高杉の恋
初めてあの女に会ったのは、島原だった。
柄じゃねぇが……あの時、一目見た瞬間にあいつに惚れたのかもしれねぇな。
密偵に情報を上げさせると、驚いた事に先の世から来た者だと知った。
と同時に、忌々しい事に壬生浪の女だと言う事も知らされた。
だが、何の事はねぇ。
欲しいものは……奪えば良い。
今までそうして来た様に……
その日も何気無く島原へ行くと、桜を見かけた。
弱そうな壬生浪の犬っころと供に。
思い描いた通り犬っころを切り伏せ、桜を藩邸に連れていった。
そして、いつもの様に組み敷いた。
当然泣かれたが……んなモンはいつもの事、今更何て事ぁねぇ。
そう思っていたのに……
気付けばその手を止めていた。
たかが女に泣かれたくれぇで……
あまつさえ、頬を叩かれ最低と罵られ、普段なら躊躇無く斬っていたろうに。
その言葉に、表情に……何故か心が締め付けられる様だった。
その後、小言を何刻も言いやがる桂にゃ苛ついたが……。
島原で会い別れたあの日……もうその後は決して会わないだろうと思っていた。
しかし、桜はある日突然現れた……この藩邸に。
正直、10日もあれば手込めに出来ると思っていた。
だが
桜の辛そうな顔は見たくはない。
壬生浪の鬼副長を斬ることは容易い……しかし、奴を斬れば桜は泣くだろう。
そう考えると……行動に移せない自分が居た。
柄にもねぇな。
そうこうしている内に10日はあっという間に過ぎ去った。
最後の夜、桜がこっそり言った一言に縛られる。
「初めに飛ばされたのが長州藩邸だったなら……私は晋作を好きになってたと思う」
ならば
「俺ぁ……神様とやらを恨むさ」
そう呟くと、空を見上げた。
桜は去って行ったものの、空は変わる事無く青く澄み渡っている。
初めて女を愛しいと感じた。
初めて壊したくないとも感じた。
「桜ぁ……また来いよ?」
空を見上げたまま、小さく呟いた。
面白き
事も無き世を
面白く
「おめぇが居ねぇこんな世の中で、俺ぁ……どうすりゃ良いのかねぇ?」
答えを求めるも、見つからない。
この先の下の句が完成するのは、また少し先のお話……




