島原―豪遊計画 ―
夕暮れ時になり、原田サンや永倉サンが私を呼びに来る。
そこには、平助クンと斎藤サンも居た。
「いやぁ~。随分とめかし込んで……こりゃ、お職にも勝る程の別嬪サンだなぁ?」
原田サンがしみじみと言った。
「島原の遊女などと比べるなど失礼ですよ」
斎藤サンがすかさずたしなめる。
「ハジメは頭が固いなぁ」
そんな斎藤サンに、平助クンは溜め息を付く。
前にもこんな事があったような。
ふと思い出し、私は吹き出してしまう。
めかし込んだ理由は簡単だ!
土方サン狙いの遊女を牽制するため……だ。
雛菊サンに相談したところ、この結論に至ったわけで……着物も髪結いも、雛菊サンに選んでもらったり手伝ってもらったりした。
「いざ、島原へ!」
私は、心の中で小さく気合いを入れた。
「さぁて。行くかぁ」
「はいっ!」
島原に着くと、まずは人混みの多さに驚いた。
夜間に来たのは初めてだったが、一介の歓楽街にこれ程の人が入るとは思わなかった。
島原は吉原と違い、女性の場合の通行書は要らず、自由に出入り出来るらしい。
永倉サンの馴染みの見世に着くと、丁重に出迎えられ広間へと通される。
見世の人の対応の仕方からも、いかに永倉サンが此処でお金を落として行っているのかが伺い知れた。
しばらくすると、女達が入って来る。
牽制……と思っていたが、明らかに遊女達の方が華やかで艶やかだった。
うわぁ。
遊女のレベル高過ぎでしょ!
こんなに美人ばかりなの!?
浮世絵なんて嘘じゃない!
これじゃあお職どころか、最下位の遊女にも勝てないよ……
急に自分の容姿と格好が恥ずかしくなり、着物を握りしめ俯いた。
そんな時
「永倉様……よく来て下さいんした。小常にありんす。わっちは首を長ぁくしてお待ちしていんした」
襖が開くと同時に、小鳥のように甲高く可愛らしい声が聞こえた。
「小常! こっちに来い! 今日はお前が会いたがっていた隊士を連れてきたぞ? ……嬢ちゃん! こっちだ!」
戦意喪失、私は完全白旗状態なんだから……そんな時に呼ばないでよ~。
「……お邪魔しちゃ悪いんで、此処で良いです!」
わざと明るく言った。
その際、小常がクスリと笑ったのを見逃さなかった。
永倉サンは勿論、原田サンも平助クンも……斎藤サンでさえも楽しそうにお酒を飲んでいる。
何とも言えない気持ちで、そっと部屋を出ると廊下で風に当たった。
こんなに華やかで美しい女性達からもモテて居たのに……どうして土方サンは私を選んでくれたのだろう?
本当に私の事を好き……なのだろうか?
急に切なくなり、涙が頬を伝った。
その時、背後から襖が開く音がした。
「おや? お嬢さん……こんな所で独り酒かい? 見たところ……遊女でないようだが?」
振り返ると、綺麗な顔をした長身の男が立っていた。
「おやおや。独りで泣いていたのかい?」
私に近付くと、彼は自分の着物の袖で私の涙を拭った。
何も言えず、男を見上げる。
180センチ近くあるだろうか?
この時代の人と比べてもかなり大きい。
暫しの沈黙の後
「こちらにおいで?」
男はそう言うと、私の手を引き隣の部屋に入った。
私は、何となく抗うことが出来ず……引かれるままに男に付いていってしまった。




