決戦(Ⅷ)
※今回はかなり長めです
霧島第3高校。
現在の時刻は午後2時とちょいとなる。
開始時間が午後1時だからなんやかんやでもう1時間ほどたっている、ということだ。
この1時間はこちらから動き出したにもかかわらず、生徒会に押されまくりだった。
いや、押される・・・
最初からそれしか僕たちの進む道はなかったのかもしれない。
そもそも攻めない、それがこちらの主張でもあるのだから。
それは暴力的なもので、ということだが相手はそもそも話を聞こうとしない。
暴力で押してくる相手に、話で決着をつけよう、という考え方はやはり甘いのだろうか・・・
不意に1人の先輩の言葉を思い出す。
これは決戦始動のちょこっと前にあったいざこざであったことなのだが・・・
1人の先輩、それも生徒会側の先輩に僕たちは言われたのだ。
“キミ達のやり方は手緩い。攻めずに勝利する、なんて理想に過ぎない。”
あの時僕は反論した。
彼女がどんなに僕たちのやり方が手緩いといっても僕は攻めずに勝利する、ということだけを見てきた。
結果・・・
“そういうのを“ゆとり”と言うのよ"
と呆れられてしまった。
そのときは彼女自身も僕たちと同じゆとり世代の生徒だし、人のことをいえるのかコンチクショー、とか思ったが・・・
今になってあの人のいうことは正しかったのかもしれない・・・
そう思えてきてしまっている。
・・・まったく情けないことだ。
あの時はカッコつけて堂々と彼女に対し、「ゆとりにはゆとりのやり方があります。あなたにあなたのいう“ゆとり”なりの勝利を見せ付けてあげますよ」と言ったのだが・・・
いや、そもそも「ゆとりだって、なかなか悪くないものですよ」とまで言った気もする。
ま、今も過去に戻ったらきっと同じことをいうだろう。
考え方そのものはかわっていない。
・・・しかし一方で今になって「言い過ぎたぜ・・・」という後悔が胸の中で洪水化してしまっている。
そしてああは言ってしまったが「暴力なしでホントに勝てるのだろうか?」という疑問が生まれてきてもいた。
なに、それは「暴力なしで勝とうとしている」僕たち自身が信じなければ元も子もない、ということはわかっている。
・・・考え方自体はかわっていないが、その考え方の足場のバランスが崩れ始めている、というのが的確な表現だろうか。
悩めば悩むほどわからなくなっていく・・・
ホント、僕って馬鹿だ・・・
ただ今、全体の中心的ポジションにいる「絆同盟」にいる僕ですら、そのような「過激派」寄りの考え方が生まれ始めてしまっていた。
・・・それはつまり、普通の全校生徒たちからみたらどうなのだろうか・・・?
今まで押され続けている、という行為そのものが僕たちのやり方が手緩い、と証明している。
その証明され続けてきた1時間をみてきた全校生徒たちの中には、今の僕より、より強い「過激派」論を考えている者も少なくないだろう。
いい加減決着をつけないと爆発してしまう可能性が上がってきている、ということでもあるのだ。
僕のなかで迷いと焦りが心の舞踏会で楽しげにステップしながら踊っているようだ。
・・・楽しげ・・・か、ホント羨ましい限りだ。
しかしながら迷い・焦りとは別に僕は今、違う意味でも悩んでいる。
極端にいえば妙な感じがするのだ。
言葉には上手く表せないが、変な異様な感じがしている。
そもそも今回の決戦。
・・・いや、絆同盟が作成された頃からか・・・
生徒会の動きには“謎”が多い。
一番わかりやすいのは彼女の言葉・・・
「手緩い」という言葉からするに、生徒会はこちらが作戦を始動する前にこちらのやり方を知っていたように思える。
本来知っていたなら、絆同盟・B組同盟が皆に作戦情報を拡散する前に叩きに来るだろう。
情報を遮断させるために何らかの動きをしてくるはずだが、それもなかった。
さらに生徒会の動きはこちらが始動した、と同時にあわてて対応した、というのが見え見えだった。
現に生徒会の主力である警備部の戦力全員をこの体育館に慌てて連れてきた。
将軍の「意外と多いな」という前々の言葉は、こういう意味を示していたのか、と今更ながらに気づく。
このいざこざのことを知っているのは将軍と僕、そして五月雨と咲良だが・・・
おそらく将軍はとっくの昔にこの謎について疑問視していたのだろう。
咲良や五月雨はこの異様な感じに気づいているのだろうか・・・?
そして気づいていたとしたらどの程度まで気づいているのだろうか・・・?
他にも今思えば謎な点は多い。
今まであまり気にかけていなかったことが芋づる式に浮かび上がっていく。
とにかく今、僕はなぁ~んか妙な気分だ。腑に落ちない。
まるで生徒会に誘導されているかのような・・・
それとも生徒会ですら誘導されているのか・・・
僕にはそこら辺はまったくわからないが・・・
気がかりなのだ。
だがそんな気がかり、この決戦が終わってからでいい。
できれば終われば僕たちのことを「ゆとり」といった“彼女”にも話を聴きたいところだ。
今は決戦のさなか。
目の前の現状は最悪の方向へと進みそうな雰囲気であることにかわりはない。
目の前の出来事に集中しよう。
・・・
・・・
・・・現警備部ともと警備部がにらみ合う現状のなか、僕はかなり前の部分にいる。
ま、命知らずポイントという奴ですね。
連中が突っ込んでくれば確実に一番最初にぶっ飛ばされるのは僕であろう。
生贄に捧げられたような場所だ。
ナウシカでいうアレだ、オウムをとめようとして(ry
そんな場所にいるわけで・・・
おかげで今までに生徒会が突っ込んできそうになるたびに、こっちは寿命が縮む思いだ。
だがここでひくわけにはいかない。
それにひく予定もない。
ま、これは勘だけど・・・
僕がこの危険なポイントにいるということは、ある程度生徒会の連中にも「これほど僕たちの意思は固い」「このような危険など顧みない」といった感じの僕たちの覚悟がプレッシャーにもなっているだろうし。
・・・え?自分の行動を過大評価しすぎ?
