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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第 20章 西本願寺での暮らし
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屯所の移転


 桜の花が咲き誇る頃


 新選組はこれまでの屯所を引き払い、西本願寺へと移転した。


 300畳もの広さを誇る、西本願寺の集会所。


 此処が今日から、私達の屯所となる。


 その、あまりの広さに私は驚きを隠せなかった。






「ここが西本願寺ですかぁ……本当に広いなぁ」


 門をくぐるなり、私はキョロキョロと辺りを見渡す。


「嬢チャン、幹部が屯所内で迷子になるなよ?」


 原田サンがニヤついた表情で言った。


「迷子になんてなりませんよぉ」


 私は頬を膨らます。


「左之介に桜! これから、広間で部屋の割り振りを決める。早く来い!」


 トシに促され、私達は広間へと向かった。






「さて、部屋の割り振りだが……この広間を幹部の会合の場にする。それでだな……」


 トシは屯所の見取り図を広げた。


「こちらから、そちらまでが平隊士の部屋だな。それで……そこから、此処までが幹部の部屋で良いだろう。細かな部屋割りは一通りの説明の後に決める」


 私達は頷いた。


「医務室は此処……門から程近くにあるこの離れだな。外で怪我したモンがすぐに手当てを受けられるし、離れならば病人の隔離もできる。広さも申し分無いだろう。桜、どうだ?」


「名案だと思います」


「よし。では次、此処が稽古場で……飯場の隣の、こっちの広間が食堂だな。他には……」


 トシの説明は淡々と進む。


 共同スペースなどに関しては、皆も特に異論は無いようだ。




「平隊士の部屋割りは、この紙にあるように割り振ってくれ。よし、これで終わりだ! さぁて……俺らの部屋割りに移るか」




 トシの言葉に、原田サンと永倉サンが目を輝かせる。


「待ってました!!」


「よし、ぜってぇに良い場所を取るぜ!!」


 二人は意気揚々としている。


「残念だが……まずは、近藤サンの部屋だな。近藤サン、好きな場所を選んでくれ」


「いやいや、私は何処でも良いさ」


 近藤サンは遠慮がちに言った。


「近藤サンが一番に決めなきゃ、他が決まんねぇよ。なぁ、左之?」


「その通りだ近藤サン。大将が一番良い部屋ってのは決まってるからよ」


 永倉サンと原田サンに促され、近藤サンは仕方なく部屋を決めた。


 何故か一番広くて良い部屋ではなく、普通の部屋を選んでいた。




「近藤サンの部屋が決まったのでしたら、次は桜サンの部屋を決めては如何ですか?」


 伊東サンが提案する。


「そんな……私は最後で良いですよ!?」


 私は慌てて答えた。


「じゃあさぁ、嬢チャンは……此処、なんてどうだ?」


 原田サンが指差したのは、離れに位置する広い部屋だった。


「えー!? 私、離れなんですか?」


「左之介、何で桜が離れなんだよ!? 女が離れに独りで寝るなんざ、危ねぇに決まってんだろ? 駄目だ、駄目だ!!」


 驚く私と、断固として認めないトシ。


「独りじゃねぇよ……」


「……何? どういう事だ?」


 その言葉にトシは訝しげな表情を浮かべる。



「離れだし、広ぇし……土方サンも一緒にその部屋にすりゃあ良いと思ったんだよ」



 原田サンの提案に私達は唖然とする。



「な……なな、何言ってるんですか!? 原田サンったら、嫌だなぁ。そんな冗談止めて下さいよぉ」


「冗談じゃねぇよ。そうすりゃあ、部屋も一つ空くしさぁ……その分、平隊士の部屋を一つ増やしてやりゃあ良いかなと思ってよ」



 いつもの冗談かと思いきや、真剣な表情の原田サンに、上手く言い返せなかった。



「良いんじゃないの? だってさぁ、僕らは個室だけど、平隊士達は相部屋じゃない? それなら、部屋は一つでも多いにこした事はないよね」


 総司サンも原田サンの意見に賛同した。


「確かになぁ……まぁ、何だ? 嬢チャンと土方サンが同室だろうが、んなモン今更だろ」


 永倉サンまで賛同し始める。


 何だか雲行きが怪しくなって来た。


 こうなったら……トシがハッキリ拒否してくれる事を願うしかない。


 私はトシに目を移した。




「…………仕方ねぇなぁ。それで良い」




 トシの意外な一言に、私は目を見開いた。



「な……んで!?」



 私の疑問は、皆には届かず……結局、離れの一室にトシと同室にされてしまった。



 嫌……なわけでは無いが、やはり少し照れ臭い。



 今更と言われてしまえば、そうなのかもしれないが……気にしてしまうのが乙女心だ。



「よし! これで全て済んだな。この後は……各々、部屋の整理をする時間に当ててくれりゃあ良い。山崎、平隊士たちの部屋割りを伝えて来てくれ、この紙の様に頼む。」


「御意」


 そう告げると山崎サンはこの場を去っていった。





 皆が広間から出ていくのを見て、私も広間から出た。




 仕方がないので、私は割り当てられた自室へと向かう。





 屯所の移転




 トシとの同棲生活のようになってしまった今日というこの日





 それは……何とも微妙なスタートだった。











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