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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第19章 鉄の掟
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決断


 翌日


 私は医務室でぼんやり考え事をしていた。


 内容は当然、山南サンの事だ。


 払拭しきれなかった不安に、涙が出そうになる。


 昨夜は随分泣いたので、瞼が痛い。


 今日は何度溜め息をついただろうか……






「…………い」




「桜っっ!!!」



 突然、誰かに肩を掴まれハッと我に返る。



「ト…………シ?」


「トシ? じゃねぇよ。何度呼んだと思ってやがんだ……って、お前その面ぁどうした!?」


「私の……顔?」


「……泣いていたのか? 一体、何があった!」



 トシが私を心配してくれている事は分かる。



 だが……山南サンの事を話しても良いのだろうか。



 私の中にはまだ、迷いがあった。



「泣いてなんかないよ?」


「……嘘つくな。その面ぁ見りゃ分かる。お前、瞼が腫れてんだよ!」




 トシの観察力は尊敬に値するが、私にも、そってしておいて欲しい時もある。



 問い詰められたくない時も……ある。




「ねぇ……トシは、未来の出来事を知りたいと思う?」


「何だそりゃ……随分と唐突だな」



 トシは困った様な表情で笑う。



「未来の出来事を知りたい様な気もするが……知っちゃあなんねぇ気もするな」


「そう……だよね」


「だが、お前が独りで抱え込んで辛ぇってんなら……聞いてやらなくもねぇ」


「…………辛い……よ」



 私の口から出た言葉に、トシは驚く様な表情をする。



「これから起こる出来事を知っているという事は、他の人からしたら良いことかもしれないけど……その内容によっては……すごく辛い事なんだよね」


「何でも独りでやろうとすんじゃねぇよ……まったく、お前はもっと器用にできねぇのか?」



 俯き唇を噛み締める私を、トシはそっと抱きしめた。



「前にね、変えようとしても変えられなかった事もあったんだ……でも、もうそんなのは……そんな想いをするのは、嫌なの。もし今回もまたそうなっちゃったら、私は……」



「……まだ、話しちゃくんねぇのか?」



「…………」



「独りではどうにもなんねぇ事も、誰かに話してみりゃあ案外簡単に解決するかもしれねぇぞ?」




 今、私が一番求める事は何か?



 それは、山南サンに生き続けてもらう事。



 脱走から切腹という悲しい未来を変える事。



 例え



 私が未来を変える事で、山南サンが新選組の人間では無くなってしまったとしても……




 トシのその一言に、私は話す決心を固めた。




「…………ねぇ」



「何だ?」



「今夜……少し話せないかなぁ?出来れば……近藤サンと三人で」



 トシは少し考える素振りをみせる。



「わかった。近藤サンには俺から話しておく」



「ありがとう」




 独りで解決出来ない事も、他の人の助けを借りればどうにかなるかもしれない。




 トシの言葉を信じる事にしよう。




 今はそれしか思い付かないのだから……












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