ですよね~、でもさ・・・
そうでも思わないとこのポイントにいられないわけよ。
大体ここで僕がオメオメと背を向けて引き返したら、それこそ情けないばかりだ。
・・・自分で突っ込んだんだから、自己責任?
ごもっともでございます。
ですので私、この身に終了のお知らせが鳴り響くまで一歩も退く気にはなれませんのよ!!
しばしの間、にらみ合いが続く。
ぶっちゃけこの間が一番つらかったりもする。
いつ相手が突っ込んできてもおかしくはない状況なのだ。
そんな時間が継続されている。
誰かの一言だけが原因でも、生徒会は突っ込んできそうな雰囲気だ。
生徒会の山崎相手に「や~い、厨二~♪」とでも言ってみようか。
・・・いろいろと終わる気がするのは僕だけじゃないはずだ。
たとえるならアレだ、冷戦時に米ソのどちらかが核を(ry
ま、物事はいつも突然だ。
第一次世界大戦も、結局はセルビア人のたった1発の銃弾が原因だったわけだし。
そう思うと、ここで僕が調子こいて生徒会に悪口を吹っかけてもおかしくはない気がする。
・・・いえ、冗談です。そんなことする予定など一切ございません。
それにそんなことしたら、「ゆとり」どうこう言う前に「敗戦」決定である。
ま、確実にいえることは、この状況では誰かの一言で一気に場がひっくり返ってもおかしくはないと思えてしまう、ということである。
それぐらい強いプレッシャーが流れていた。
そんな時、入り口の扉が開く音がした。
「ん?」
後ろを見てみると、案の定入り口が開いていた。
そしてそこから教師たちが入ってくる。
「・・・やっときたか・・・」
将軍はため息をついた。
このため息の何十倍ものプレッシャーが先ほどまで流れていたのだ。
皆が扉のほうに集中している、おかげでそのプレッシャーはどこへやら・・・
ならばこのKYな扉の開き方にも感謝感謝の一言だ。
やがて将軍や咲良、五月雨のいるところへとやってきたB組の担任である桐山先生に咲良は少し呆れ顔で言った。
「そういえば桐山先生、“教師たちがまとまった”っていってたわりには遅かったわね。」
「悪い悪い、少し問題が起こってね。・・・けどこれから我々教師たちも味方するぞ。」
彼は苦笑しながらも、言った。
・・・問題・・・ねぇ?
“少しの問題”が1時間遅れになってしまうのだから世の中というのは難しいものだ。
・・・僕のなかで再び異様な感じがした。
しかしながら・・・「我々教師たちも味方する」という言葉が非常に心強い。
「・・・仁井、いろいろと付き合わせてしまって申し訳ない。」
僕の隣にいた仁井の隣に学年主任がやってきていった。
“僕のとなりのとなりにやってきた”ということですね、わかりづらい!!
「いえ、足場は主任が作ってくれましたが、その後は自分の考えと決断で動いてきました。ですので謝らないでください。」
「・・・そうか、そう言ってくれると助かる。」
主任は苦笑して仁井にいった。
主任も今までは帝国主義を推進する人間の一人で、こちら側からすれば非常に厄介な人物でもあった。
何しろ彼のいう言葉は非常に力強く、説得力がある。
だが・・・
逆に、味方になると非常に心強い。
教師陣の参戦にさらに生徒会側は戸惑う。
風はこちらに吹き始めた。
・・・これから押されまくっていた分・・・
反転開始だ!!
・・・今まで押されていた分、味方が増えたことで話し合いによりどこまで取り返せるか・・・
それは僕のなかでも、そして全校生徒たちのなかでも注目すべき点だった・・・
階段では、生徒会側の人物である凛動に有利に進んでいた。
先ほど川中はバランスを崩し階段に突っ込んだ。
結果、左手を負傷してしまっていた。
幸い利き手ではないもの、この痛手は深すぎるものだった。
「・・・厳島さんのところへいかせてくれ。」
「・・・何度も言いますがそれは無理です。」
だがそれでも川中は諦めることなく説得を続けていた。
「私は厳島さんを守る、と決めているんです。よってあなたのような危険人物をあわせるわけにはいきません。」
「・・・頼む。」
「無理です。」
このような会話が川中と凛動が出会ってから数十分で何度行われてきたか・・・
「無限ループ」のように、同じところばかりをまわっている感じまでしてくる。
やがて凛動は川中を哀れ染みた目で見つめ、言葉をかける。
「・・・なぜあなたはそこまで“それ”にこだわるのです?」
この状況のなか・・・
凛動が認めてくれない、というのは誰の目から見てもわかることだった。
それにこれ以上勝負を続けても、一方的に川中が叩かれるのがオチ、というのも見えていた。
普通なら退く、というのが一般論だろうか。
「どうしても助けたい奴たちがいるんだ。」
「・・・」
その言葉に凛動は初めて反応を示したような表情が浮かび上がった。
しかしそれを隠すかのように冷たい言葉を放つ。
「馬鹿馬鹿しい。そんなことのために・・・」
「それはお前も私のことをいえないんじゃないのか?」
「・・・」
とりあえず反論はしてみるものの、ずいぶんと痛いところを突かれ、凛動も返す言葉がない。
「・・・だとしてもあなたが不利なのは確実。なぜ無理なのが見えているのに素直に諦めないんです?」
諦めたらそこで終わりじゃないか・・・
