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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第18章 新体制
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助け合い


 山南サンが、近藤サンらに報告を上げると、幹部内でもざわめきだった。


 それ程に麻疹という病は恐れられて居たのだろう。


 しかし、平隊士には現状は伏せる事で話がまとまったそうだ。


 隊内や、しいては京の街を混乱させない為の配慮……との事だ。


 不調の者はすぐに申し出るように。


 平隊士には、そう一言だけ告げられたようだ。



 たった今から、私の戦は始まった。



 不眠不休を覚悟し、隊士達を必ず救おうと誓った。



 麻疹ウイルス……目に見えない敵に立ち向かう。



 ウイルスというのは細菌と異なり、とても厄介な物で、ペニシリンやストレプトマイシン等が属する、抗生物質というものは効かない。


 つまり、医学所で完成した薬剤は何一つ役には立たないのだ。


 したがって、今私に出来るのは対症療法のみであった。

 





 飯場で女中に頼み、以前トシに作ったスポーツドリンクもどきを大量に作ってもらった。


 更に十分な栄養を取ってもらう為、栄養学の教科書から抜粋し、消化に良く栄養価の高い食事を出してもらえるよう、献立を紙に記し女中に手渡した。


 あともう一つ……出来る事は冷やす事。



 私は病室に付きっきりになり、こまめに水分を摂らせる。



「点滴があれば良いのに……」




 私はふと呟く。



 医学所に滞在した際に、注射器や点滴等を職人に作らせていた。


 注射器や注射針は、いとも簡単に作って貰えたが、点滴に関しては時間が掛かると言われてしまった。


 理由は、輸液ルートの作成が難しいからだった。


 また、生理食塩水については私が滞在した間中には完成させられず、今も作成の研究が行われている事だろう。


 それらが完成した際は、すぐに京へ届けてもらえる手筈になっている。




 苦しむ隊士たちの姿に、対症療法しか出来ず不甲斐ない自分を呪った。




「嬢チャン! 何か手伝う事はねぇか!?」


 突然の声に振り返る。


 そこには、原田サンと山南サンに総司サンの姿があった。


「みなさん……どうして此処に?」


「俺らは麻疹になった事があるからなぁ。何か手伝えねぇかと思ってよ」


「原田……サン。皆サンも、ありがとうございます」


「貴女に倒れられては困りますからね。幹部内でも麻疹にかかった事のある者が、貴女の手伝いをする事にしました」



 山南サンはニッコリと微笑んだ。



「山崎も麻疹にかかった事無いから使い物にならないでしょ? だから、桜チャン独りじゃ大変だろうなぁって……」



 総司サンも続けて言った。



「本当に助かります! ところで、幹部内で麻疹経験者は三名ですか?」


「あとは、土方サンもなった事があるそうだが……今は別件で出掛けちまってるよ。他には居ねぇなぁ」


 私の問いに、原田サンは頭をかきながら答えた。




「桜サン……少し休んで来なさい」


「ですが……」


「先程も述べた通り、今貴女に倒れられては困ります。夕餉も近いと言うのに、食事すら摂っていないでしょう?」


 山南サンは険しい表情になる。


 そういえば、そうだ。


 隊士たちの看病に集中するあまり、自分の食事すら忘れていた。


 気付けば辺りも黄昏ている。


 時間の感覚すら無くなっていたようだ。



「俺らが看ててやっから、嬢チャンはゆっくり食事して、少し寝て来いよ! どうせ、夜通し看病すんだろ?」


「はい……では、少し休ませて頂きます。何かありましたらすぐに呼んで下さいね?」



 私は三人に、隊士たちにしてほしい事柄を事細かに説明し、部屋を後にした。




 早めの夕餉を頂き入浴を済ませると、自室に戻る。



 早朝から一日中、バタバタしていた為か疲労感が一気に襲ってくる。


 横になりつつも睡魔に必死に耐えていると、部屋の襖が開いた。


「ト……シ?」


 目を擦りながら、起き上がろうとする。


「今戻った」


「お帰りなさい」


「ああ。今日は疲れたか? 昼間は手伝ってやれねぇで、すまなかったな」


「私の仕事だもん。当然の事です!」


 トシは溜め息をついた。


「お前は休む事を知らねぇからな……危なっかしくてかなわねぇ。夜四ツまでは、隊士らの看病を山南サンらに頼んでおいたから……少し寝ろ」


「起こしてくれる?」


「分かっている。夜四ツには起こしてやる。どうせ、夜通し看病するんだろ?」


「原田サンにも同じ事を言われちゃった……私の行動、みんなにバレバレだね」


 私はクスリと笑った。



「良いからさっさと寝ろ!」



 トシはそう言うと私の布団を敷き、横になるよう促した。



「はぁい」



 私は気の無い返事をすると、眠りについた。




 みんなが私を助けてくれるように、私もみんなを助けられる人になりたい。



 意識が途切れる寸前、強くそう思った。








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