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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第12章 新選組屯所 ― 桜の帰還 ―
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帰宅


 久々に屯所の門をくぐる。


「お! 桜チャンじゃないですか? 久し振り。」


「桜チャン! おかえりなさい」


 隊士達が出迎えてくれた。


「只今……戻りました!」


 笑顔でそう言った。


「実家はどうだった? ゆっくり過ごせた?」


「そういや、桜チャンは何処の出だい?」


 隊士達は次々と質問を投げ掛ける。

 

「えっと……」



 返答に困り苦笑いをしていると、騒ぎを聞き付けた山南サンがやってきた。



「はいはい。女性に根掘り葉掘り尋ねるのは、感心しませんよ。それと、彼女が実家に戻っていた事は、くれぐれも内密にお願いしますね?」

 

 山南サンがそう言うと、隊士達は小さく謝り、持ち場へと帰って行った。


「さて、桜サン。まずはお帰りなさい。片付けが済みましたら、私の部屋に来て頂けますか?」


「はい!」

 

 そう答えると、自室に戻った。


 衣類等の整理を簡単に済ませ、山南サンの部屋へと向かった。





「失礼します」


 襖を開けると、山南サンは私に座るよう促した。



「さて、医術の修行の方は如何でしたか?」


「指導して下さった医師は、やはり技術のある方でしたので、とても勉強になりました。技術だけでなく、麻酔薬も使える様になったので、重傷者の処置も比較的安全に行えると思います」


「そうですか……それは、良かった」


 山南サンは優しく笑った。




「桜サン……。一つだけ忠告させて頂きます」




「何……ですか?」




「長州の事は、全てお忘れなさい! ……先の世から来た貴女なら、この意味が分かりますよね?」




 山南サンは真剣な表情で言った。




「長州はいわば敵です。我々は長州を始めとする不逞浪士達を取り締まる側……長州への余計の感情は、貴女の身を滅ぼすでしょう。私はね……心根の優しい貴女が心配なんですよ」



「分かって……います」



「それなら、良いのです。貴女はあくまで新選組。ましてや土方クンの大切な人……土方クンに貴女を斬らせる様な事は、なさらないで下さいね」



「はい」



 山南サンは遠回しに、長州と縁を切れと言っていた。



 今後も晋作達と関わるようなら……私を斬る、と。



「さて、この10日間さぞや疲れた事でしょう。今日、明日とゆっくり休んで頂いて……また明後日より隊務に戻るようお願いします」



「分かりました」



 そう答えると、私は山南サンの部屋を後にした。





 幕府に仕える者



 天皇を主体とした、新しい時代を作ろうとする者



 両者が相容れる事は決して無い。



 頭では道理を理解している筈なのに……



 心が追い付かなかった。





 運命の歯車は




 既に動き出してしまって居るのだ……





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