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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第4章 長州 ― 藩邸での出来事 ―
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最悪な再会


 必要な物は全て買い揃えた。


 その後はお礼も兼ねて団子屋に寄り、平助クンの買い物にも付き合った。


 日も傾いてきたので、私達は屯所までの帰り路を急ぐ。


「やっべ。遊びすぎた! ……早く帰らねぇと土方サンにどやされちまう!!」


 島原の前を通り過ぎ、平助クンはこっちが近道だからと言うと、私は人気の無い路地裏へと手を引かれる。



「待てよ……」



 聞き覚えのある声に、私は思わず振り返った。


 そこには高杉晋作が立っていた。


「高……杉……?」


「おい、こんな仔犬連れて……何してんだ?」


 高杉は平助クンを一瞥すると、私の手首を掴む。



「……手ぇ離せよ!」



 平助クンが刀に手をかけ、高杉を牽制した。



 しかし



 高杉は、平助クンなど気にも止めず、掴んでいた手首を引き寄せると話し続けた。



「そういやぁ……この前の返事を聞いてなかったなぁ」



「離……して」



 声を振り絞る。



 その時、高杉の背後から平助クンが斬り込んだ。




 刹那




 高杉は私を勢いよく突き飛ばし、平助クンの刀を避けると、何の躊躇いもなく平助クンを斬り捨てた。



「平助クン!!」



 地面に倒れ込む平助クンに、私は咄嗟に駆け寄った。



「逃げ…………ろ」



 平助クンは小さく呟く。



 わざとなのか、浅めに斬られている。



 出血量も出血箇所も、見る限りでは平助クンの命には別状は無さそうだ。



 しかし、平助クンは足も斬られている様で、高杉とこれ以上闘うことは不可能だろうと思った。



「さて……ここで選択肢だ」



 高杉は表情すら変えず、キセルを吹かしながら言った。



「このまま……この仔犬を殺して、無理矢理お前を連れ去るのが良いか?」



 その言葉に、私は高杉を睨み付ける。



「お前が自分からおとなしく俺に付いてくるのが良いか?」



 高杉は私の反応を楽しむかのように告げると、不敵な笑みを見せた。




「さぁ……どちらが良い?」




 そんなの……




 答えは決まっている。




 これ以上斬りつけられなければ平助クンが死ぬ事はまず無いだろう。



 ここならば島原も近い。



 誰かに見付けてもらえさえすれば、平助クンは助かる。



 意を決して、高杉の元へ歩み寄る。




 平助クンは「行くな!」と叫んでいるが……不利な状況なのは一目瞭然だ。





「わかった、行く!! ……だから、これ以上平助クンに手を出さないで!」



 高杉はニヤリと笑う。



「賢い女は嫌いじゃねぇさ」



 そう満足そうに言った。



「あっ……ちょっと待って!」



 高杉にそう言うと、私は自分の着物を引き裂き、手早く平助クンの傷口を止血した。



「平助クン。私は……大丈夫だから、ね?」



 平助クンに笑顔でそう告げ、急いで高杉を追いかけた。




 平助クンは何やら叫んでいたが、今度は振り返らなかった。







 高杉と私は歩きながら話す。



「お前……手慣れてやがるな?」



「何が?」



「手当が……だ」



「本職だもん」



「そうか。ところで、あの仔犬も……新撰組か?」



「…………」



「隠す必要はねぇさ。お前は新選組に居んだろう? んなくれぇ、とっくに調べはついているさ……」



「そうよ! だから、高杉と居たら……まずいの!! わかるでしょう?」



「そうさなぁ……」



 高杉は笑う。



「ところで、お前は何故逃げない?」



「逃げた所で逃げ切れないだろうから。……それに、貴方は戻って平助クンを斬るでしょう?」



「ほう? 分かってんじゃねぇか」



 高杉は、満足そうな表情を浮かべる。





 しばらく歩くと大きな屋敷に着いた。



 長州藩邸だ。



「高杉! 何をして居たのだ? この大切な時期に……お前という奴は……まったく!」



 門をくぐるなり、先日会った桂サンという男が高杉に詰め寄る。



「ん? ……このおなごは、あの時の?」



「おい。桂ぁ……女中に言ってこいつに着替えをさせろ。それと……俺の隣の部屋を与えてやれ」



 無惨にも引き裂かれており、挙げ句血がべっとりと付いた私の着物を見た桂サンは、茫然とする。



「高杉っっ! お前は……この娘に一体何をしたんだ!?」



「女みてぇにギャアギャアうるせぇ野郎だなぁ……俺ぁ着替えてくる。とにかく、こいつを頼んだぞ?」



 高杉は一方的に桂サンに告げると、自室へと戻って行ってしまった。

















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