決断
翌日
私は医務室でぼんやり考え事をしていた。
内容は当然、山南サンの事だ。
払拭しきれなかった不安に、涙が出そうになる。
昨夜は随分泣いたので、瞼が痛い。
今日は何度溜め息をついただろうか……
「…………い」
「桜っっ!!!」
突然、誰かに肩を掴まれハッと我に返る。
「ト…………シ?」
「トシ? じゃねぇよ。何度呼んだと思ってやがんだ……って、お前その面ぁどうした!?」
「私の……顔?」
「……泣いていたのか? 一体、何があった!」
トシが私を心配してくれている事は分かる。
だが……山南サンの事を話しても良いのだろうか。
私の中にはまだ、迷いがあった。
「泣いてなんかないよ?」
「……嘘つくな。その面ぁ見りゃ分かる。お前、瞼が腫れてんだよ!」
トシの観察力は尊敬に値するが、私にも、そってしておいて欲しい時もある。
問い詰められたくない時も……ある。
「ねぇ……トシは、未来の出来事を知りたいと思う?」
「何だそりゃ……随分と唐突だな」
トシは困った様な表情で笑う。
「未来の出来事を知りたい様な気もするが……知っちゃあなんねぇ気もするな」
「そう……だよね」
「だが、お前が独りで抱え込んで辛ぇってんなら……聞いてやらなくもねぇ」
「…………辛い……よ」
私の口から出た言葉に、トシは驚く様な表情をする。
「これから起こる出来事を知っているという事は、他の人からしたら良いことかもしれないけど……その内容によっては……すごく辛い事なんだよね」
「何でも独りでやろうとすんじゃねぇよ……まったく、お前はもっと器用にできねぇのか?」
俯き唇を噛み締める私を、トシはそっと抱きしめた。
「前にね、変えようとしても変えられなかった事もあったんだ……でも、もうそんなのは……そんな想いをするのは、嫌なの。もし今回もまたそうなっちゃったら、私は……」
「……まだ、話しちゃくんねぇのか?」
「…………」
「独りではどうにもなんねぇ事も、誰かに話してみりゃあ案外簡単に解決するかもしれねぇぞ?」
今、私が一番求める事は何か?
それは、山南サンに生き続けてもらう事。
脱走から切腹という悲しい未来を変える事。
例え
私が未来を変える事で、山南サンが新選組の人間では無くなってしまったとしても……
トシのその一言に、私は話す決心を固めた。
「…………ねぇ」
「何だ?」
「今夜……少し話せないかなぁ?出来れば……近藤サンと三人で」
トシは少し考える素振りをみせる。
「わかった。近藤サンには俺から話しておく」
「ありがとう」
独りで解決出来ない事も、他の人の助けを借りればどうにかなるかもしれない。
トシの言葉を信じる事にしよう。
今はそれしか思い付かないのだから……