まわりでは、どんなに大変でも諦めずにまだ目の前の問題に向き合っているというのに・・・
そんなことを思いつつも、私は目の前の女性をみて話す。
「皆と最期まで頑張るって決めたからだ。そして可能な限り・・・皆の力になりたい。」
最期まで頑張って頑張って頑張っての敗北ならまだ納得できる。
だけどたいしたこともせずに負けてしまうのは自分のなかで自分に納得がいかない。
そして大変なのは何も私だけではない。
皆大変なのだ。
だから“頑張れ”って心をこめて応援したい。
そして苦労している皆のために少しでも力になりたいのだ。
「上ではな、今、傷も癒えていないのに“勝つためには何でもする”という奴を止めようとしている馬鹿がいる。」
私はその苦労している皆のなかで・・・
絶対・確実に苦労している、と思われる1人を例にあげる。
実際彼を助けたい、という気持ちも強い。
・・・それは自分が何もできなかった、という悔しさも後ろから押してきている。
ただ彼は自分も厳しいのに、他人である私を優先したのだ。
・・・この間、闇討ちの帰りに傷を見せてもらったとき、予想以上に腫れていた。
・・・あれがこんな数日で治りきるわけがない。
傷が癒えていないんだ・・・正直今の私よりも目の前の状況はひどいものなのかもしれない。
それは「絶望的」ともいえる状況かもしれない。
「その傷が痛み出したら彼は諦めてしまうかもしれない。」
彼というのはものすごく大雑把な人間だ。
伊達にともに第5同盟を動かしてきたわけではない、彼の考えは時々わからないが大体はわかる。
大雑把でガサツで諦めも早い。
しかもそれが自分のことのみとなるとなおさらだ。
だけどそんな馬鹿は私を逃がすために、前線を引き受けてくれたのだ・・・
そしてもう1人は前々まで仲間だった奴と勝負することとなっている。
・・・今まで仲間だった奴と勝負する、なんて思いきれるわけがない。
彼だって無理をしている・・・
それをわかっていながら、力になれないと解釈して私は1人悠々と敵前逃亡。
・・・大馬鹿野郎としか思えない行いだ。
・・・私はそんな馬鹿な奴らを救いたい。
恩返し、とまではいかないけど助けてもらった分の借りは返したいのだ。
それは私1人では無理なことだから、同じを利益・・・というのは少し違った言葉だが、そういうものを得る者たちと共に。
そのためにはどうしても目の前の女性を説得するしかない。
「・・・生徒会の資料だと私は散々だろう?勝手に少数人数を率いて、生徒会でもないのに会議室を多様して、“卯月咲良”とのいざこざはしょっちゅう。挙句に今や生徒会に敵対するチームにいて、多くの警備部を眠らせている上に、先ほど1人の生徒をぶっ飛ばしてしまった。」
あ、最期のはわざとではないのだが・・・
しかし私にはこんなにも多くの欠点がある。
信用されない、というか・・・
危険視されるのも無理はないし、文句をいうつもりもない。
それに・・・
「私からもお前ら警備部は正直“敵”という意識が強い。今までに何度も警備部に殴りかけられてきた。・・・そして今もな。」
・・・ぶっちゃけてしまえば、の話だが。
あまり「敵」という言葉は好ましくない。
だが上手い言葉が見つからなかった・・・
この場合は仕方なく「敵」という言葉を代用した。
彼らは生徒会の幹部たちの命令で動いているだけなのかもしれない。
彼らにも、悪気があるわけではないのかもしれない。
けれどそれでも私たちからみれば警備部は「生徒会の実力行使部のうちの1つ」という見方が今までの行いからどうしても強くなってしまう、というのも現実のうちの1つだ。
「だが穏便に事を進めたいと考えている厳島さんと私たち絆同盟の考えは一致するところがあるんじゃないかと思う。」
これは時津風の話・・・
いや、正確には川口からの話だといっていたな。
川口の話では厳島という生徒会の幹部のうちの1人は事を穏便に進めたい、と考えているらしいときく。
私たち絆同盟も、彼らがやってくるから自己防衛として対処しただけであり、実際は穏便に事を進めたいと考えている。
お互いでお互いを敵視しつつも、お互いにお互いの今までの行いをみてきて信頼できないかもしれないが・・・
もしかしたらこの2つのチームはともに手をつなぐことができるのかもしれない。
「だから私個人とお前個人としてではなく・・・絆同盟と警備部として、話をしたい。」
・・・まったく私はいつからそんなに偉くなったのやら・・・
こういうことは将軍や川口に頼みたいところであるが、2人ともここにはいない。
ならば中心人物である「十六夜」や「卯月咲良」、「桶狭間」たちに頼みたいが・・・
彼らも今は目の前の問題対処で忙しい。
・・・結果少し出過ぎた調子に乗った動きになるかもしれない。
後々周りから反対されて、叩かれるかもしれない。
・・・覚悟の上だ。
味方からは反対されるかもしれないし、相手からも私や絆同盟を信頼してくれないだろう。
・・・だからといって諦める・敵視するのではなく、まずは私自身が相手を信頼するところから始めたい。
「・・・私たち警備部はあなた方の玩具ではありません。考えは仮に似ていたとしても敵というのは変わりません。」
皆は知っているだろうか?
