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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第27章 取り戻された日常
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誰の小姓?



「手当ては終わったか? 近藤サンも皆も待っている。早く広間に来い」



 医務室での手当ても終わった頃、トシと総司サンが私達を呼びに来た。


 急いで広間へ向かうと、トシの言う通り既に皆が集まっていた。





「お? やっと来たか! いやぁ……それにしても小せぇなぁ。平助よりも小せぇ隊士なんて初めてだな」


 原田サンは、鉄クンの頭を撫でながら言う。


「小さい、小さい言うな! 背丈はこれから伸びるんだ!」


 鉄クンは頬を膨らませる。


「悪ぃ、悪ぃ。俺ぁ原田左之助、左之って呼んでくれて良いからな」


「左……之?」


「そうだ、左之だ。いやぁ……それにしても子供は可愛いねぇ。息子ができたみてぇだな」


 原田サンは子供好きなのだろうか?


 鉄クンを見る目が、何だか父親のようだ。


「左之、息子じゃなくて弟ぐれぇにしとけよ。歳を感じるのも、何だかむなしくねぇか?」


「新八っつぁんも左之サンも、いい加減そういう歳なんだから仕方ねぇんじゃねぇの?」


「何だと!? 平助!」


「何だよ、本当の事を言っただけだろ?」


「お前……さては、あの子供に妬いてやがるな?」


「はぁ!? どうして、そうなるんだよ」


「小さくて可愛い隊士が入っちまって、みんながそっちを構うから拗ねてんだろ」


「そ……そんな事ねぇよ!」


 二人は立ち上がり、取っ組み合いの喧嘩に発展する。



「やめんか! 新入隊士の前で幹部が争うなど、以ての外だ。見苦しい!」



 近藤サンの一喝により、二人は小さく謝ると腰を下ろした。



「さてと……このチビ助だが、名を市村鉄之助という。齢は13だそうだが、中々気概のある奴だ。今日をもって、新選組の隊士として迎え入れる」



 トシはみんなに説明した。


「そうなると、コイツを何処の組に入れるかが問題だ」


「俺が面倒見てやるぜ」


「十番組か……悪ぃが、十番組と二番組は駄目だ。それから、八番組もな」


「な……何でだよ!」


 原田サンは納得の行かない表情をしている。


 二番組は永倉サン、八番組は平助クン……そして十番組は原田サンだ。


 どうしてこの三人は駄目なのだろう?


「コイツを島原漬けにさせる訳にはいかねぇからな。入って早々、島原にハマって切腹じゃ後味が悪ぃ。それに、体力勝負の十番組は……コイツが入るにはキツイだろう」


「まぁ……そうだよなぁ。俺んトコは確かにキツイかもしれねぇなぁ」


 トシの説明に、原田サンは納得したようだ。



「トシ……少し良いか?」



 近藤サンが間に割って入る。



「この子は気概があるとはいえ、まだ年端も無い。どうだろうか……背丈が平助程になるまでは、組に入れず小姓とするというのは」


「そうだな……正直、コイツを実戦に出すのは心許無ぇなぁ。だが……誰の小姓にする? 近藤サンはいらねぇだろう?」


「だから……トシの小姓にすれば良いじゃないか」


「はぁ!? 俺だって小姓など不要だ」


 近藤サンの提案に、トシは珍しく反論する。


「じゃあさぁ、僕が貰ってあげますよ」


 総司サンは笑顔で手を挙げている。


「そ……総司が!?」


「だって、土方サンは桜チャンが居るからイラナイだろうし、近藤サンにだって雛菊サンが居るもんね」


「だ……大丈夫なのか?」


「嫌だなぁ、土方サン。もしかして僕が鉄を虐めるとでも思ってます? そんな大人げない事はしませんよ」


 トシは何だか不安そうな表情を浮かべている。


「良いじゃないか。鉄は総司に任せる事で決まりだな」


 近藤サンの一言で、あっさりと話は決まってしまう。


 平助サンくらいの身長になるまでは、鉄クンは総司サンの小姓として過ごし、その後は一番組に入るという事で話は終わる。


「鉄、明日から稽古をつけてやる。一番組になるならば、負ける事は許さないからそのつもりで稽古に励みなよ?」


「おう! 総司を早く越せるようになってやるから、総司こそ覚悟しとけよ?」


「お前、やっぱり生意気だね。でも、面白そうだから許してやる」


 何だか二人は楽しそうだ。


 そんな様子を見て、少しホッとする。



「総司の奴、嬉しいんだろうよ」


 トシはポツリと呟いた。


「どうして?」


「今までは年長者を追いかけてばかり居たからな。ああやって誰かの面倒を見るのは新鮮なんだろうよ?」


「そうだね……何だか兄弟みたい」


 笑い合う総司サンと鉄クンの姿を、私達はしばらくの間眺めていた。





 翌日から、鉄クンの小姓生活が始まる。


 史実ではトシの小姓だったが、まさか総司サンの小姓になるとは……


 何だか不思議な感覚だ。


 だが、これはこれで良いのかもしれない。


 共に早朝から汗を流し稽古に励む姿や、食事を摂る姿……それに時折、喧嘩をしては仲直りする姿。


 そんな二人の和やかな雰囲気を見て、私はそう思った。



「サク姉! これから総司と甘味屋に行こうぜ?」


「お前……そんな金持ってるわけ?」


「そんなの総司の奢りに決まってんだろ? まだ給金が出ねぇんだから仕方がねぇじゃん。それとも総司はそんなにケチな男なのか?」


「本当に生意気な奴。まぁ……良いや。仕方が無いから今回は奢ってあげる。葵の店に行くから、桜チャンもおいで?」



 私は小さく返事をすると、二人と共に甘味屋へと向かう。



 やっぱり、新選組って……



 なんだか家族みたい!



 小さな弟分を加え、新選組もより一層賑やかになっていった。





 

『桜前線此処にあり』の総合500PT記念に短編を投稿しました。

宜しければこちらもご覧下さい。


http://book1.adouzi.eu.org/n1771bv/


今後もラストまで、本編にお付き合い頂ければ幸いです。



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