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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第19章 鉄の掟
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不協和音


 季節は巡り、私は新選組での二度目の年越しを迎えた。


 元治二年


 この年の四月に改元されるので


 慶応元年


 とも言えるだろう。

 

 この頃から特に、新選組隊内……いや、幹部内には何とも言えない雰囲気が流れていた。



 西本願寺への屯所の移転



 これが、まことしやかに囁かれるようになってからの事だった。



 局中法度に加え、禁門の変以降に軍中法度も加わり……窮屈な程がんじがらめに固められた隊則。


 そんな中、トシのやり方に不満を抱く者も少なくはなかった。



 山南敬介



 彼もその一人だ。



 このままでは、山南サンを切腹させてしまう……


 総司サンに辛い想いをさせてしまう……


 気持ちばかりが、ただただ焦る。





「相談できる人……居ないかなぁ」


 非番の私は、空を仰ぐ。


 最近の山南サンは、伊東サンに傾倒している様に思える。


 この悲しい史実をねじ曲げるには……どうしたら良いのだろう?



 山南サンの脱走を止める?



 いや、今の時点では名案は浮かばない。



 それならば



 脱走した山南サンを上手く逃がす?



 これも駄目だ。


 何せ、山南サンは……総司サンが逃げるよう促すも自分から帰ってきてしまうのだから。



 あとは



 御陵衛士のように、円滑に脱退させる?



 …………どうやって!?




 答えの見付からない難題に、私は唇を噛み締めた。






「そんな所で何やってんだ? ……暇、なのか?」


「……トシ」


「なぁに泣きそうな面ぁしてやがんだよ?」


 突然現れたトシは、笑いながら言った。


「どっか気晴らしにでも……行くか?」


「……良い」


 私の予想外の返答に、トシは困惑する。


「いつもなら二つ返事で飛び付くクセに……一体どうしちまったんだ?」


「…………」


「だんまり……か」


 トシは溜め息をつくと、私の隣に腰を下ろした。



「何があったか知らねぇが……話してみろ」



 その言葉は嬉しかったが、山南サンの事をトシに話すわけにはいかない。


 何故なら、山南サンの切腹を決断した張本人……なのだから。



「ねぇ……」


「何だ?」


「あのね……一つ聞いても良い?」


「どうした?」


 私は小さく深呼吸をする。


「例えば……本当に例えばの話なんだけど。もしも、原田サンとか永倉サンとか……幹部が隊を脱走したら……トシは切腹……させる?」


 トシの様子を伺いながら、途切れ途切れに尋ねた。


 しばらく考え込むと、トシは口を開く。



「隊規違反は……切腹だ。それが誰であろうと……な」



 その言葉に、私の心臓はトクンと跳ねた。


「総司サンや山南サンでも?」


「勿論だ。でなければ……今までに隊規違反で粛正された者共も浮かばれやしねぇだろう?」


 トシは苦笑いする。


「そっか……じゃあ、私だったら?」


「お前……難しい質問をしやがるな」


「…………答えて!!」


 私はトシの袖を掴むと、真剣な表情で言った。



「お前も……今や新選組の幹部だ。以前ならば、侍じゃねぇって言い張れば良かったが……もう、そうもいかねぇよな?」



「切腹……かぁ」



 私はぼそりと呟いた。



「もしも……だ。お前が脱走したとしたら、そのまんま逃がしてやりてぇがな?」


「逃が……す?」


「お前をこの手にかけるなんざ……したくねぇさ。だが、万が一逃がせなかったら……俺が介錯する」


「何か……物騒な話だね。でも、トシになら斬られても良い……かな?」


 私は力なく笑った。


「お前が死んじまったら……俺も腹ぁ斬るさ。お前の失態は、俺にも責任があるからな?」


「それは責任重大……だね」


「何より……お前を失ってまで生き永らえたくねぇしな」


「近藤サンも、みんなも泣いちゃうよ?」


「近藤サンは大丈夫だ。他の者が支えとなるだろうよ」


 トシは目を細めて言った。


「……トシは、寂しがり屋だね」


 私はクスリと笑う。


「なっ!?」


「私も……同じだよ? トシが居なくなったら……きっと生きては行けない。私も同じように後を追うと思う」


 私はトシの肩に頭をコツンとつけるとそう言った。


「責任重大……だな。俺もまだまだ死ねねぇか」


 トシはフッと笑う。





「だが……何故、脱走だなんだなんて話をした?」


「今はまだ……何も聞かないで?」


「まさか……お前」


「私じゃないの! 私はトシの進む道なら、何処にでも付いていく覚悟があるもの!!」



 トシが言い切らない内に、私の事ではないと強く否定した。



「いつか……話してくれるか?」



「もう少し……気持ちが整ったら必ず話すから……待っていてくれる?」



「…………ああ」




 隊規に背いた者は、誰であろうと例外は無い。



 そう言い切ったトシ……



 近い将来起こり得る悲劇を食い止める為に、私は何をすれば良いのだろう?



 トシの隣で、私は必死に頭を巡らせた。









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