剣術
「私……剣道を習いたい!!」
私は、朝餉の席でみんなに向かって言った。
「けんどう……って何だ?」
平助クンがキョトンとした顔で尋ねた。
「あれ? 剣道って言わないの? ……じゃあ。刀?」
私は慌てて言い直す。
「恐らく……剣術、と言うことでしょうか?」
山南サンが笑顔で言った。
「そう、それです!私も剣術がやりたいです!」
「何でまた剣術なんだよ? 嬢チャンには医術があんだから、何もそんな危ねぇ事しなくても良いんじゃねぇのか?」
永倉サンは溜め息を付いた。
「そうだ、そうだ。心配しなくても、嬢チャンの事は土方サンが命に変えても守ってくれるっつーの」
原田サンも口を挟む。
「なっ!?」
土方サンは、小さく反応した。
「そうだぞ? 桜サンは嫁入り前の娘だ……剣術なぞで顔や身体に傷なぞ付いたら困るだろう? 原田クンの言う通り! 何があろうと桜サンの事は、トシをはじめ私達が守り抜くさ」
「……っ!? 近藤サンまで何なんだよ?」
近藤サンの言葉に、土方サンは困った様な表情で頭を掻く。
「それじゃあ駄目なんです! 私は、いつもいつも危ない所を皆さんに助けてもらってばかりで……。私が剣術ができたなら、自分の身くらいは守れる程の力があったなら……皆さんに迷惑掛けないで済むはずです!」
真剣に言った。
もうすぐ年明けだ。
来年になれば、目まぐるしい程のスピードで様々な事件が起こる。
その時、自分で自分の身を守れるくらいの剣の腕がなければ、最前線で戦う隊士達をより近い場所で治療できない。
刀傷は出血量や創傷感染などの問題から、時間との戦いとなる事もある。
「……やってみりゃあ良いんじゃねぇのか? まぁ。俺らにとっちゃ、お前一人守るくれぇ何てこたぁねぇが、何か考えがあって剣術やりてぇって言い出したんだろ?」
皆が反対する中、ただ一人土方サンだけが賛成してくれた。
「だがなぁ……トシ。桜サンは嫁入り前の大切な娘さんなんだぞ?」
「そうですよ、土方クン。彼女は小柄ですから……稽古であっても怪我をしかねません」
近藤サンも山南サンも難色を示す。
「こいつはなぁ……一度決めた事は絶対に曲げねぇよ」
土方サンは私の性格を熟知しているようだ。
「ですが怪我など……」
山南サンが反論しようとした瞬間
「傷モンになろうがならまいが、こいつは俺が貰ってやるから良いんだよ! ……山南サン、これで文句ねぇだろ?」
土方サンが言い切った。
「ひ…土方サン!? なな…何言ってるんですか! 話がそれてますっっ!!」
私は顔を真っ赤にしながら言った。
「さっすが土方サン! 格好いいねぇ!!」
「土方サンが嫁に来いってよ! 嬢チャン、良かったなぁ?」
原田サンと永倉サンが楽しそうにからかう。
「なっ!? んな事ぁ言ってねぇだろ!?」
土方サンは慌てて否定した。
「そうか、そうか。トシがそこまでの覚悟を持って……と言うのであれば許可しよう!!」
近藤サンは嬉しそうな表情をしている。
朝餉も終わり、土方サンと廊下を歩く。
「土方サン、ありがとうございました!」
「何がだ?」
「えっと、私が剣術を習いたいって言った時に他の皆さんを説得してくれた事です。……その、私のせいで皆さんにからかわれる様な事になってしまって、ごめんなさい」
土方サンはフッと笑うと、私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「んな事ぁ気にすんな。あれは本当の事だからな」
「えっ?」
「まぁ……今は俺ら新選組にとって大事な時期で、俺が浮わついてっと士気にも関わるからな。今すぐ祝言を上げるなぞ出来ねぇが……そんなモン無くとも気持ちは変わんねぇよ」
土方サンは呟いた。
その真剣な表情と言葉に、胸に熱いものが込み上げる。
私……土方サンが大好きだ。
つい、顔がほころんでしまう。
「ニヤニヤしてんじゃねぇよ!」
土方サンは私の鼻をギュッとつまんだ。
「さて。剣術を誰に教わるか……だな」
土方サンは頭を捻る。
「土方サンでは駄目なんですか? 天然理心流の中極意目録って奴なんでしょう?」
土方サンは一瞬、驚いた顔をすると
「よく知ってんなぁ……んな事、お前に言ったか?」
「未来の資料で……ね。元々、土方サンのファンですから!」
「ふぁん? 何だ、そりゃあ?」
土方サンは首をかしげる。
「大好き! ……って事ですよっ!!」
そう言うと、土方サンは
「そらぁ、ありがとよ」
と呟いた。
剣術の指南役はまだ考え中……らしいが
私の隊務が終わってから夕げまでの時間を、剣術を習う時間にする事となった。
剣術の稽古を楽しみに、今日の隊務をこなす。




