治療
山崎サンに相談してから数日が経った。
言っていた通り、近藤サンや土方サンや山南サンに話をしてくれた様で、三人は総司サンの治療に賛同した。
ただ、厄介だったのは……当の本人だった。
年明けまでは隊務には参加せず、自室にて安静にしていること。
免疫力が落ちない様に、食事は全て食すこと。
服薬は必ず行うこと。
最後まで総司サンは文句を言っていたが、私が毎日看病するという条件付きで、最終的には承諾した。
どちらにせよ、結核は空気感染のため隔離が必須だ。
それに、早く治薬を作らなければ、感染者が増えるだけだ。
私とて、肺結核に罹患する可能性は、この時代の皆と等しくある。
土方サンは私への感染を気にしていたが、私は結核にはかからないからと嘘を言い、何とか説き伏せた。
動かねば
闇にへだつや
花と水
この時代に来る前、総司サンのこの時世の句を読んだとき、胸が苦しくなったのを今でも覚えている。
近藤サンや土方サンを気にかけながらも、病床で散って行った総司サン。
「お前は……良い方向に俺達を導いてくれるんだろう?」
土方サンの言葉がこだまする。
例えそれが歴史を変える結果になったとしても……救いたい。
武士として……散る場所は総司サンにも選ばせてあげたい。
あんな句を詠ませたくない。
それが私のエゴだとしても……
医務室での隊務が落ち着くと、頻繁に総司サンの部屋に向かうようにしていた。
何故なら……
暇をもて余すと、総司サンはすぐに脱走してしまうからだ。
安静とはいえ、激しい運動などをしない限りは良いのだが……
総司サンは出掛けると決まって、近所の子供たちと鬼ごっこ等をして遊んでいる。
それに、出掛けた際に不逞浪士に絡まれる事もしばしばあるので、なるべくなら脱走して欲しくはない。
「総司サン。入りますよ?」
「どうぞ~」
病人には到底見えない様な笑顔で招き入れる。
「あと少し遅かったら出掛けちゃってたよ~。今まで剣術ばかりだった分、安静に……なんて言われても、どうして良いか分からなくて」
口を尖らせる。
「確かに……暇ですよねぇ。じゃあ、今度また餡蜜でも食べに行きましょうか?」
「行く行く! そうだなぁ……明日あたり行ってみようよ?」
「わかりました。その代わり……お薬はちゃんと飲んで下さいね」
「……はぁい」
総司サンは、嫌そうな顔で小さく返事をした。
屯所内に籠りきりでは気が滅入るので、一緒に出掛ける時間を設ける様にしていた。
総司サンと出掛ける際は、不逞浪士と行き逢ってしまった時の為に、必ず誰か他の隊士も連れていく様にと近藤サンに言われていたが、総司サンは本心では納得していないようだった。
「二人きりで出掛けられないなんて……つまんないなぁ」
総司サンは不満を漏らす。
「病気が治れば、また二人で出掛けられますよ」
「ねぇ……本当に治るのかなぁ」
その問いにドキッとする。
ちゃんとした薬剤がまだ無いこの時代
私は、治る可能性がある物に賭けているだけであって、治るか治らないかは……実際私にも分からない。
「治してみせますよ! ……未来の医学を見くびってもらっちゃあ困ります!!」
私は、総司サンに本当の事を悟られないよう、わざと明るく言い切った。
「そっか」
総司サンは小さく呟くと笑顔に戻った。
その後医務室の整理を行い、これから買い出しに行く事になっていた。
あの日以来
一人で勝手に街に行かないよう、土方サンにキツく言われていた。
買い出しは女中に頼むか、幹部クラス以上の隊士を必ず連れていくこと。
夕刻までには必ず戻る事。
何やら門限の様なものまで追加されていた。
そんな訳で、今日は平助クンに頼む事にしたのだ。
「おーい。桜ぁ、もう行けるかぁ?」
平助クンが医務室に訪ねてくる。
「うんっ。大丈夫! ……折角の非番なのに、付き合わせちゃってゴメンね?」
「良いって、良いって。どーせ暇してたからさぁ」
「護衛。よろしくお願いいたします」
「おうっ。任せとけ!」
私たちは顔を見合わせて笑うと、屯所を後にした。




