葵の頼み
今日、明日……休みを頂いたものの、やる事も無く暇を持て余して居る状態だった。
縁側に座り足をバタつかせ、空を見上げる。
「桜は~ん!」
聞き覚えの声がする方を見る。
「葵チャン!」
スクっと立ち上がった。
「桜はんたら……ここ最近何処に行ってはりましたの? 何度来ても、居てはらないから心配しはりました」
「ごめんね。実は医術の修行に行ってたの」
「そやったの? それは、それは……御苦労はんどした」
「それで……今日はどうしたの?」
葵チャンに尋ねた。
「実はな……沖田はんの事で相談に来ましたんや」
「総司サンは、今頃は大坂だよ?」
「知ってはります!」
「じゃあ……どうして?」
私は首をかしげた。
「沖田はんの事を色々と知りたいんや。だから、協力してもらえんやろか?」
「良いけど……私は総司サンの事、全然分からないよ?」
その言葉に葵チャンは、私に耳を貸すように促した。
「えーっ!!?」
「お願いどす!桜はんだけが頼りなんや」
こんなに可愛らしい顔で頼まれると、嫌とは言えなかった。
葵チャンの頼みはこうだ。
山南サンや隊士達から、総司サンの事を聞きたい……と。
「わかった。協力する」
そう言うと、まずは山南サンの部屋へと向かった。
「失礼します。今、宜しいですか?」
「どうぞ?」
襖を開けると、山南サンは書物を開いていた。
「どうかしましたか?」
「少し、山南さんに伺いたい事がありまして……」
「立ち話も何ですから、お座りなさい。……そちらのお嬢さんもどうぞ?」
山南サンは葵チャンに目をやると、葵チャンに声を掛けた。
女中がお茶とお茶請けを運んでくれた。
「さて。伺いたい事とは何でしょう?」
「総司サンの……好みの女性を教えて下さい!!」
思い切って言い切った。
「な……。何故、貴女が沖田クンの好みを知りたいのですか?」
「あ……私じゃありません。彼女が知りたいそうで。山南サンなら江戸からの付き合いですし……何か分かるかなと思いまして」
「葵と申します。初めてお会いしたのに、こんな質問するなんて……失礼は承知どす。せやかてうちも必死なんどす!どうか、教えて下さい」
葵チャンの必死な表情を見て、山南サンは柔らかく笑った。
「そうですねぇ……強いて言うなら、芯の強い女性ですかね? その点、貴女は適任でしょうね」
葵チャンは嬉しそうな表情を浮かべた。
「ただ……沖田クンはあぁ見えて奥手ですからねぇ。意識させるのは至難の業でしょうね」
「うちは……どうしたら、ええんどすの?」
「とにかく、たくさん会う事……でしょうか? いつの間にか傍に居なくてはならない存在になるまで、辛抱強く毎日でも会うと良いですよ。それに……甘いもので釣るのも一つの手ですね」
山南サンは楽しそうに言った。
「ほんに……おおきに」
葵チャンは深々と頭を下げた。
「貴女は可愛らしいですからね……沖田クンも、拒みはしないでしょう。自信を持ちなさい」
山南サンにそう言われ、葵チャンは上機嫌だった。
山南サンの部屋を後にし、屯所の門の前で葵は言う。
「うち、沖田はんを振り向かせてみせる! ……桜はんと副長はんの様になりたいんや」
「うんっ! きっとなれるよ!!」
その言葉に、葵チャンは満足そうな表情を浮かべ、帰って行った。
葵チャンを見送りながら、二人が上手く行くようにと、心の中で願った。
私も……土方サンに早く会いたいなぁ。
土方サンが戻るまであと3日………




