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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第 20章 西本願寺での暮らし
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祇園


 会議は終わり、皆それぞれ部屋へと戻り荷物の整理を行っていた。


 私とトシも割り当てられた部屋へと向かった。


 そこは離れとはいえ、日当たりも良くとても広い部屋だった。




「何で、同室なんて承諾したの?」


 私は荷物を整理しながらトシに尋ねた。


「ありゃあ、あいつ等なりの気の利かせ方だろう? 断るのも悪ぃかと思ってな」


「気の利かせ方というより……面白がっているように思えるけど?」


「んな事ぁねぇさ。俺らもいつ死ぬとも分からぬ身だ。アイツらの事だからなぁ、少しでも共に過ごす時間を……とでも考えたんだろうよ? お前は……嫌だったのか?」


「そんな事はないけど……」


「けど?」


「少し恥ずかしいというか……緊張するというか」


 その言葉に、トシはフッと笑った。


「そのうち慣れるさ」




 荷物の片付いた私たちは、部屋で各々のすべき事をする。


 私は医務室に運ぶ薬品の整理。


 トシは、何やら書き物をしている。


 時折筆を止め、悩む素振りを見せるトシの様子が気になった私は、そっと近付いた。


「トシ? 何を書いているの?」


「ん? あぁ……これか? これはなぁ、隊の編成を練っていたんだ。とはいえ、もうすぐまた隊士を募集するからなぁ……皆に見せるのはその後になるだろうが」


「隊士の編成?」


 私は首をかしげる。


「今までは近藤サンが頭で、下に副長を置いていただろう? その下に、副長助勤として、お前達幹部連中が居たわけだ。更にその下に、平隊士を置いていた」


「それをどう変えるの?」


「平隊士が増えりゃぁ、その管理も必要になる。下の者の管理のできちゃいねぇ様な組織なんざ、すぐに瓦解しちまうだろうよ」


「瓦解……ねぇ」


「そこでだ! 局長、副長は変えずに、十の組を作る。副長助勤の奴らをその組頭とし……その下に平の隊士を割り当てるのさ。あとは、伊東サンの身の振り方なんだがなぁ」


 トシは、そう呟きまた頭を悩ませる。


 その話を聞いた私は、この時期になってようやく有名なあの新選組の体制ができることを思い出した。


「参謀……」


 私は、史実通りの伊東サンの肩書をボソリと呟いた。


「参謀……か。悪くねぇ」


 そう言うと、トシはさらさらと筆を走らせた。


「こんなモンだな。あとは、募集した隊士を組み込めば良い」


 トシは嬉しそうに、紙を広げた。





 局長 近藤勇


         参謀 伊藤甲子太郎 山南敬助    


 副長 土方歳三                 


 組長  一番組長 沖田総司     二番組長 永倉新八


     三番組長 斉藤一      四番組長 松原忠司


     五番組長 武田観柳斎    六番組長 井上源三郎


     七番組長 谷三十郎     八番組長 藤堂平助


     九番組長 鈴木三樹三郎   十番組長 原田左之助


 医務方相談役   蓮見桜


 諸士調役兼監察  山崎烝 篠原泰之進 荒井忠雄 服部武雄 芦屋昇

          吉村貫一郎 尾形俊太郎


 勘定方      河合耆三郎 尾関弥兵衛 酒井兵庫 岸島芳太郎


 隊士   名




「どうだ? これで良いだろう。あとは平隊士の数を入れて調整すりゃぁ良い」


「私も入ってる……何だか嬉しいな」


「当たり前だろうが! そもそも、お前は幹部格なんだ」


「そっか。でも、何で伊東サンだけ離れているの? 山南サンは長期休暇中だから分かるけど……」


 伊東サンの位置に疑問を持つ。


「伊東はまだ信用なんねぇ。アイツに余計な口出しをしてもらっちゃぁ困るんだよ! だから、名目上は近藤サンの補佐をするという役職にした。お前の言った、参謀という言葉がお似合いだろう?」


 トシは苦笑いを浮かべた。


「近藤サンを頭に……その下に参謀と、副長である俺が居る。副長の下に組長以下全てを置く。つまりは、お前や組長連中は俺の直属になるわけだ」


「そっか。じゃあ、トシは私の上司になるわけだね」


「今までもそうだったんだが……な」


 私達は、顔を見合わせると笑った。


「これは、機密だ。まだ、だれにも言うんじゃねぇぞ?」


「解ってますって!!」





 その日の晩


 私たちは、引っ越し蕎麦ならぬ引っ越しの宴を開いた。


 さすがに西本願寺内でドンチャン騒ぎをする訳には行かないので、宴は祇園にて行われた。


 初めて目にする祇園の街。


 行きかう芸者サンや舞妓サンに心躍る。


 遊女とはまた違った雰囲気の美しさだ。


 その夢のような華やかな時間はすぐに終わりを迎える。


 帰り道、トシと並んで歩く。


「私、島原よりも祇園の方が好きだなぁ」


「お前は祇園は初めてだったか?」


「島原しか行った事がないよ? 祇園祭の時は……ほら、それどころじゃなかったでしょう?」


「そうか……それなら、今年は連れて行ってやる。祇園祭に」


「本当!?」


「武田がまた……古高みてぇな輩を捕縛してこなかったらだがな」


「池田屋の騒動みたいな事が起こらないように祈っておく!」


「そうしておくこったな」




 

 江戸時代最後の元号『慶応』への改元まであと少し




 新選組に残された時間もあと少し



 私達に残された時間もまた



 あと少し……











 

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