帰宅
久々に屯所の門をくぐる。
「お! 桜チャンじゃないですか? 久し振り。」
「桜チャン! おかえりなさい」
隊士達が出迎えてくれた。
「只今……戻りました!」
笑顔でそう言った。
「実家はどうだった? ゆっくり過ごせた?」
「そういや、桜チャンは何処の出だい?」
隊士達は次々と質問を投げ掛ける。
「えっと……」
返答に困り苦笑いをしていると、騒ぎを聞き付けた山南サンがやってきた。
「はいはい。女性に根掘り葉掘り尋ねるのは、感心しませんよ。それと、彼女が実家に戻っていた事は、くれぐれも内密にお願いしますね?」
山南サンがそう言うと、隊士達は小さく謝り、持ち場へと帰って行った。
「さて、桜サン。まずはお帰りなさい。片付けが済みましたら、私の部屋に来て頂けますか?」
「はい!」
そう答えると、自室に戻った。
衣類等の整理を簡単に済ませ、山南サンの部屋へと向かった。
「失礼します」
襖を開けると、山南サンは私に座るよう促した。
「さて、医術の修行の方は如何でしたか?」
「指導して下さった医師は、やはり技術のある方でしたので、とても勉強になりました。技術だけでなく、麻酔薬も使える様になったので、重傷者の処置も比較的安全に行えると思います」
「そうですか……それは、良かった」
山南サンは優しく笑った。
「桜サン……。一つだけ忠告させて頂きます」
「何……ですか?」
「長州の事は、全てお忘れなさい! ……先の世から来た貴女なら、この意味が分かりますよね?」
山南サンは真剣な表情で言った。
「長州はいわば敵です。我々は長州を始めとする不逞浪士達を取り締まる側……長州への余計の感情は、貴女の身を滅ぼすでしょう。私はね……心根の優しい貴女が心配なんですよ」
「分かって……います」
「それなら、良いのです。貴女はあくまで新選組。ましてや土方クンの大切な人……土方クンに貴女を斬らせる様な事は、なさらないで下さいね」
「はい」
山南サンは遠回しに、長州と縁を切れと言っていた。
今後も晋作達と関わるようなら……私を斬る、と。
「さて、この10日間さぞや疲れた事でしょう。今日、明日とゆっくり休んで頂いて……また明後日より隊務に戻るようお願いします」
「分かりました」
そう答えると、私は山南サンの部屋を後にした。
幕府に仕える者
天皇を主体とした、新しい時代を作ろうとする者
両者が相容れる事は決して無い。
頭では道理を理解している筈なのに……
心が追い付かなかった。
運命の歯車は
既に動き出してしまって居るのだ……




