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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
ほのぼの番外編
31/181

日だまり


 桜が長州藩邸から戻って、数日が経った。


 あの夜


 俺とあいつは、確かに気持ちが通じたはず……


 なのに



 あいつの態度は今までと何ら変わらねぇ。



 むしろ避けられてるんじゃねぇかって程よそよそしい。





「…………おい」


「あっ! 土方サン。どうしました?」


「お前……今暇か?」


「……ごめんなさい。これから総司サンの様子を見に行かなきゃなんです。急ぎの用でしたか?」


「……いや、良い。」


 桜は軽く会釈をすると、パタパタと廊下を駆けて行った。




 昼は隊務



 夜になれば朝方まで書物と睨めっこ



 あいつは、そんな毎日を送っていた。




 そもそも、あいつ……ちゃんと寝てやがんのか?




 総司はというと……何かにつけて、あいつを独占しようとしている。



 俺とあいつの関係を分かってやっているのだろう。




「……チッ。面白くねぇ……」




 非番だというのに、特にやる事もなく時間をもて余す。





「散歩でもしてくるか……」





 思い付きで屯所を出たものの、特に行く所も無い。





「土方はん!!」





 一人の女が駆け寄ってくる。



「おう……お前か。この前は悪かったな。その、あの情報だが……役に立った」



「土方はんの為ならあれ位……。それより、土方はんが無事に長州藩邸から戻られて……うち、安心しはりました。そや、この間のお礼……してくれはりますのやろ?」



「……ああ。何が良いんだ?」



「いややわぁ……いつものでええどすえ?」



 女は少し恥じらうと、俺の手を握った。



「……悪ぃ」



 反射的に、女から手をふりほどく。



「何があきまへんの? ……今まではずっと、それでやってきたやないの?」


「……悪ぃな。アヤメ……俺ぁ、そういうのは止めたんだ」



 アヤメはポロポロ涙を流すと、俺に詰め寄った。



「……あの小娘のせいどすか?」



「……ああ。きっと、そうなんだろうな」



「うちは……それでもええどす。土方はんの一番になれんくてもええ! ただの捨て駒でもええ! せやから……うちを、捨てんといて?」



 アヤメは、俺にすがり懇願する。



 しかし



 アヤメが涙を流す姿にも、懇願する姿にも……不思議と何の感情も沸かなかった。



「悪ぃ……報酬ならいくらでもやる。だから、俺の事は……もう忘れろ」



 そう言い残すと、俺はアヤメに背を向け歩き出した。



 アヤメはその場に崩れ落ちたが、俺は決して振り返らなかった。





 面倒な女に会っちまった。





 今までは、アヤメだけに限らず言い寄る女どもを上手く手懐け、間者として島原に送り込むなどして利用してきた。




 あいつが現れてからというものの……




 そういう女では不思議と興が乗らなくなってしまった自分が居た。




 屯所に帰ぇるか。




 訳の分からない苛立ちを抱えたまま、俺は屯所に戻る事にした。






 屯所に戻ると、自然と桜を探す。




 ……特に理由は無いのだが、ただ何となくだ。




「フフッ……こんな所に居やがったのか」



 桜は書物を持ちながら、俺の部屋の前の縁側でスヤスヤと眠っていた。



「あっ……土方さ……ん?」



 桜は、気だるそうに瞼を明けると、弱々しく笑顔を見せる。



「お前……ちゃんと寝てんのか? 毎晩、遅くまで灯りが付いているだろう?」



「ちゃんと寝てますよ? ……でも、色々と調べものをしていると、ついつい寝るのが遅くなっちゃうんですよねぇ」



 俺は柱を背もたれにし、桜の隣に座る。



「……少し休め」



 そう言うと、自分の膝に桜の頭を沈め、小さく溜め息をついた。



「土方……さん」



「何だ?」



「ほら……お日様が気持ち良い……です……よ」



 桜はそう言ったかと思うと、もう既に寝息をたてていた。




「……そうだな」




 クスリと笑うと、桜の頭を撫でた。







  しれば迷い



       しなければ迷わぬ

 


               恋の道










 近藤サンと山南サンが俺を探しに来る。




「おーい。トシ~!」




 近くまで来ると、二人は俺達の姿を見て微笑んだ。




「こんな所で二人して昼寝とは……仲が良くて羨ましいですね」



「まったくだ。手なんか繋ぎやがって……。仕方がない、今日はこのまま……そっとしといてやるか」



「土方クンのこんな姿、滅多に見られませんからねぇ……今日は貴重なものが見られました」













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