情報
その頃、屯所では……
自室に籠ってしまった土方に代わり、山南が指揮を執っていた。
既に監察方は散り散りになり、情報集めに当たっている。
「原田クンと斉藤クン、永倉クンは島原に向かって下さい。島原付近で起きたとなれば……目撃しているものも居るかもしれません」
その時
一人の女性が屯所に駆け込んで来た。
「土方はん! 土方はんに通しておくれやす!」
女性は……
そう、あの帰り道に土方と親しそうに話していた女性だった。
「……どうした?」
土方が自室から顔を出す。
「大変どす! 藤堂はんを斬った者がわかりましたんや!」
その言葉に土方の表情が変わる。
「……誰だ?」
「長州の……高杉晋作どす!」
「な……に?」
女の言葉に、土方は一瞬時が止まった様に感じた。
「それは……確かな情報か?」
精一杯平然を装い、女に尋ねた。
「へぇ。置き屋の女郎が話してはりました。高杉がえらく執心している娘が居ると……。ここ数日は、その娘の情報を間者に集めさせていたそうどすえ。新選組はんがお探しの娘は……長州藩邸に居ると見てええ」
「そう……か。分かった。礼は後日……改めてする。今日はもう……下がれ」
「ひ……土方はん?」
気付けば土方は既に走り出していた。
高杉に連れ去られたとしても……長州藩邸に居るとは限らない。
しかし、土方は一厘の望みに賭けるしか無かった。
独りで藩邸に乗り込むなど無謀な事は百も承知だ。
だが、冷静になど……なっては居られなかった。
「大変どす! 土方はんが…長州藩邸に独りで行ってしまいはりました! いくら土方はんでも無謀どす!」
先程の女性が、幹部が集まる部屋に飛び込み叫んだ。
「……あんの馬鹿が!」
近藤は肘掛けを思い切り叩く。
「みなさん。長州藩邸にすぐに向かって下さい。土方クンを追うのです!」
山南が幹部たちに告げると、皆一斉に屯所を飛び出した。
残った山南と近藤は顔を見合わせると、同時に溜め息をついた。
「なぁ。山南クン……トシのあんな顔……今まで見たことが無かったんだよ。それ程に酷い面ぁしてたんだ」
「奇遇ですね。……私も、彼があんな風に取り乱す所は初めて見ましたよ。彼も人の子なのですね」
「無事……だと良いがな」
「そうですね……」