某有名・人気アニメにはあるロボットがダメダメな少年に道具をだして助ける、というものがある。
ダメダメな主人公にはたくさんの欠点がある。
だけど、それでも人を信じるという優しさを持っている。
そのアニメにはダメダメな主人公をしょっちゅうからかういじめっ子2人がいる。
今まではずっと仲たがいをしてきた。
だが、映画のような巨大な困難に直面した時・・・
皆は結束することができる。
・・・私たちも同じなのではないだろうか。
アニメにできて、現実にできないことはたくさんある。
けど、アニメでできて、現実でもできることもたくさんある。
「私とお前は・・・簡単にいえば今は敵同士なのかもしれない。だけどこれからは手をつなぎあわせてお互いに協力できることもあるんじゃないかな、と私は思う。」
「・・・失礼な話ですがあなたは常識で物を考えていますか?今という決戦時に敵対している者同士が組むなんて・・・それこそ、“なんでも願いを叶えてくれるロボット”にでも頼まないと実現しませんよ。」
実際その某アニメのように何でも願いをかなえてくれるようなロボットはこの世にはいない。
だけど、願いをかなえるために努力することはできるだろう。
その願いをかなえることの架け橋が人と人との「信頼」なのだと私は思う。
その架け橋である信頼の架け橋こそが人を信じることだと思う。
・・・ま、簡単にいえば「架け橋の架け橋」となる。
こうして言うとだいぶゴールまでは遠いように見えるけど・・・
進んでいけば必ずゴールにつくのだ。
結局そこも努力次第、というゴリ押しな考え方で私は通してしまう。
大きな問題の前で、今まで仲たがいしていた皆が結束できるのは言うまでもない・・・
その主人公が「素晴らしい」からなのだ。
ダメダメな主人公にはたくさんの欠点がある。
だけど、それでも人を信じるという優しさを持っている。
その「今まで仲たがいをしていた」者も信じる優しさこそがその少年の強さなのだと思う。
だから・・・
私もその少年の強さに賭けてみようと思う。
「・・・信じて欲しい。」
「・・・」
目の前の女性は少し不機嫌そうな顔をしてこちらを無言で見つめる。
「・・・信じてあげてもいいんじゃないですの?」
すると横から不意に声がきこえた。
「・・・砕川さん?どうしてここに?」
「どうしてじゃないですわ。放送室に監視しに行ったっきり戻ってこないんですもの。“癒梨にしては遅すぎるね・・・”って厳島さんが心配してたから見にきてみれば・・・心配して損ですわ。」
「すみません・・・」
砕川という女性はため息をついてこちらにやってきてから、凛動の肩を軽く叩いた。
「ま、ご無事で何よりですわ。」
それから凛動に向かって微笑んだ。
砕川の言葉に凛動が目を閉じて軽く会釈をする。
「相変わらずですわね。・・・さてと・・・」
すると、砕川がこちらに向いてやってくる。
「面白い発想の持ち主ですわね。・・・ま、あなた方も攻めるつもりはないみたいですし、私は信用してもいいと思いますわよ。」
今度は偉くこちらよりの考え方の持ち主だ・・・
そもそも生徒会がなぜ「こちらに攻める意志がない」と知っているのだろうか、凛動は知らなかったのに・・・
「なぜこちらが攻めるつもりはない、と知っている?」
「あなたが自分で言ってたんじゃないですの。“信じて欲しい”って。」
「・・・」
とはいえども、それだけで信じる、というのはそうとうな“のび太”くんだ。
「それに・・・私の知り合いにとんでもない馬鹿がいるんですが、どういうわけか彼、あなた方についての情報をよく知っているんですのよ。」
「・・・?」
「ま、そんな顔なさらずに。今のはほとんどこっちの話ですの。」
「・・・信用するんですか?」
凛動は今でもやはり「信用できない」という顔つきで砕川のほうを見る。
「私は信頼してもいいと思いますわ。相手は私たちのことを信用してくれているみたいですし。」
「・・・?」
その言葉に凛動は「その根拠は?」と言わんばかりに顔をしかめる。
「はぁ・・・冷静に考えればわかりますわよ?そもそも信頼できないような相手にこんな協力しよう、なんてことは言いませんもの。」
「・・・」
しかしそれでも凛動は頷くことはない。
「お気に召さないようでしたら、ここは厳島さんに決めてもらうということでどうですの?それならお互い文句ありませんでしょう?」
「・・・そもそも彼女を厳島さんのところにつれていくという地点で・・・」
「本気で攻めるつもりなら警備部会議室はとっくの昔に攻められていると思いましてよ?」
その言葉に凛動はうつむく。
・・・どこまでも私を信用したくないらしい。
「・・・わかりました。」
「というわけで、絆同盟お一人様警備部会議室へご案内♪ですわ。」
・・・どういうわけか砕川という人は楽しそうだ・・・
なにはともあれ、こうして私は警備部会議室へと向かうこととなった。
放送室内では、今まさに関ヶ原が鷹村を引き込んでいるところだった。
関ヶ原はごくたまに後ろを確認しつつ徐々に押されている振りをして下がっていく。
バットを相手にぶつけないように、押されているように見せかけて、さらに押されているので若干パニックになっているかのようにテキトーに振るのは簡単なことではない。
ただ唯一救いなのは鷹村はバットや竹刀などの武器はもっておらず・・・
持っているのは、「睡眠スプレー」のみだった。
しかしそれはこちらはそういった意味では安全、という意味でもあるが・・・
その分引き込むのは難しい。
相手がバットの攻撃をかわして、スプレーを撃ってきた瞬間にかわすフリをして下がる、というのを繰り返している。
ただ関ヶ原は念には念をこめて「3歩進んで2歩下がる」の逆パターンを行っている。
自分も無言だが、相手も無言。
