苛立ち
気が付くと辺りはすっかり暗くなっていた。
平助は、桜の最後に見せた笑顔が頭から離れなかった。
「俺……何やってんだよ」
致命傷など与えられてはいなかった。
立ち向かおうとすれば、出来たはずだ。
全く歯が立たない相手を前にして……怖じ気づいたのだ。
「魁先生の名が……聞いて呆れる……よ、な」
悔しさと情けなさで唇を噛み締めた。
「おーい。平助! 大丈夫か!?」
突然、目の前に現れたのは原田と永倉、斉藤だった。
「平助! 嬢ちゃんはどうした!?」
原田は尋ねる。
「…………すまねぇ」
俯いて呟く平助に状況を察した三人は
「とにかく、屯所に戻って報告を」
という斉藤の声に、原田が平助を担ぎ走った。
屯所への帰り道、桜の帰りが遅いと苛立った土方が、皆に探しに向かわせたと斉藤から告げられた。
「で? どうして平助だけなんだ? ……桜はどうした?」
土方は平助に詰問する。
「俺が付いていながら……申し訳……ありません」
山崎に手当されながら、平助は起きた全ての出来事を話した。
土方は平助を一瞥すると
「監察方を総動員してでも、すぐに情報を集めてこい!!」
と山崎に告げ、部屋を出ていった。
何処の誰が連れ去ったのか…
平助をいとも簡単に斬り伏せた手練れである事以外分からない。
情報を得るなど絶望的だった。
「本当に……お前は……何処に行っちまったんだ?」
空に浮かぶ月を見上げ、土方は呟いた。
「トシっ!」
「近藤……サン?」
話を聞き駆け付けた近藤は、初めて見る土方のその表情に戸惑う。
「トシ……何て顔してんだ……」
「心配なのは分かる……だが、山崎をはじめうちの監察方は有能な奴ばかりだ。……それに。彼女ならきっと、大丈夫だ!」
近藤は上手いことは言えなかったが、必死に慰めの言葉を言う。
「……悪ぃ。先に部屋に戻るわ」
力無くそう告げると、振り返る事も無くその場を去って行った。
「…………トシ」
取り残された近藤は、初めて見る土方の表情に戸惑いつつも、追いかけることができなかった。




