表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第18章 新体制
110/181

複雑な想い


 元治元年、11月17日……現代でいう、12月15日。


 今日は、容保様に謁見する予定となっていた。


 用向きは、蛤御門の恩賞を賜る事。


 近藤サンとトシが二人で出向くはずであったが、容保様の要望で、私も呼ばれる事となった。


 山南サンや伊東サンすら行かないのに良いのだろうか?


 そう思った私は近藤サンに尋ねたが、容保様が私と話をしたいと仰っているそうで、そう言われてしまえば承諾する他無かった。




「仕度は済んだか?」


 トシと近藤サンが部屋を訪れる。


「大丈夫です!」


「また……えらく、めかし込んだなぁ?」


 トシは、苦笑いする。


「だって……会津候ですよ? 少しはめかし込まないと失礼でしょう?」


「トシは心配性だからなぁ。桜サンが会津候に気に入られて、召し抱えられでもしたら……と考えているのだろう?」


 近藤サンは笑いながら言った。


「んな事ぁねぇよ! ほら、近藤サンもいつまでも笑ってねぇで、さっさと行くぞ?」







 会津藩邸に着くと、例によって謁見の間で待たされる。


 頭を上げるのは「面を上げよ」と二回言われてから……前回の失敗を繰り返さないよう、心の中で呟く。


 容保様がお見えになり、まずは近藤サンらに労いの言葉を掛け、幕府より賜った恩賞を授けた。



「さて、近藤。早速だが、彼女をお借りしても良いか?」



 近藤サンの返事を聞くなり、容保様は私の方へと歩みより、手を差し出した。


 今日は、家臣の人は止めには来なかった。



「付いてくるが良い」



 私が差し出された手を取ると、容保様はその手を引き、広間から出た。



「さて……この間は庭園だったからな。今日は余の部屋にでも招くとしよう」



 誘われるままに付いていく。


 部屋に入ると、女中が京菓子と抹茶を運んで来てくれた。



「そういえば……医学所を訪れたそうだな? して、医学所はどうであった?」


「医学所では、とても有意義に過ごす事ができました。様々な薬や、医術道具の開発にも成功しました」


「そうか、そうか。それは素晴らしい! その薬……何が治せる様になったのだ?」


「梅毒に労咳、それと破傷風です。梅毒の薬などは、他の病にも効果があるので……治せる様になった病は、まだまだあります」


「死病を治す薬……か。まるで神のようだ。」


 容保様は目を細めて呟いた。


「神だなんて……」


「ますます惜しいな」


「何が……ですか?」


「そなたに野心が無い事が……だ。そなたならば、奥医師にもなれ得るのにな」


「奥……医師」


 奥医師と言えば、この時代のエリート医師だ。


 基本的には家柄も良くなくてはならないが、実力とコネがあれば家柄がさほど良くなくても奥医師にまで登り詰める事ができる。


「そなたにその気が無いのであれば、仕方ないがな。そこで……だ。時折、余の身体を診てはもらえぬか?」


「容保様……ですか!?」


 私は驚きのあまり、聞き返した。


「何か不服か?」


「い……いえ! ですが、会津藩にも優秀な医者が大勢いらっしゃるのではありませんか?」


「そうだな……だが、たまには可愛らしい娘医者に診てもらうのも一興。それに、そなたの医術に期待しておるのも事実だ」


「ありがとうございます」


 私は深々と頭を下げた。



「堅い話はこれまでだ。そなたは祝言を挙げるのだろう?」



 容保様の突拍子も無い問い掛けに、私は混乱する。


「し……祝言!? 私が……誰とですか?」


「違うのか?」


 容保様は首をかしげる。


「そなたを余の側室に……と思ってな。近藤に話したのだが……」


「私が……側室に!?」


「近藤から断られてしまった」


 容保様は気恥ずかしそうに言った。


「そなたは、土方と通じているのであろう?」


「は……はい」


「近藤がそう申しておったからな。祝言を挙げるのかと思っていたのだ」


「祝言は……挙げません。ですが、添い遂げたい想いはこの先も変わりません」


「そうか……余の側室になれば何でも意のままになるというのに、本当に欲の無い娘だな。そこがまた良いのだが……」


 容保様は私を真剣な表情でみつめる。


 何だか恥ずかしくなり、私は視線をそらした。


「その想い……違う事があらば、余が側室に貰ってやるとしよう」


 容保様はそう言いながら微笑むと、私たちは近藤サンらの元へと戻った。





「近藤……待たせたな。話は済んだ……道中気を付けて戻るが良い」


 容保様が広間から去ると、私たちも屯所へ戻る事にした。





「近藤サン……ありがとうございました」


 私は歩きながら近藤サンにこっそりとお礼を言った。


「ん? 何の事かな?」


「容保様の事です。側室にという話を、お断りして下さったそうですね」


「それは当たり前の事をしたまでだ。桜サンやトシの幸せが、私には一番大切だから……な」


 近藤サンはニカッと笑った。



「何の話だ?」



 私たちの内緒話が気になった様子のトシは、眉間にシワを寄せ尋ねた。



「トシには内緒だ!!」


「トシには内緒っ!!」



 私と近藤サンは顔を見合わせると、同時に言った。




 黄昏る空



 道には3つの影が並んで伸びていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