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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第21章 京桜看護塾
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開校



「お前、まだ寝ねぇのか?」



「うん……もうちょっとだけ、ね」



「明日、早ぇんじゃねぇのか? さっさと寝ねぇと身体に障るぞ」



「うん……でも、ここまで終わらせたいから。ごめんね、トシも寝たいよね。明るいと寝られないもんね……続きは医務室でやろうかな」



「俺は別に眠れるから良いさ……だが、お前がだなぁ……」



 明日の開校に向け、私は様々な準備を行っていた。


 容保様が講師を手配して下さったお蔭で、医学系の講義は医師たちに全て任せることができる。


 私は看護分野のみを担当すれば良い。


 ……とはいえ


 人に教えるという事は、自分が完璧に覚えていなければ出来やしない。


 そんなこんなで、気付けば既に深夜……となっていた訳だ。


 看護技術の教科書を閉じると、灯りを消して布団に潜り込んだ。




 これからも、夜遅くまで起きている事もあるだろうし……部屋をトシと別にしてもら……おう……かな。



 そう考えながら眠りにつく。







 翌日


 朝餉を終えると、早速ウィリアムさんとアーネストさんがやって来た。


「サクラ! おはようございます。今朝も可愛らしいですね。そうそう……昨日はありがとうございました。とってもcuteで素敵でしたよ」



 アーネストさんは私の前でひざまずき、手を取り挨拶する。



「おい、お前! うちの桜に気安く触れねぇでもらおうか?」



 トシの低い声がしたと思った瞬間、私はアーネストさんから力任せに引き剥がされていた。



「お前……何者だ? 異国の医者は一人だった筈だが?」


「申し遅れました。私はアーネスト、通訳官です! 貴方とサクラの関係は存じませんが……女性をその様に手荒に扱うなど、いけませんね」


「うるせぇよ! お前にゃ関係ねぇだろうが」


「関係無いかどうかは、貴方でなくサクラが決める事ですよ? 少なくともね、サクラは私たちの文化にも理解がありますからね。さて、私はウィリアムを送りに来ただけですからね……サクラの顔も見られた事ですし、そろそろ失礼しますよ」



 アーネストさんはトシを挑発する様な言葉を残し、去って行った。



「……なんだ、あの異人野郎は! まったくもって、いけすかねぇなぁ……おい、アイツに安易に近付くんじゃねぇぞ」


「はい、はい。分かりました! それじゃあ、私は教室に行くからね。また後で!」


「あっ、おい!」


 まだ何か言いたそうなトシを置き去りにし、私は足早に教室へと向かった。






 教室には既に、ほとんどの塾生が揃っていた。


 中央に置かれた教卓では、ウィリアムさんが教科書や書類を整理している。


 今日からしばらくは、解剖生理学……つまり、人体のしくみについて学ぶ。


 入学したては、人体のしくみ……その器官の位置や名称、働きを覚える事から始める予定だ。


 その後、徐々に各論的なものに入っていこうと考えている。



「サクラ、この医学書ありがとうございました。実に面白い物で、私も学ぶべき事が多かった」


「え? 昨日の今日で、もう読み終えたのですか? 日本語だから読みにくかったでしょうに……」


「アーネストは、実に優秀だからね。それに解りやすい挿絵もあって、理解するにはそう時間は掛からなかったよ」



 昨日


 私は、ウィリアムさんに三冊の教科書を貸した。


 ウィリアムさんがたった一日でそれを全て読み終えたという事に、私は正直驚いた。



「あの医学書は……不思議なものだった。西洋暦は今よりずっと先を示しているし、何より……誰も思い付かないような医療を用いている」


 ウィリアムさんの言葉にドキッとする。


「アーネストとも話していたが……貴女は一体……」


「そのお話については、後程ゆっくりとさせて頂きます! ……アーネストさんもぜひ一緒に」


「そうだね……これから講義も始まる。まずはそちらを優先しよう」


「……ありがとうございます」





 ウィリアムさんの講義が始まる。


 私も一番後ろの席で共に学ぶことにした。


 私にとっては一年時に既に修了した科目だったが、久しぶりに受ける講義は思いの外楽しかった。


 医師により、その経験は異なる。


 その医師が余談として話す、臨床での自分の経験談がまた、私たちの興味をそそるのだ。


 看護塾も初日だからか皆真剣に講義を受け、少しでも知識を吸収しようと、必死な様子だった。


 私も一年生の時はそうだったなぁ……などと、元の時代での生活を懐かしみ、フッと笑みを漏らした。







 講義終了後


 ウィリアムさんの周りには集まっていた塾生たちも、一人また一人と帰宅して行った。


「ウィリアムさん、今日はありがとうございました。とても解りやすく、ためになる講義でした」


「サクラにそう言って頂けるとは嬉しいですね。ところで、今朝の話ですが……」


「あ、そ……そうですね。その話ですが、塾生たちには控えたい話なのです。とはいえ、さすがに新選組の幹部たちは知っていますけどね」


「でしたら、私の家に来ませんか? きっと、アーネストも喜ぶでしょう。ディナーを摂りながらゆっくりお話しましょう」


「…………はい」




 トシはアーネストさんと深く関わるなと言っていた。



 しかし、講師との交流も仕事の内だと思う。



 少しだけ悩んだが、私はウィリアムさんの自宅に行く事にした。



 ちょうど近くにいた隊士に、その旨をトシに伝えてもらえるよう言付けて……























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