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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第26章 意図せぬ帰還
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嵐の後




「ちょっと待ったぁ!!」




 その声に目蓋を開く。


 そこには、私の前に立ちはだかる影が五つあった。


 永倉サンに原田サン、斉藤サンに平助クン、そして総司サンだ。



「みんな……」



 私は突然の出来事に困惑する。



「土方サン! アンタが嬢ちゃんを斬るって言うなら、俺は容赦はしねぇ! なっ、左之!」


「おうよ! 新ぱっつぁん、十番組組長 原田左之助が……相手するぜ!」


「俺だって! 桜を守る為なら、土方サンと相打ちになったとしても……加勢するに決まってんだろ!」


「仕方が無い……俺も行こう」


 永倉サンに原田サン、平助クンに斉藤サンの四人は刀に手を掛ける。



「五対一ですってよ? 土方サン。悪いけど僕も桜チャンの味方なんですよね。土方サンがどうしても斬るって言うなら……僕は躊躇なく土方サンを斬る!」



 総司サンの言葉に、永倉サンらは頷いた。



「お前ら……邪魔するならば、みんなまとめて切腹だ!」



 トシは五人を脅すかのように言った。



「もっと状況をよく見た方が良いんじゃないんですかい? 土方サンが生き残っていたら……切腹でも何でもしてやりますよ」



 総司サンは、刀を抜くと切っ先をトシへと向けた。



「やめんか! お前たち……すぐに刀を収めろ!」



 近藤サンの言葉に、全員刀を鞘に収めた。



「総司……お前たちの気持ちは分かるがな。仲間同士で争ってどうする?」


「……すみません」


 総司サンは小さく謝った。


「トシもだ! お前はいい加減素直にならんか!」


「な……何言ってやがんだ、近藤サン」


「自分の感情を押し殺してまで、辛い選択をする事は無い。嬉しいなら、嬉しいと言っても良いんだ」


「はぁ!? 訳わかんねぇ事を言わねぇでくれよ」


「本当にわからんのか?」


 近藤サンの問いかけに、トシは口をつぐんだ。


「それから、桜サン。君もだ! 二人して意地を張り合っていては、何も良い事はない。もっと素直になりなさい」


「近藤……サン」



 この場に居た全員がそれぞれ、近藤サンから諭される。



 みんな、バツの悪そうな顔をしていた。



「桜サンが坂本や高杉らと関わっていた事に関しては、私にも責任がある。だから、この件に関しては何も聞かなかった事にする。桜サンの役職も今まで通りだ。それでも文句のある奴は、私のところに来なさい!」



 そう言うと、近藤サンは部屋を去って行った。



「嬢ちゃん! 良かったな」


 原田サンと永倉サンが同時に飛びついてくる。


「ちょ……ちょっと、痛いですってば!」


「細けぇ事は気にすんじゃねぇ!」


 永倉サンは、私の頭を思いっ切り撫でる。


「ちょっと、ちょっと! 何やってんだよ。桜が痛がってるじゃんかよ」


「コイツはまだ傷が痛むはずです……そろそろ離れてやってはいかがですか?」


 平助クンと斉藤サンが、私から原田サンと永倉サンを引きはがす。



「何か言う事があるんじゃないですか? 土方サン」



 総司サンは土方サンに耳打ちした。



「うるせぇ……」



 トシはそう呟くと、私の方へと歩み寄る。


 それに気付いた四人は、私の周りからそっと離れた。



「よく……帰って来たな」



 みんなの前だと言うのに、トシは構うことなく私を強く抱きしめた。


 そんなトシの行動に私を含め、みんなが驚きの表情を浮かべる。


 身体に触れられただけでも傷が痛むのだが、そんな事はどうでも良くなってしまいそうだった。



「もう……何処にも行くんじゃねぇよ」



 トシの震える声に、上手く返事が出来ず、私は小さく頷いた。



「良かった、良かった! 嬢ちゃんが居なくなってから土方サンは、おっかなかったもんなぁ」


 原田サンは、何かを思い出すように言った。


「屯所内の雰囲気も最悪だったんだぜ? みんないつも土方サンの顔色を窺っててさぁ……」


 平助クンは深い溜息をつく。


「これで、腹ぁ斬る奴も減るだろうよ」


 永倉サンは笑顔になる。


「全く……土方サンは素直じゃないんだから。アンタ一体いくつなんですか? もうちょっと、大人の余裕を見せたらどうですかい?」


 総司サンはトシを煽るように言った。


「その辺にしておいた方が良い……そろそろマズイと思うのだが」


 斉藤サンは冷静な表情で、皆をたしなめる。



「お前ら……空気読め! 人が黙って聞いてりゃあ、ごちゃごちゃ好き勝手な事を言いやがって……うるせぇんだよ!」



 トシは私から離れると、五人に向かって一喝した。



「わぁ! 土方サンが怒ったぁ! みんなぁ逃げろー」



 笑いながら部屋から出て行く総司サンに、残りの四人も後に続いた。


 うるさかった部屋もシンと静まり返り、まるで嵐が過ぎ去った様だ。


 急に二人きりになり、何だか気恥ずかしくなる。


 何を話せば良いのだろう?


 どんな表情をすれば良いのだろう?


 私は、困り果ててしまう。



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