嵐の後
「ちょっと待ったぁ!!」
その声に目蓋を開く。
そこには、私の前に立ちはだかる影が五つあった。
永倉サンに原田サン、斉藤サンに平助クン、そして総司サンだ。
「みんな……」
私は突然の出来事に困惑する。
「土方サン! アンタが嬢ちゃんを斬るって言うなら、俺は容赦はしねぇ! なっ、左之!」
「おうよ! 新ぱっつぁん、十番組組長 原田左之助が……相手するぜ!」
「俺だって! 桜を守る為なら、土方サンと相打ちになったとしても……加勢するに決まってんだろ!」
「仕方が無い……俺も行こう」
永倉サンに原田サン、平助クンに斉藤サンの四人は刀に手を掛ける。
「五対一ですってよ? 土方サン。悪いけど僕も桜チャンの味方なんですよね。土方サンがどうしても斬るって言うなら……僕は躊躇なく土方サンを斬る!」
総司サンの言葉に、永倉サンらは頷いた。
「お前ら……邪魔するならば、みんなまとめて切腹だ!」
トシは五人を脅すかのように言った。
「もっと状況をよく見た方が良いんじゃないんですかい? 土方サンが生き残っていたら……切腹でも何でもしてやりますよ」
総司サンは、刀を抜くと切っ先をトシへと向けた。
「やめんか! お前たち……すぐに刀を収めろ!」
近藤サンの言葉に、全員刀を鞘に収めた。
「総司……お前たちの気持ちは分かるがな。仲間同士で争ってどうする?」
「……すみません」
総司サンは小さく謝った。
「トシもだ! お前はいい加減素直にならんか!」
「な……何言ってやがんだ、近藤サン」
「自分の感情を押し殺してまで、辛い選択をする事は無い。嬉しいなら、嬉しいと言っても良いんだ」
「はぁ!? 訳わかんねぇ事を言わねぇでくれよ」
「本当にわからんのか?」
近藤サンの問いかけに、トシは口をつぐんだ。
「それから、桜サン。君もだ! 二人して意地を張り合っていては、何も良い事はない。もっと素直になりなさい」
「近藤……サン」
この場に居た全員がそれぞれ、近藤サンから諭される。
みんな、バツの悪そうな顔をしていた。
「桜サンが坂本や高杉らと関わっていた事に関しては、私にも責任がある。だから、この件に関しては何も聞かなかった事にする。桜サンの役職も今まで通りだ。それでも文句のある奴は、私のところに来なさい!」
そう言うと、近藤サンは部屋を去って行った。
「嬢ちゃん! 良かったな」
原田サンと永倉サンが同時に飛びついてくる。
「ちょ……ちょっと、痛いですってば!」
「細けぇ事は気にすんじゃねぇ!」
永倉サンは、私の頭を思いっ切り撫でる。
「ちょっと、ちょっと! 何やってんだよ。桜が痛がってるじゃんかよ」
「コイツはまだ傷が痛むはずです……そろそろ離れてやってはいかがですか?」
平助クンと斉藤サンが、私から原田サンと永倉サンを引きはがす。
「何か言う事があるんじゃないですか? 土方サン」
総司サンは土方サンに耳打ちした。
「うるせぇ……」
トシはそう呟くと、私の方へと歩み寄る。
それに気付いた四人は、私の周りからそっと離れた。
「よく……帰って来たな」
みんなの前だと言うのに、トシは構うことなく私を強く抱きしめた。
そんなトシの行動に私を含め、みんなが驚きの表情を浮かべる。
身体に触れられただけでも傷が痛むのだが、そんな事はどうでも良くなってしまいそうだった。
「もう……何処にも行くんじゃねぇよ」
トシの震える声に、上手く返事が出来ず、私は小さく頷いた。
「良かった、良かった! 嬢ちゃんが居なくなってから土方サンは、おっかなかったもんなぁ」
原田サンは、何かを思い出すように言った。
「屯所内の雰囲気も最悪だったんだぜ? みんないつも土方サンの顔色を窺っててさぁ……」
平助クンは深い溜息をつく。
「これで、腹ぁ斬る奴も減るだろうよ」
永倉サンは笑顔になる。
「全く……土方サンは素直じゃないんだから。アンタ一体いくつなんですか? もうちょっと、大人の余裕を見せたらどうですかい?」
総司サンはトシを煽るように言った。
「その辺にしておいた方が良い……そろそろマズイと思うのだが」
斉藤サンは冷静な表情で、皆をたしなめる。
「お前ら……空気読め! 人が黙って聞いてりゃあ、ごちゃごちゃ好き勝手な事を言いやがって……うるせぇんだよ!」
トシは私から離れると、五人に向かって一喝した。
「わぁ! 土方サンが怒ったぁ! みんなぁ逃げろー」
笑いながら部屋から出て行く総司サンに、残りの四人も後に続いた。
うるさかった部屋もシンと静まり返り、まるで嵐が過ぎ去った様だ。
急に二人きりになり、何だか気恥ずかしくなる。
何を話せば良いのだろう?
どんな表情をすれば良いのだろう?
私は、困り果ててしまう。




