隊士増員
私とトシが屯所に戻った数日後、近藤サンらも無事に帰還した。
伊東大蔵サン、いや伊東甲子太郎サン一派を引き連れて……
しかし
その中に、何故か平助クンの姿は無かった。
私たちは、伊東サンらを紹介するとの事で、広間に集められていた。
「土方サン……平助クンはどうしたんですか?」
みんなの居る手前、今まで通りの口調でこっそりとトシに尋ねた。
「平助……か。何でも、江戸に滞在して更なる隊士の勧誘を行うそうだ!」
「勧誘は、江戸……でなくては駄目なんですか?」
トシは少し考えて、口を開く。
「駄目って事ぁねぇが……江戸の者ばかりが揃う新選組には、出地が近ぇ方が新人も馴染みやすいだろ? そもそも、俺らが欲しいのは、実践向きの人間だ。敵陣に単騎だろうが、突っ込んで行ける様な気概がありゃ、何処のモンだろうが良いんだがな?」
「ふうん……そっかぁ」
平助クンの事が心配だったが、すぐに帰って来てくれると信じるより他はない。
「待たせてすまんな」
近藤サンと共に、伊東サンが広間に入ってくる。
「この度、新選組に入隊する次第となりました伊東甲子太郎と申します。私の入隊に当たり、数名の同志も同時にお世話になる事となります故……宜しくお願い致します」
伊東サンは深々と頭を下げた。
近藤サンが、幹部を紹介していく。
「このお嬢さんは……江戸での宴の際にもいらっしゃいましたね?そうですか……新選組の幹部でしたか」
伊東サンは、私に目を留めるとそう呟いた。
「蓮見……桜と申します。私は剣術はできませんが、この新選組では医者としてお仕えしております。私とはご縁の無い方が宜しいかとは思いますが……宜しくお願い致します!」
「何とも可憐なお嬢さんだ……容姿端麗! 眉目秀麗!! 素晴らしい」
気に……入られ……た!?
伊東サンの意外な反応に、私は面を食らう。
原田サンや永倉サンは、笑いを堪えて居るのだろうか……プルプルと小刻みに震えている。
近藤サンや山南サンは苦笑いしているし、トシに至ってはあからさまに不機嫌な表情だ。
「私たちは、京には不馴れです。宜しければ貴女に、京の案内を頼みたいのですが……如何ですか?」
突然の申し出に、返答に困る。
トシを見るも、長年連れ添っているトシには近藤サンがどう答えるのかが分かっているからだろうか……ただただ眉間にシワを寄せているだけだった。
「桜サン……すまないが、頼めるかな?」
「はい。承知致しました」
近藤サンが断る事はない。
近藤サンの決定に、トシが異を唱える事もない。
予測通りの流れに、私は小さく笑った。
「伊東サン……それでは、朝餉後にお部屋に伺わせていただきます。宜しいですか?」
「嬉しいですねぇ……朝餉後を楽しみに待ちましょう」
そんなやり取りを終えると、私たちは一旦解散した。
朝餉後……
伊東サンらを何処にお連れすれば良いのだろうか?
京を案内……
私はしばらくの間、頭を悩ませた。