だからこそ相手の真意が読みにくく、厳しい。
そんな中、結局相手の真意を読めないままついに放送室の最奥部にまでやってきた。
「ッ!!」
関ヶ原も時々後ろ確認はしていたものの、あまり近くにいって後ろを見ると相手に勘付かれる、ということを考慮したために近づくたびに後ろ確認を怠るようになっていた。
そのため、最奥部の放送するための機械の前の小さな椅子にぶつかり、不意に後ろを確認してしまう。
「!?」
その瞬間、鷹村は「待っていた」とばかりに一気に距離をつめ、関ヶ原がバットをもっている右手をつかむ。
「てめぇ!」
「甘かったな・・・俺がそう簡単に誘導にかかる、とでも思ったか?」
右手は彼につかまれ、ほとんど動かせない状況。
そんな中、彼は関ヶ原を完全に追い込むためさらに推し進める。
これ以上後退はできないので、左手で壁をつかんで抑えている状況。
そんな中で目と目があう。
だが鷹村は関ヶ原の目を見て苦笑する。
「・・・まだ“諦めません”って目をしてやがるな・・・」
鷹村は半分呆れ、半分尊敬の目で見ていた。
しかしその目は“お前の戦略ミスを呪うといい”といった勝ち誇った目でもあった。
その言葉に対し、関ヶ原もまた苦笑をして呆れ顔をしてその言葉に応える。
「そりゃそうだ。簡単に諦めるな、って教えてくれた奴が前々にいてな・・・そいつのおかげで生徒会の闇討ちを切り抜けられたんだ。」
関ヶ原の言う「簡単に諦める、と教えてくれた奴」というのは今まさに、彼が自分のチームのリーダーと認めた相手と戦っている相手のことだ。
「こんなところで諦めちまったら、あのボケ(狭間)にも顔向けがたたないが、何より「諦めるな」って教えてくれたアホに顔向けがたたねぇんだっぺよ。・・・おわかり?」
「へぇ・・・その“アホ”ってやつ・・・いい奴なんだな?」
関ヶ原の応えに、その“アホ”というのが誰だか鷹村自身気づいていながら苦笑を続けて意地悪な答えを返す。
「いい奴だっぺよ?うちの仲間に悪い奴なんていねぇっぺ。」
そんな意地悪な答えにさえ、関ヶ原は堂々を頷いて応える。
「・・・だけど今回は諦めるしか道はないぜ?何しろお前は詰んでる。両手が使えない状況なんだからな。いくら粘ってもダメージは蓄積する。あとは時間の問題だろ?」
「そうかな?その前にあのボケがアホを説得し終えてくれる、って可能性もあるだろ?」
「その前のその前に説得に失敗する可能性は考えなくていいのか?」
「ハハッ、あのボケはどぉ~いうわけかここ一番のときは失敗しない・・・長い付き合いだ、今回も成功させて憎たらしい笑みと勝ち誇ったようなドヤ顔をしてこっちに戻ってくるってわかるんだ。」
関ヶ原は心の底で「どんだけ桶狭間頼りなんだよ・・・」と呆れもしている。
しかしそれはそれだけ桶狭間を信頼している、ともいえることだ。
「なるほどねぇ・・・」
「勝つのは・・・俺たちだ。」
関ヶ原はバットをつかんでいる右手をグッと強く握り締め、力強く言う。
「どうかな、賭けてみるか?お前の体力が尽きるのが先か、うちのリーダーが説得させるのが先か。」
「いいねぇ、賭け事は好きだっぺよ?勝ったら何?相手のリーダーを認める、とか?」
「いや、それじゃ簡単すぎだろ。相手のリーダーを奪い、負けたほうはそれを認める。案外そっちのリーダーもお前がそこまで言うほどだ、なかなかのもんなんだろうしな。」
それは非常に厳しい条件だった。
だがその条件を出されても関ヶ原は余裕を笑みを浮かべて頷く。
「OK、のった・・・」
その応えに鷹村も頷こうとした。
だが関ヶ原の言葉にはまだ続きがあった。
「・・・といいたいところだが・・・ここまで茶番に付き合ってもらっちゃってて悪いんだっぺが、この賭けは賭けそのものが・・・」
その関ヶ原の続きの言葉に鷹村は目を細める。
「賭けなし!!」
関ヶ原はそういうと、足で奥にある棚を思いっきり蹴る。
その上にはある本が角が棚から飛び出し、すぐに落ちてきそうな中途半端においてあった。
桶狭間と関ヶ原が放送室にきた当時機械の動かし方がわからなくてある本を使った。
だがジャスティス配下によって分厚い扉は破壊された。
そのとき、桶狭間は椅子から立ち上がって持っていたその本を棚に中途半端に置いたのだ。
・・・桶狭間らしいテキトーな置き方だ。
そのテキトーな置き方が・・・
鷹村と関ヶ原の勝負の勝敗をつけてしまうことになろうとは桶狭間自身思ってもみなかったであろう。
蹴られた棚はガタンと衝撃をうけて揺れる。
その揺れで中途半端に置いてあった分厚い放送用機械の説明書は落下する。
・・・その落下地点は見事に鷹村の頭の上だった・・・
「痛ッ!」
その本がちょうど鷹村に当たったと同時に隙が生まれた。
関ヶ原は右手を振りほぼいて、一気に鷹村にタックルをする。
鷹村の腹部に手をかけて、関ヶ原は分厚い扉が倒れたところまで力押しで押していく。
鷹村は後ろ向きにすごい勢いで進んでいくので転ばないように足を回転させるだけで精一杯だった。
そして鷹村は見事に分厚い扉にかかとを引っ掛け、転倒した。
・・・ちなみに突っ込んだ関ヶ原もというおまけ付きで。
関ヶ原は転ぶときに後ろ向きで転倒している鷹村が頭を打たないように頭を支えていた。
その対応もあり、2人とも怪我はなく済んだ。
「・・・ったく、思ったより力押しになっちまったな・・・」
関ヶ原は立ち上がって、ほこりを払いながらに言う。
「・・・チッ、扉があるってことまでわかってたのに・・・あんた、強ぇな。」
鷹村は扉の上に大の字で倒れたまま、関ヶ原を見て言う。
「俺じゃねぇ・・・」
「・・・え?」
「強ぇのは、“本”と“扉”だっぺ。」
その応えに再び鷹村は苦笑していう。
「違いねぇな・・・ハハッ。」
