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桜前線此処にあり  作者: 祀木 楓
第17章 江戸へ ― 和泉橋医学所 ―
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成果


 気付けば、この医学所を訪れてから早くも1ヶ月が経とうとしていた。


 土方サンたちは今夜、私を迎えに来る手筈となっていた。


 研究は無事に終了しており、その結果いくつかのワクチンや薬剤を作成する事ができた。


 私が持っていた、実習用の注射器や他の器具類を参考にさせ同じものを職人に作らせていた為、それらの数もある程度揃った。


 私は参考文献や資料を与えただけ。


 実際に作成に成功したのは、伊之助サンだった。


 私達はそれを手放しに喜んだ。


 これで、死病に苦しむ多くの人を救えると信じてやまなかった。




 この出来事が、この先の未来に多大な影響をもたらすということを知らぬまま……





「貴女のお蔭で、ついに此処まで来られました。労咳や梅毒をはじめ、数多くの病を予防し治癒する事ができます」


 伊之助サンは私の手を取り、笑顔で言った。


「そんな……私の力など微々たる物です。全ては、松本先生や伊之助サンの力です。こちらこそ、ありがとうございました」


 私は、はにかむような笑顔で告げた。


「この先も、私達は研究を続けていきます。貴女は今夜、医学所を離れますが……またいつか、この医学所を訪れて下さいね」


「はい。ありがとうございまし。」


 私は伊之助サンから大量のワクチンや薬剤を受け取ると、医学所を去る準備を始めた。




 


 夕餉前


 土方サンが医学所に訪れる。


 そこには、近藤サンの姿もあった。


 近藤サンの願いは、松本先生と面会したいとの事だった。


 松本先生にその旨を伝えると、快く引き受けてくれた。


「近藤サン、松本先生が面会を快諾して下さいました。ご案内しますので、こちらへどうぞ」


 私は近藤サンに声をかける。


「あぁ……すまんな。トシ、少し此処で待っていてくれんか?」


「俺ぁ構わねぇが……近藤サン、一人で大丈夫か?」


「大丈夫だ。トシは相変わらず心配性だなぁ?」


「近藤サンは俺らの大将だ! 心配すんのは当たり前だろう。」


 その言葉に近藤サンはフッと笑うと、私に声を掛け、松本先生の部屋へと歩き出した。


 先程から近藤サンは無意識にか、胃の辺りをさする様な素振りをみせる。


「近藤サン、体調が優れないのですか?」


 私は思わず尋ねた。


「ここしばらく、胃の腑の辺りが痛んでね。疲れ……かもしれんが」


「そうですか。松本先生に診て頂くのは如何ですか? 折角です、頼んでみますよ!」


「それは、ありがたい」


 近藤サンはそう言い、辛そうながらも笑顔を見せた。





「失礼します。松本先生、近藤局長をお連れしました」


 松本先生の部屋の外から声を掛ける。


「あぁ……どうぞ、お入りなさい」


 私は近藤サンを中に案内すると、松本先生に先程の件をお伝えして、部屋を後にした。





 私は足早に、土方サンの元へと向かう。


 土方サンは縁側に腰を下ろし、庭をぼんやりと眺めていた。


「土方サン!!」


「あぁ……お前か。早かったな?」


「急いで来ましたから」


 そう言うと、土方サンは小さく笑った。


 私は土方サンの隣に腰を下ろす。


 この1ヶ月の成果を土方サンに伝えた。


 労咳も梅毒も破傷風も、全て治せる病となった事を話すと、土方サンは流石に驚いていた。



「お前は凄ぇな。もう、いっぱしの医者じゃねぇか。よく頑張ったな」



 そう言うと、土方サンは私の頭を撫でた。


「私は資料を与えただけであって、何もしていませんよ……この医学所の皆さんが、それを元に試行錯誤して作り上げたんです」


「んな事ぁねぇよ。もっと自信を持て!」


「ありがとう……ございます」


 私は小さくお礼を言った。





「待たせてしまって、すまなかったな!」


 顔を上げると、松本先生と近藤サンの姿があった。


「桜サンは、素晴らしい方々と共に過ごしているのですね? 近藤サンにお会いして、それが分かり私も安心しました。何せ、貴女は有望な医者……ですからね」


「いやいや、松本先生こそ! この度は、うちの隊士をお預かり頂いた事、感謝します。京に参られた際は、是非とも屯所に寄ってください!」


 松本先生と近藤サンは、すっかり意気投合した様で、お互いを褒め合っていた。


 私も、松本先生や伊之助サンらにお礼を告げる。


 名残惜しい気持ちもあったが、私達は医学所を後にした。





「さて、トシと桜サンとはひとまず此処でお別れだ!」


「近藤サンは一緒に帰らないのですか?」


 土方サンは理由を知っているようで、反応は見せなかった。


「私は新規入隊の者を会津藩に報告しなければならないのだよ。その後、伊東クンらを伴い江戸を出立する」


「そうですか。近藤サン、道中お気を付けて!」


「ありがとう……桜サンも気を付けるんだよ。トシ! 桜サンを頼んだぞ?」


 近藤サンの言葉に、土方サンは手を振り応える。





 近藤サンと別れた私たちは、京に向け歩みを進めた。













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