう?あんなトシを見ているとつい、微笑ましく感じてしまうよ」


 近藤サンは笑った。



「土方サンが浮き足だってる!?」



 皆は驚いた。


「何だ? 表情や言動で分からないのか? お前らは……まだまだだなぁ」






「ん? 人の顔をまじまじと見てどうしたんだ?」


 突然表れた土方サンを皆は驚いた表情で見つめる。


「土方サンが色男だからですよ!」


 隣に居た総司サンは、鼻で笑うとそう言った。


 土方サンは困惑の表情を浮かべている。


「何だか分かりませんが……早く宴を始めましょうよ! 僕はお腹が減って倒れそうですよ!」


 総司サンの一言に、皆は席についた。




 帰還の宴が始まろうとしていた。







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