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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第11章 師弟関係 ― 医術を深める ―
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長州藩邸


 屯所に戻るなり、身支度を整える。


 10日間……


 カナリ短いが、やるしかない。


 許してもらえるなら、泊まり込みで学びたい。


 高杉……居ると良いけど。



 支度を整え終え、山南サンに挨拶をすると、屯所を出た。


 壬生から長州藩邸は意外と距離がある。


 これで、門前払いをくらったら……かなり痛い。


 藩邸までの道のりをただひたすら歩いた。




 長州藩邸に到着する。


 門をくぐると、二人の男が談笑していた。


「……すみません」


 男は私の存在に気付くと、歩み寄る。


「こんなお嬢さんが……うちに何の用ですか?」


 意外にも丁寧な対応に驚いた。


 長州の人間は、もっと粗野なイメージがあったからだ。


「あの、高杉……サンは居ますか?」


 その一言に二人の顔が曇る。


「失礼ですが……お嬢さんは、高杉サンとはどういったご関係で?」


「えっと……」


 特に関係なども無く、どう説明したら良いか迷ってしまい、口ごもる。




「そいつぁ、俺の女だ!」



 声がした方を見た。



「高……杉。……と、美女?」



 高杉は隣に遊女の様な風体の美女を侍らせ、キセルをくわえていた。


「おい、お前はもう帰ぇれ!」


「そんな……嫌やわ。今日は一日一緒に居られる言うてましたやろ?」


「うるせぇよ。……斬られたくなきゃ、とっとと出てけ!」


 美女に冷たく良い放つ。


 その様子を見て、人選を誤ったのでは……と不安になった。


 高杉は、足元に泣き崩れる美女などお構いなしだ。



「お前ら、そいつを俺の部屋に案内しろ。……丁重に扱わねぇと、首が飛ぶぜ?」



 私の目の前の二人に命ずると、笑いながら自室に戻って行った。


 ……一緒に居た美女を置き去りにして。


 高杉の部屋に向かう途中遊女とすれ違い、恐ろしい程に睨まれてしまったのは、余談。




「高杉サン、お嬢さんをお連れしましたよ」


 私は、高杉の部屋に通された。


「座れ」


 高杉に促され、近くに腰を下ろした。



「で? お前から尋ねて来るなんざ珍しいじゃねぇか。それに、その荷物……屯所を追い出されでもしたのか?」



 高杉は、私に尋ねた。


「追い出されてないです! そうじゃなくて……今日はお願いがあって来ました」


「お願い……だと?」


 高杉は笑った。


「真剣なんですって!!」


「悪ぃ、悪ぃ。聞いてやらぁ」


 キセルをくわえながら言った。


「所郁太郎サンっていう医者の方が居ますよね?」


「あぁ……それがどうした?」


「今日から10日間、その方の元で医術を学びたいんです。その……出来れば、泊まり込みで」


 高杉は少し考えると、言った。


「そいつぁ……無理だな」


「どうして? ……私が新選組だから?」


「お前が新選組だろうが何だろうが……俺にとっちゃどうでも良い事だ。泊りてぇなら、部屋でも着物でも何でも用意してやる。だがな……」


 高杉は口ごもる。


「郁太郎は……弟子をとらねぇんだ」


 その事は考えてもいなかった。


 ここまでの道のりを歩いた事が徒労に終わってしまった。


 しかし、ここで折れたら何も得られない。


 ダメ元で食い下がってみようと思った。



「弟子なんてそんな大層なモノでなくて良いんです! ただ側で医術を見させて頂けるだけでも得るものがあるはずです。それに……私の時代の医術にも興味をもって頂けると思います」



 高杉は黙って私を見据えた。



「お前ぇは本当に我の強ぇ女だな。所に会わせてやる事は出来るが……俺にできんのはそこまでだ。あとはお前ぇの交渉次第だ」



 高杉は私にそう言うと、今度は女中に所を部屋に呼ぶよう命じた。



 所サンが訪れるまで、どのように交渉すべきか必死に考えをまとめていた。









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