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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第22章 門出
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大仕事


 グラバーさんと別れた後


 龍馬サンは取引の支度があるとの事で、私たちは亀山に戻った。


 品物は既に会社に届けられており、亀山社中のメンバーが手分けして物を確認していた。




「わしゃ、まだやる事があるき……おまんはそこに座って、ちくっと待っとおせ」


 龍馬サンに言われるまま、腰を下ろす。


 やる事も無かった私は、先程グラバーさんから受け取った銃を取り出した。


「本当に小さいなぁ……」


 掌サイズの銃など初めて見た。


 アーネストさんや龍馬サンの物と比べると、その差は一目瞭然だ。


 そんな小さな銃に彫刻が施されている。


 人を殺傷する道具なのに、その美しさに惹かれてしまう。


「桜サン! すまんが、ちくっと来とおせ」


 不意に龍馬サンに呼ばれ、慌てて銃を仕舞いこんだ。





 龍馬サンの元へ行くと、そこには既に来客があった。


 その顔ぶれを見た私は、こんな偶然もあるものなのかと驚いた。


「あ! アンタはあの時の!」


 荘蔵サンは立ち上がると、私の元へ駆け寄った。


「荘蔵! まだ話の途中だ」


 新助サンは荘蔵サンを制止する。


「構わんきに。なんじゃ、桜サンはこの二人を知っちゅうがか? おまんは、まっこと顔が広いのぉ」


 今日この場に現れた取引相手。


 それは、あの日私を助けてくれた二人組だった。


 そうか……


 薩摩藩名義でグラバーさんから購入したこれらの武器。


 長州に流すというのも史実の一つ。


 薩長同盟に向けての礎となる一歩。


 武器を受け取りに来る人物がこの二人……伊藤博文と井上馨だったとは知らなかった。


 いや、この場では吉村荘蔵と山田新助……か。


「このお二人は、先日私が暴漢に襲われそうになっていたところを、助けて頂いたのです。龍馬サンには報告が今になってしまい、すみません」


「ほうか、そげな事があったがかや。けんど、おまんが無事で良かったき」


 龍馬サンに簡単にいきさつを話した。


「この娘は、坂本サンの嫁さんですか?」


 荘蔵サンは龍馬サンに尋ねた。


「荘蔵! 今はそんな事を聞いている場合ではないだろう!」


「山田サン、ええんじゃ。桜サンは、わしの嫁さんじゃなか。わしには、おりょうっちゅう女が居るき。おりょうち言うのがまた……」


 グラバーさんの元であれだけ語ったのに、まだ足りないのだろうか?


 龍馬サンは例のごとく、おりょうさんについて語りだしてしまった。


 そんな姿を見て、私は深い溜息を一つつく。


 龍馬サンに、おりょうサンの話はしないようにしよう……そう痛感する出来事だった。


「さ……坂本サン。すみませんが、私たちもあまり時間がありませんので、その話はこの辺りで……」


「なんじゃ。これからが良いとこじゃったやか」


 耐え切れずに龍馬サンを止めたのは、新助サンだった。


「そういえば……どうして私を呼んだのですか?」


 龍馬サンが私を呼んだ理由が気になり、尋ねた。


「ほうじゃた、ほうじゃった。忘れちょったぜよ。実はなぁ……おまんを萩へ連れてっちゃろうと思ぉてな」


「萩に……ですか?」


「わしゃあ、まだ行かれそうもないき。じゃが、山田サンらがちょうど萩に戻る言いよるきに、おまんを連れてくよう頼んだがじゃ。おまんは先に行って待っとおせ」


 早く所サンに会い、その仕事を手伝いたいと考えて居た私にとっては、それは願ってもない話だった。


「宜しいのですか?」


 私は、新助サンと荘蔵サンに尋ねる。


「勿論ですよ。聞けば、高杉サンや桂サンとも親しいそうで……。それならば、私たちは責任を持って貴女を萩までお連れ致しましょう」


「新助サン……ありがとうございます! 長州には、どうしてもお会いしたい方が……恩師が居ますので、本当に嬉しいです」


「それでは、長崎を発つのは明朝……という事で宜しいかな?」


「はい!」



 こうして、私の長州行きは突然決まった。



 長州に行き所サンに会い、その手伝いをして暮らせれば良い。



 私が新選組で暮らしている間に、長州ではなにが起こっていたのか?



 そんな事は全く知らなかった私は、勝手にそう考えていた。



 この後



 長州にて悲しい事実を知る事になるとは、この時の私には知る由も無かった。











 

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