「ったく、それに比べてあんたはなかなかだっぺよ?特にその反射神経。」
「勝ったお前に言われると、褒められてるんだか貶されてるんだかわからねぇよ。俺の反射神経は本と扉以下か?」
2人は苦笑しながらに言う。
やがて関ヶ原は「よっこらせ」と鷹村が倒れている隣に座る。
「・・・あの時、なんでバットを使わなかったんだ?」
「あぁ?」
「あの時バットを使ってりゃこんな苦労せずに済んだだろ?」
あの時、というのは関ヶ原が椅子に突っかかり鷹村が距離をつめてきたときのことだ。
そのとき、関ヶ原は使おうと思えばバットを使えた。
だが使わなかったのは理由がある。
「なんのことやら。あの時はいきなりでバットなんて使えなかったっぺよ~?」
だがそれを関ヶ原はあえてごまかした。
「他人を傷つけたくなかった」と一言いえばいいだけなのに、ごまかす。
彼にとってはそれすら面倒なのだ。
「嘘言え。ったく、ホントテキトーな野郎だ。」
「お前もだろ。その器でよく人のことを言えたものだっぺ。」
「たしかにな。違いねぇっぺ、ハハッ。」
「人の口調をパクるなだっぺ。」
2人は勝負を追え、苦笑しながらお互いのリーダーたちの決着を待つのだった。
そして2人が待ち望んでいる2人の決着も近づいていた。
相変わらずの中島の射程の長いスプレーの乱射に桶狭間は困らされていた。
「おい!そんなにスプレーを巻いたら自然破壊につながるだろうが!!」
「コレは自然にも優しいスプレーなんですよ?」
「それになんだ、その足元に大量に転がっているものは!!ポイ捨てサイテー!!」
「安心してください。あなたが眠った後にちゃんと片付けますから。」
「・・・」
桶狭間は彼女の毎度ながらそのちゃっかりとしたところというか・・・
地味にしっかりしているところというか・・・
変なところはまめというか・・・
そんな妙なところに呆れ半分、戸惑い半分。
テキトーにいって攻撃をやめさせる、という手もこれで終了。
(・・・やっぱ最終手段しかねぇか・・・)
桶狭間は自分の持っているスプレーを見る。
「いい加減諦めてくださいよ。そのほうがあなたの言う“自然破壊”を防ぐことに少しでも貢献できますよ?」
「いやいや、お前が諦めろよ。そもそも乱射っていうのはよくないと思うんだ。貴重な資源が・・・」
とかいって油断していると、スプレーがやってくる。
どんな場であっても油断は禁物なのである。
(しょうがない・・・)
桶狭間もついに折れ、最終手段を実行することにした。
これは一か八か、だ。
2分の1。
確率は低いともいえるし、高いともいえる、ボーダーラインだ。
(いくぜ・・・!!)
桶狭間は覚悟を決めて、中島目掛けて猛ダッシュを開始する。
その行動に中島は目を丸くする。
「ここまできて気が狂いましたか?・・・ま、こっちとしては儲けものですが。」
彼女はその絶えることない笑みを浮かべて彼女目掛けて走ってくる桶狭間に両手のスプレーを2本とも彼に向ける。
「これで・・・終わりです。」
桶狭間がちょうど中島のスプレーの射程に入り、中島がスプレーを押そうとした瞬間・・・
桶狭間はニヤリを微笑む。
「中島!!お前からもらったもんだ・・・返すぜ、受け取れ!!」
「・・・え!?!?」
桶狭間は走りながら、彼女を傷つけないように優しく・・・(そこは紳士だぜ、とか桶狭間は思ったり?)
彼女のほうに向かって、催眠スプレー缶を投げた。
宙をゆったりと回転しながら、見方によっては華麗に優雅に飛ぶスプレー缶を中島は見つめる。
・・・フッ、と我に返っても両手にはスプレー缶がある。
「くっ!」
彼女は結論として「避ける」という選択肢を選んだ。
・・・いや、それしか選べなかった。
そして避けた瞬間、走ってきた桶狭間につかまった。
「・・・!」
桶狭間は中島が回避する方向も読んで走ってきていた。
結果、後ろには壁。
両手は桶狭間の手によってガッチリと固定されている。
「残念、俺の勝ちかな?お前から受け取ったもんは役にたったぜ。」
「そういう使い方をしますか・・・相変わらずあなたの発想には驚かされます。」
彼女は半分諦めの目をして苦笑した。
(やっぱりな・・・)
そしてその目をみて、桶狭間は確信した。
「中島はやはり連れ戻せる」と。
・・・諦めが早すぎるのだ。
大方ジャスティス配下を潰しこちらの安全を確保する、それのみが目的であとはテキトーに遊んで自分たちが俺たちの敵だと教え込ませる。
で、ある程度遊んだらわざと負けて、はい終了。
・・・ま、そう都合よくはいかせる予定はまったくねぇんだけどな。
「とはいえ・・・今日はあなたにしては少し頭が良かったかもしれませんね。こんな不利な状況でも打開してしまったんですから。」
・・・あなたに「しては」ねぇ・・・
ホント、こいつのなかの俺の人物像はどうなっているのやら・・・
相当な「馬鹿」だと思われてるんだろうなぁ・・・
ま、実際馬鹿だけど。
「今、こうしてお前を追い詰められたのはお前のおかげだぜ。」
「・・・私の?」
「そうだ。前々に教えてくれたろ、すぐに諦めんなって。・・・諦めなかった結果がこれだよ、どうだ、素晴らしいだろ?」
なんか全力で皮肉っぽくなっている・・・
一応称えているつもりなのだが。
「・・・そう・・・ですね。素晴らしい・・・かもです。」
「だろ?・・・だから他のところにいる皆もきっとこれからどんな困難があったにしろ諦めない。」
「・・・」
「・・・そして俺もな。絶対お前をつれて帰ってや・・・」
と言い切る瞬間に腹部に痛みが走る。
おいおい、もう少し手加減してくれもいいじゃん・・・
と俺は本気で感じたよ・・・
「痛てててて・・・相変わらずいい蹴りしてんな。」
思えば初めて彼女と話したときも、ある事故がきっかけで蹴られたっけなぁ・・・
ありゃ正直今より痛かった!!
