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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第 20章 西本願寺での暮らし
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小さな疑問


 翌日、昼過ぎ


 昨夜の内に選定した者達を発表する時刻となった。


 私は、面談をした志願者たちが全員集まった事を確認する。


 そこには近藤サンをはじめ、幹部全員も集まっていた。




 今回は、私の隊……という事なので、私が自分で仕切れとトシには言われてしまった。


 緊張を皆に悟られない様、小さく深呼吸をすると、一歩前へ出た。





「皆さん……昨日は、お疲れ様でした。ご紹介が送れて申し訳ありません。新選組・医務方相談役筆頭、蓮見桜と申します」


 まずは、集まった者達の前で挨拶を行う。


「さて、早速ですが……昨夜、この中から十五名を選定させて頂きました。これから、名前を呼ばれた方は、あちらの隊士の方の前へ行って下さいね」


 私は、書面に書かれた名前を次々と読み上げた。


 名前を呼ばれた十五名以外の者、全てが屯所から出ていくのを確認してから、新入隊士の方へと向かう。


 新入隊士は、十名が女性で五名が男性だった。


 男性隊士はこの屯所に寄宿するが、女性隊士は風紀等の問題から屯所外より通う事となっていた。



「それでは皆さん、広間にご案内します。そちらでまずは、局長をはじめ幹部の紹介を行いましょう。その後は屯所内を案内しますからね」



 私は新入隊士たちに笑顔を向けると、広間へと隊士たちを連れ立って歩く。



 広間には既に、近藤サンらが集まっていた。



「局長、大変お待たせして申し訳ありません。医務方相談役・筆頭、蓮見桜……新入隊士の者をお連れ致しました」


 新入隊士の手前、わざと畏まって話す。


「うむ、ご苦労だった。さて……私が新選組局長、近藤勇だ。此度はよく志願してくれた……桜サンは、この日の本でも様々な功績を立てた名医だ。しかと医術を学び、精進してくれ」


 近藤サンの挨拶に、場が引き締まる様な思いだった。



「それでは、幹部の皆さんを紹介しますね」



 私はトシ以下の幹部を一人一人紹介した。



「こちらが、参謀の伊東サンと副長のト……っ、土方サンです」


 ついつい『トシ』と呼びそうになり、慌てて言い直す。



「今、嬢ちゃん危なかったよな?」


「土方サンの事名前で呼びそうになってたぜ!」



 コソコソ話している原田サンと永倉サンに向かって、私はわざと咳払いした。



「伊東サンの隣りから鈴木サンと谷サン、原田サンに永倉サン、そして斎藤サンと藤堂サンです」



 永倉サンあたり、普段ならここで何か一つくらいは話し出しそうなモノだが……そんな私の予想に反して、何故かおとなしく頭を下げるのみだった。



「土方サンの隣りから、沖田サンに井上サンそれに武田サンと松原サンです。幹部はこちらの皆さんに私と、現在は休暇中の山南サンが加わります」



 一気に紹介をしてしまったので、きっとすぐには覚えられはしないと思うが……私は心の中でそう思った。



「さて、それでは屯所内を案内しましょうね」



「ちょっと待った!」



「何ですか? 永倉サン」



 新入隊士を連れて行こうとした私を、永倉サンが呼び止める。



「俺らも手伝うぜ!ほら、数名ずつ案内した方が効率が良いだろう?」


「それは、そうですが……」


「なら決まりだ! 俺はこの三人を案内する。左之はこっちの男三人な?あとは総司がその三人で……平助があっちの三人。嬢ちゃんはこの三人で良いだろう?」


「わかりました……ご協力感謝します」



 永倉サンの魂胆はみえみえだった。


 おおかた好みの三名を選んだのだろう。


 きっと、紹介をした時におとなしかったのは、この事を画策していたからだと、直感で感じた。


 総司サンのところに葵チャンが居たのは偶然だろうが……私のところに君菊サンが居るのは解せなかった。


 永倉サンも君菊サンを推していたのに何故だろう……



「それでは、案内が済みましたら一度、医務室に集まるようお願いします」



 そう告げると、私にあてがわれた三人を連れて広間を後にした。



 屯所内を一通り案内する。



 広大な敷地のため、思ったよりも時間が掛かってしまった。



 医務室や病室、塾として使う部屋などの案内も終わり医務室に行くが、他の皆はまだ来ては居ない様だった。



「一通り案内は終わりましたが、何か質問はありますか?」



 時間が空いたので、私は三人に尋ねた。


「あの……私は医術の経験も知識もありません。そんな私が医術を扱えるようになるでしょうか?」


「えっと、咲サン……でしたね? ありきたりな答えかもしれませんが……」


 不安そうな表情を浮かべる咲サンに向かって話し始める。


「人は、学びたいという意欲があれば、必然的に努力をすると思います。誰でも最初は、知識も経験もありません。ですが、それらを少しずつ積み重ねていけば、気付いた頃には立派に医術を扱っている事でしょう」


「そうですか」


 咲サンが小さく笑ったのを見て、私も少し安心する。



「他には何かありますか?」



「医術とは関係あらへんのやけど……聞いてもええか?」


「君菊サン……ですね。どうぞ?」


「あんなぁ。この新選組は色恋沙汰は禁止されてはるんやろか?」


 君菊サンの突拍子もない質問に、私は目を丸くする。


「色恋……ですか。幹部の中でも、一般の娘サンと祝言を上げた者も居ますし……外に許嫁が居たとしても、隊務に支障が無ければ大丈夫だと思いますよ」


「外の話やあらしまへん。隊士同士……ゆう意味どす。例えばなぁ、隊士と幹部……とかなぁ」


 伏し目がちに言う君菊サンの美しさに、思わず見とれてしまう。


「それは私には何とも……後で確認しておきますね。そういった相手が隊内にいらっしゃるのですか?」


「今は居てはりまへん。せやけどなぁ、気になる人が居てはりますのや」


「そう……ですか」




 その後



 しばらくすると全員が医務室に集まった。



 私は新入隊士達に、三日後より早速塾を始める旨やその時間などを伝え、解散とした。






 夕餉や入浴を済ませ、部屋に戻る。


 トシは机に向かって、書き物をしていた。


「ねぇ……トシ」


「何だ?」


「新選組って……隊内での色恋沙汰は禁止なの?」


「なっ!? ……何ちゅう質問してゃがんだ、お前は。誰かに何か言われたのか?」


「うん……」


 私は小さく返事をする。


「確かに……ここも大所帯になったからなぁ。あからさまに、そういうのがあると……隊の士気に関わるよな」


「だよね……」


「だが……俺も人の事ぁ言えねぇからなぁ」


 トシは頭をかきながら呟いた。


「あのね……ううん、やっぱ何でもない」


 君菊サンに尋ねられたと言おうかと思ったが、言いかけたものの口をつぐんだ。


「ん? 何だ? 言いかけてやめるのは、ねぇだろうが」


「……良いの、良いの。他愛もない事だったから!」


 私は慌てて取り繕うとする。



「……他愛もない事だろうが関係ねぇよ」



 トシは私の肩を掴むと、そのまま引き寄せた。



「思った事は仕舞い込まずに、言やぁ良い。そうしてくれりゃあ俺も…………嬉しいんだがな」



 不意に耳元で囁かれた私は、ただただ頷く事しかできなかった。







 三日後より塾が始まる。




 君菊サンの質問の、その意図が気になって居たが……



 そんな事は今はどうでも良く感じていた。




 彼女が誰を気に入ろうが、私たちには関係ない。




 この時、私はそう思っていたからだ……












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