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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第4章 長州 ― 藩邸での出来事 ―
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治療


 山崎サンに相談してから数日が経った。



 言っていた通り、近藤サンや土方サンや山南サンに話をしてくれた様で、三人は総司サンの治療に賛同した。



 ただ、厄介だったのは……当の本人だった。




 年明けまでは隊務には参加せず、自室にて安静にしていること。


 免疫力が落ちない様に、食事は全て食すこと。


 服薬は必ず行うこと。



 最後まで総司サンは文句を言っていたが、私が毎日看病するという条件付きで、最終的には承諾した。


 どちらにせよ、結核は空気感染のため隔離が必須だ。



 それに、早く治薬を作らなければ、感染者が増えるだけだ。



 私とて、肺結核に罹患する可能性は、この時代の皆と等しくある。



 土方サンは私への感染を気にしていたが、私は結核にはかからないからと嘘を言い、何とか説き伏せた。




  動かねば



      闇にへだつや



            花と水




 この時代に来る前、総司サンのこの時世の句を読んだとき、胸が苦しくなったのを今でも覚えている。




 近藤サンや土方サンを気にかけながらも、病床で散って行った総司サン。




「お前は……良い方向に俺達を導いてくれるんだろう?」



 土方サンの言葉がこだまする。




 例えそれが歴史を変える結果になったとしても……救いたい。




 武士として……散る場所は総司サンにも選ばせてあげたい。





 あんな句を詠ませたくない。





 それが私のエゴだとしても……







 医務室での隊務が落ち着くと、頻繁に総司サンの部屋に向かうようにしていた。



 何故なら……



 暇をもて余すと、総司サンはすぐに脱走してしまうからだ。


 安静とはいえ、激しい運動などをしない限りは良いのだが……


 総司サンは出掛けると決まって、近所の子供たちと鬼ごっこ等をして遊んでいる。


 それに、出掛けた際に不逞浪士に絡まれる事もしばしばあるので、なるべくなら脱走して欲しくはない。





「総司サン。入りますよ?」


「どうぞ~」



 病人には到底見えない様な笑顔で招き入れる。



「あと少し遅かったら出掛けちゃってたよ~。今まで剣術ばかりだった分、安静に……なんて言われても、どうして良いか分からなくて」



 口を尖らせる。



「確かに……暇ですよねぇ。じゃあ、今度また餡蜜でも食べに行きましょうか?」



「行く行く! そうだなぁ……明日あたり行ってみようよ?」



「わかりました。その代わり……お薬はちゃんと飲んで下さいね」



「……はぁい」



 総司サンは、嫌そうな顔で小さく返事をした。




 屯所内に籠りきりでは気が滅入るので、一緒に出掛ける時間を設ける様にしていた。




 総司サンと出掛ける際は、不逞浪士と行き逢ってしまった時の為に、必ず誰か他の隊士も連れていく様にと近藤サンに言われていたが、総司サンは本心では納得していないようだった。



「二人きりで出掛けられないなんて……つまんないなぁ」



 総司サンは不満を漏らす。



「病気が治れば、また二人で出掛けられますよ」



「ねぇ……本当に治るのかなぁ」



 その問いにドキッとする。



 ちゃんとした薬剤がまだ無いこの時代



 私は、治る可能性がある物に賭けているだけであって、治るか治らないかは……実際私にも分からない。




「治してみせますよ! ……未来の医学を見くびってもらっちゃあ困ります!!」




 私は、総司サンに本当の事を悟られないよう、わざと明るく言い切った。



「そっか」



 総司サンは小さく呟くと笑顔に戻った。






 その後医務室の整理を行い、これから買い出しに行く事になっていた。



 あの日以来



 一人で勝手に街に行かないよう、土方サンにキツく言われていた。



 買い出しは女中に頼むか、幹部クラス以上の隊士を必ず連れていくこと。



 夕刻までには必ず戻る事。




 何やら門限の様なものまで追加されていた。




 そんな訳で、今日は平助クンに頼む事にしたのだ。



「おーい。桜ぁ、もう行けるかぁ?」



 平助クンが医務室に訪ねてくる。



「うんっ。大丈夫! ……折角の非番なのに、付き合わせちゃってゴメンね?」



「良いって、良いって。どーせ暇してたからさぁ」



「護衛。よろしくお願いいたします」



「おうっ。任せとけ!」



 私たちは顔を見合わせて笑うと、屯所を後にした。






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