あの後川口には見つかるしで、結構寿命が縮む思いだったんだぞ・・・こいつは知らんだろうが。
「甘いですね。油断してるからそうなるんです。」
彼女の目は再び鋭くなり、それはまるで桶狭間を拒絶するかのような目でもあった。
・・・上手く騙し通したつもりなのだろうか?
いや、実際今のは上手い騙し方だが、ちょいちょい甘いぜ。
そういう騙しあいは関ヶ原とよくやってるから、見分けられるようになっちまってるんだよな、俺。
関ヶ原とのふざけあいがこんなところで生きるとは・・・
関ヶ原も桶狭間も思っても見なかったことだろう。
「へへっ、上手く騙しとおせたつもりか?」
「何のことです?」
「へぇ、まだ騙しとおそうとする?たいした覚悟だぜ。」
彼女は目を細めてこちらをにらむ。
おぉ~、怖い怖い。
けど彼女が本気ではないと気づいたからこそ、こっちとてより本気で彼女を救わなきゃならねぇ。
こんなところでチキってる場合じゃねぇんだよ。
そろそろおちょくりモードも禁止にして・・・
真面目に救援作業といきますかねぇ!
・・・実は蹴られたときにドサクサにまぎれて“あるモノ”を彼女から盗んだのだが・・・
果たして彼女はいつ気づくのやら。
「お前さ・・・気づかないわけ?」
「・・・?」
彼女はまったく気づく様子がない。
仕方ないので俺はわざとらしく襟をヒラヒラパタパタとさせる。
「しっかし今日は暑いなぁ・・・」
なんてことをいって。
その行為で彼女は襟を確認する。
「ッ!」
「・・・気づいたか?」
俺は微笑んで、手のひらの上にのっている“あるモノ”を出す。
・・・それは生徒会の証、菊の紋章だ。
「お前にしては気づくのが遅かったな。」
「返してください。」
「いやだ。」
・・・これはまるで子供の喧嘩のようだ。
よくドラマとかにもあるやつだ。
幼稚園の年長組の奴らが年小組の子供の帽子やら何やらを奪ったりして・・・
・・・ん?ってことは・・・
よく考えてみると俺、完全に悪役じゃね?
「・・・ったく・・・」
悪役・・・か。
俺は今日で何回目になるのだろうか、またもやため息をついてしまう。
ため息をついている人をみると「幸せが逃げていく」なんていうが・・・
今日はここぞとばかりについてない。
どうせ今日の幸せの神様はとっくの昔に俺を見放してるんだ、今日ぐらいはため息連打でも文句なしでOkでしょ?
・・・にしてもホントにやれやれ、手間のかかる女だ。
だけど、それでも俺たちの大事な仲間なんだ。その思いは絶対変えない。
・・・中島を連れ帰すためなら・・・
俺は悪役だろうがなんだろうがなってやる。
何がなんでも諦めない。
最後の最後まで諦めるな、と教えてくれた奴にその効果を痛いほど教え込んでやるぜ。
「返してください!」
「なぁ・・・中島。俺の話をきけ。・・・3分で終わる。お互いもう幼稚園は卒業してる、子供じゃないんだ。・・・穏便に話を進めよう。」
「・・・」
その俺の提案に彼女は渋々頷く。
「いいか、お前は俺の3分で終わる話を聞け。そしたらこの菊の紋章を返してやる。」
「・・・」
「ただし全力できいて、全力で考えろ。それが条件だ。」
「・・・いいでしょう。」
いわゆるこの3分間は俺のお説教タイムってことだ。
前も散々ベラベラとしゃべっておきながらまだしゃべるのかよ?
ごもっともな意見だ。
俺自身も話すことなんてほとんどねぇ。
・・・3分は盛りすぎたかなぁ・・・
まったくをもって誰得だよ・・・
大体野郎のお説教なんて聴きたくないだろうし、俺だってそんなダルいもん、電光石火でお断りだ。
だが嫌でもやらなきゃ彼女は帰ってこない。
・・・ならやるしかないだろ?
「中島・・・前も行ったとおり皆、お前の帰りを待ってる・・・」
「・・・」
「なんて話は止めだ。どうせ耳を傾けてくれない、ケチだからな。」
その言葉に彼女はムッとする。
・・・どうやら結構真剣にきいてくれているようだ。
「だが俺は1つ、仮定を上げてみた。正しいかどうかは応えなくていい。聴いてくれ。」
「・・・」
彼女は頷かない。
・・・ま、頷かなくてもしゃべるけどね。
人間しゃべるために口があるんだぜ、おわかり?
「簡単は話だ。お前は俺たちを裏切った。けど実は帰りたい。でも俺たちがお前が裏切ったことを怒ってるかもしれない。ならいっそ影で俺たちの役にやって自分の役目を終わらせよう、こういう考え方をしている、という考え方だ。」
素晴らしく簡単だろう?
これをわからないっていったら俺、キレるぞ?
