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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第12章 新選組屯所 ― 桜の帰還 ―
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葵の頼み


 今日、明日……休みを頂いたものの、やる事も無く暇を持て余して居る状態だった。


 縁側に座り足をバタつかせ、空を見上げる。



「桜は~ん!」



 聞き覚えの声がする方を見る。



「葵チャン!」



 スクっと立ち上がった。


「桜はんたら……ここ最近何処に行ってはりましたの? 何度来ても、居てはらないから心配しはりました」


「ごめんね。実は医術の修行に行ってたの」


「そやったの? それは、それは……御苦労はんどした」


「それで……今日はどうしたの?」


 葵チャンに尋ねた。


「実はな……沖田はんの事で相談に来ましたんや」


「総司サンは、今頃は大坂だよ?」


「知ってはります!」


「じゃあ……どうして?」


 私は首をかしげた。


「沖田はんの事を色々と知りたいんや。だから、協力してもらえんやろか?」


「良いけど……私は総司サンの事、全然分からないよ?」


 その言葉に葵チャンは、私に耳を貸すように促した。



「えーっ!!?」



「お願いどす!桜はんだけが頼りなんや」



 こんなに可愛らしい顔で頼まれると、嫌とは言えなかった。


 葵チャンの頼みはこうだ。


 山南サンや隊士達から、総司サンの事を聞きたい……と。


「わかった。協力する」


 そう言うと、まずは山南サンの部屋へと向かった。



 


「失礼します。今、宜しいですか?」


「どうぞ?」


 襖を開けると、山南サンは書物を開いていた。


「どうかしましたか?」


「少し、山南さんに伺いたい事がありまして……」


「立ち話も何ですから、お座りなさい。……そちらのお嬢さんもどうぞ?」


 山南サンは葵チャンに目をやると、葵チャンに声を掛けた。


 女中がお茶とお茶請けを運んでくれた。


 

「さて。伺いたい事とは何でしょう?」


「総司サンの……好みの女性を教えて下さい!!」


 思い切って言い切った。


「な……。何故、貴女が沖田クンの好みを知りたいのですか?」


「あ……私じゃありません。彼女が知りたいそうで。山南サンなら江戸からの付き合いですし……何か分かるかなと思いまして」


「葵と申します。初めてお会いしたのに、こんな質問するなんて……失礼は承知どす。せやかてうちも必死なんどす!どうか、教えて下さい」



 葵チャンの必死な表情を見て、山南サンは柔らかく笑った。



「そうですねぇ……強いて言うなら、芯の強い女性ですかね? その点、貴女は適任でしょうね」



 葵チャンは嬉しそうな表情を浮かべた。



「ただ……沖田クンはあぁ見えて奥手ですからねぇ。意識させるのは至難の業でしょうね」


「うちは……どうしたら、ええんどすの?」


「とにかく、たくさん会う事……でしょうか? いつの間にか傍に居なくてはならない存在になるまで、辛抱強く毎日でも会うと良いですよ。それに……甘いもので釣るのも一つの手ですね」


 山南サンは楽しそうに言った。


「ほんに……おおきに」


 葵チャンは深々と頭を下げた。


「貴女は可愛らしいですからね……沖田クンも、拒みはしないでしょう。自信を持ちなさい」


 山南サンにそう言われ、葵チャンは上機嫌だった。


 山南サンの部屋を後にし、屯所の門の前で葵は言う。



「うち、沖田はんを振り向かせてみせる! ……桜はんと副長はんの様になりたいんや」



「うんっ! きっとなれるよ!!」



 その言葉に、葵チャンは満足そうな表情を浮かべ、帰って行った。




 葵チャンを見送りながら、二人が上手く行くようにと、心の中で願った。




 私も……土方サンに早く会いたいなぁ。




 土方サンが戻るまであと3日………












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