島原の夜
二階に上がると、個室がたくさんあった。
禿に通された部屋に入ると、土方サンは布団に腰を下ろした。
「座れ」
私も黙って腰を下ろす。
「で? 何でお前がこんな所に居やがんだ?」
土方サンは、眉間にシワを寄せて私に詰問する。
昼間の永倉サンとのやり取りから、先程の小常サンとのやり取りまで、包み隠さず全て話した。
「あいつら……全くロクな事しねぇ」
そう呟くと、土方サンは溜め息を付いた。
「バレ……ますよね?」
「当たり前だ!」
「いつ気付きましたか?」
「お前が横に座ってすぐだ!」
「でも……何で分かったんですか!?」
「顔立ちと……そうだなぁ。遊女らしくない雰囲気だな。まぁ……まさかとは思ったが」
遊女らしくない
と言う言葉が少し引っ掛かった。
今まで、数多の遊女と関わり、いかにも女慣れしている風に聞こえたのだ。
「遊女のように色気が無くて悪かったですねー!」
頬を膨らませる。
「んな事ぁ言ってねぇだろ?」
土方サンは頭を掻きながら言った。
「遊女みたいに、華やかさも色気も艶やかさも無くてすみません!」
更に付け加えると、顔をプイっと背けた。
「チッ……面倒臭ぇなぁ」
土方サンは私の頬に手を当て、自分の方を向かせる。
「……綺麗だって言ってんだろ? いい加減機嫌を直せ」
ボソッと呟いた。
突然の事に瞬く間に頬が紅潮する。
「客の前でいちいち感情を顔に出してちゃあ、お職にはなれねぇなぁ?」
土方サンは笑いながら言った。
「……土方サンだからです! 他の人の前なら感情くらい隠せますよぉだっ!」
視線を反らして反論する。
「そうかい、そうかい」
土方サンはひとしきり笑うと、静かに尋ねた。
「で?お前は今日は遊女なんだろ?」
突然、真顔になる土方サンに私の心臓はドクンと跳ねた。
「えっ!?」
返事する隙もなく、あっと言う間に組み敷かれる。
「それなら、存分に相手してもらおうじゃねぇか。それに……俺なら後悔しねぇんだろ?」
土方サンは不敵な笑みを浮かべると、そう囁いた。
その日は、深夜にこっそり屯所に戻った。
土方サンは朝方帰れば良いと言っていたが、二人揃って朝帰り……と言うのは気が引けたのだ。
好運にも誰にも会うこと無く、ホッとした。
近藤サンをはじめ、山南サンと斎藤サン以外は帰りは明日になるようだ。
翌日
「嬢ちゃーんっ!!」
永倉サンと原田サンが駆け寄ってくる。
「昨日は、よくも騙してくれましたねぇ? 土方サンに、こってり絞られでもしましたか?」
永倉サンと原田サンは顔を見合わせると
「違ぇんだよ! 土方サンが変なんだよ!!」
必死に言った。
「……変?」
意味が分からない私は、首をかしげた。
「それがさぁ……賭けのネタにしたから絶対絞られるだろうと覚悟して土方サンの所に行ったんだけどよ?」
永倉サンが説明し始める。
「土方サン……全っっ然、怒んねぇーの!!」
「えーっ!?」
主犯の二人にはキツイ罰が下されるだろうと皆思っていたが、土方サンの意外な反応に困惑していた。
「しかも、あの人! 『まぁ……今回は、良いモン見られたから許してやる』なぁんて言って笑ったんだぜ!?」
「ほんと、あり得ねぇよなぁ? 左之!」
「まぁなぁ……。一発ぶん殴られるのは覚悟してたからなぁ」
「こりゃあ。きっと、昨夜はさぞ楽しんだんだろうなぁ?」
会話の雲行きが怪しくなってくる。
「まぁ。昨日の嬢ちゃん……綺麗だったもんなぁ」
二人はしみじみ言った。
「土方サンは遊郭ごっこがお気に召した様だ!!」
「土方サンの役に立てて良かった、良かった!!」
そう言うと、二人は腹を抱えて笑った。
「もうっ! 知りませんっっ!!」
二人のやり取りに急に恥ずかしくなり、その場を駆け出した。
今日も平和な時間が流れる……




