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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第3章 治療薬 ― 医術の覚え ―
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土いじり


 昨晩は色々とあったため、山崎サンと話す時間が持てなかった。


 あの晩の夕げの席での事は、斉藤サンが土方サンに言ったように、皆にも話してくれていた。


 朝餉の際



「昨日は悪かったな」



 平助クンはボソリと耳打ちすると、小さな包み紙に入った金平糖をこっそり私に手渡してくれた。


 平助クンのそんな行動に、皆に嘘をついている事への罪悪感が高まる。


 午後になり、隊務も一段落ついたので、山崎サンを探すことにした。





「山崎サン……桜です。入っても宜しいでしょうか?」


「桜か……。入れ」


「失礼します」



 山崎サンは今日は非番のようで、珍しく着流しを着ていた。



「何かあったのか?」


「はい。実は……」



 以前、話した総司サンの結核の件と、それを治せ得る物の事を話した。



「それは素晴らしい。……ミミズという所に些か抵抗があるが」



 そう山崎サンは言っていたが、



「ただ……少し不安な事があります」



 と私が言うと、山崎サンは表情を曇らせた。



「何が問題なんだ? 実際に民の間で使われていたなら、特に問題はないと思うが……」



 山崎サンは首を捻った。



 順を追って説明する。



 まず



 私の時代の、放線菌を原料としたその薬は、聴力障害など重い副作用があるという事。


 それに、その薬は筋肉注射であるため、経口的に服用したとして、期待する程の効力があるのかという事。


 民間療法で使われていた、ミミズを日干しにして服用したり、煎じて服用したりする事で、薬同様の副作用が出たり、またはミミズが持つ他の菌による弊害がでるのではないかという恐れ。




 一つ一つ、丁寧に説明した。




 山崎サンは少し考えると、口を開いた。



「だがな……何もしなければ、ただ死を待つのみだ。ほんの欠片程だとしても、そこに望みがあるのならば……試してみる価値はあると思うが……違うか?」




「そう……ですよね」




「局長や副長達には俺から話しておこう。二人や総司の意向を伺ってから、お前にも伝える。念のため、準備だけは進めておいて欲しい」




「わかりました。お願いします」




 話は終わったので、山崎サンの部屋を出ようと立ち上がったその時




「……ちょっと待て」




 私は山崎サンに呼び止められる。



「まだ何か?」



 先程の場所へ座り直した。



「いや……たいした事ではないのだが……」



 やけに歯切れが悪い。



 何か言いにくい事なのだろうか。



「その……なんだ?昨夜の事なのだが……」



「昨夜?」



 昨夜は山崎サンには会って居なかったので、何が言いたいのか全く分からなかった。



「昨夜、隊務から帰ってすぐ副長に報告を上げに行ったんだがな……相当機嫌が悪くて……だな」



 山崎サンは、言いにくそうな表情で話す。



「山南サンに聞いたところ、お前と斉藤が副長に無断で出掛けて行ったからだ……と言う」



「無断で……って。そもそも、土方サンは出掛けていたんですよ? 夕餉に居た皆さんは事情を理解して下さっていましたし……」



「まぁ……そうなんだが」



 山崎サンは溜め息を一つつき、続けた。




「副長は……ああ見えて独占欲が強いからなぁ」




 山崎サンは窓の外を眺めて言った。



「!? 独占欲? ……意味がわかりませんっ!」



 山崎サンはその反応に笑うと



「副長はお前の事が心配で仕方がないんだよ。だから、軽率な行動は控えるこった……」



 そう言った。



 近藤サンと同じことを言われてしまった。




 あの人が……心配する?




 ……ない、ない。




 心の中で否定する。




「副長が不機嫌だと、こちらも隊務がやりにくくなるからなぁ……まぁ、そういう事だ。頼んだぞ! ……話は以上だ」



 いまいち納得が行かなかったが、山崎サンに食い下がっても仕方がないので、下がることにした。



「……失礼します」




 最後によく分からない話をされたが……総司サンの件に関しては話が済んだので、早速準備を進める事にした。



 そこで、不意に気付く。




 ……ミミズ!!




 私が捕まえるの!?




 ミミズに触れるなど果てしなく嫌だったが、私がやるより仕方がない。




 準備を整えると心を無にして屯所内の庭を堀り進める。




 ある程度集まった所で水洗いし、医務室付近の庭の一角に干してみた。



 あとは、煎じて薬にすればすぐに使える。



 天日干しにして粉末にしようと思ったが、ミミズに居る他の菌を少しでも弱毒化させる為に、熱を加えようと思った。



 そうする事で、放線菌以外の菌で起こり得る副作用的なもののリスクを少しでも回避したい。




「これで良しっ!」




 大きく伸びをすると、医務室に戻った。










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