「してませんね。どうしたらそうもプラス思考になれるのか・・・」
「まぁまぁ、最後まできこうぜ。」
「・・・」
彼女は納得行かないといった顔をして口を閉じた。
「実はな、決戦前に将軍が“誰かが生徒会側にまわるかも”って言ってたんだよ。」
「・・・さすが将軍さんですね。」
「だろ?・・・それでその場にいた奴に“もし俺がその生徒会側の奴と出会ったら伝えておいて欲しいことはあるか?”ってきいといたんだ。」
そういって俺はポッケから折りたたんだ小さな紙をだす。
・・・この紙は皆にきいたのをメモっといた紙だ。
万が一のときのことを考えて作っておいた・・・
俺の最後の切り札だ。
・・・やっぱり備えあれば憂いなし、だな。
「というわけで・・・読むぜ。」
“おい、こら!大馬鹿野郎!!何ちゃっかり有利な方へ進んじゃってるの!?今更抜け駆けなんて許さないぜ、ちゃんと帰ってきてこの決戦を終わらせたらまた笑いあおう。 by十六夜”
「・・・ま、これは正直発表するか微妙なんだがな・・・」
これほどにまでふざけるとは思わなかった・・・
奴もなかなかのやり手だぜ。
・・・というか、彼はもしかしたら俺が「もしものときのため・・・」ときいたときですら、「そのもしものときなんてない」と皆を信じていたのかもしれない。
“桶狭間にぶん殴ってでも連れ戻して来いって頼んであるっぺ。帰ってこないと今度は俺が殴るっぺ。ちゃんと帰ってきて、ともに勝利の祝杯をあげようや。1人ぼっちなんて・・・寂しいだろ?それと同じように俺たちは1人かけても寂しいんだ。必ず戻ってきてくれ。誰一人もかけることなく、全員でつかんだ勝利を全員で祝う用意をしておくから、お前は“笑顔”の用意でもしておけよ。 by関ヶ原”
「こいつは何を勝ったつもりでいるのやら・・・てかこれ、確実に脅迫だろ。」
これは関ヶ原は“もし生徒会側の奴がいたら”という話で、そいつが男子だと思ったのだろう。
まさか女性だとは彼もびっくりしただろうに。
それともそもそも「男女平等パンチ」という奴を狙ったものなのだろうか・・・?
なんてことを思いつつしゃべるが、彼女は反応せず。
いや、よくみればいつもの笑みが消えている。
・・・それだけ真面目に聞いてくれている、ということか。
・・・次行こう。
“今まで俺は挫けそうになりながらも団結して困難に打ち勝ってきた絆同盟を見てきた。こんなところでその団結はなくなるべきではないと思うし、なくならないと信じている。その絆の強さは皆がそろってのものだ、必ず戻ってきてまたその強さを証明して俺に見せてくれ。大事なのは一歩踏み出すための勇気だ、健闘を祈る。頑張れ! by川口”
“ま、誰かはわからないが言っておこう。・・・誰もお前を責めたりなどしていない。自分の気持ちに嘘をついたら一生後悔することになる。自分の行きたい道を進め。自分に正直に向き合ったとき、初めて本当の自分と向き合えると思う。本当の自分が何を一番望んでいるのか、よく吟味してみろ。嘘をつかず進むことは決して臆病でも無責任などではない、目をそらすことこそが臆病で無責任なんだ。心を強くもって前へと進んでくれ。 by将軍”
「・・・最後は俺からだ。」
“とりあえず言おう。なんでも1人で抱え込むな。たとえ言いにくいことでも俺たちはお前を責めたりなんてしない。たとえどんなに大変でもつらくても、応援してくれる人はたくさんいる、味方だってたくさんいる。だからすぐに諦めんな。必ず助けるから。頑張れ、負けるな! by俺”
なんやかんやでこうして言うと、改めて自分の文章力のなさを感じたりしてしまう。
・・・将軍とか川口とかセコいだろ、と思う。
俺のが一番目立ってないというか、フツーというか・・・
涙目すぎる。
やっぱり最後に川口と将軍のを言うべきだった・・・
そんなこんなを思ったりしている。
「・・・わかったか?皆お前を心配してるし戻ってきて欲しいとも思ってるんだ。」
皆のを真剣に聞いたんだろ・・・
だったらお前が“良い道”と思ってやろうとしてることは絆同盟全体からみればまったくをもって正反対に間違っている、ということに気づいてくれ。
「俺たちはいつも不器用だからこんなことしかできないし、今までの交渉とかも半分強引に行ってきた。だから今回も強引に行かせて貰う。・・・お前はただその波にのればいい。」
「・・・それで?」
彼女はそれからあまりに呆気ない言葉を返した。
「・・・それで?」・・・ってそれだけかよ・・・
皆の意見をきいて、それだけなのかよ・・・
「・・・もう3分たちましたよね?返してください。」
え?もう3分たった?
延長公演はお断り?
くそ、ケチな舞台だぜ。
やっぱりこいつはケチだ。
そんなことを思いながら俺は手のひらの上にのっている菊の紋章を彼女の前に出す。
「・・・約束は守る。・・・ほら。」
「・・・くださいよ。」
どうやら彼女は自分でとるのがお気に召さないらしい。
時津風じゃないが、どんなお姫様だよ・・・
「俺がこれをお前にホイホイと渡せると思うか?」
「・・・悔しいですか?」
「あぁ、悔しいよ・・・」
たまらなく悔しいよ。
助けたい奴はこんなに目の前にいるのに、手が届かないなんて・・・
どうして気づいてくれないんだよ・・・
こんなに言ってるのに・・・
どうしてそんなに自分を犠牲にすることにこだわるんだよ・・・
「・・・最後にきかせてください。」
「なんだ?」
「・・・皆はホントに怒ってないと思いますか?」
そんなの当たり前じゃないか。
即答で答えられるし、確実に自信をもっていえることだ。
「当たり前だろ。」
「・・・そう・・・ですか・・・」
彼女は最後の最後に悲しそうな顔をして、紋章に手を伸ばす。
そのときだった。
「リーダー、俺たちは大丈夫ですよ。」
「?」
後ろを見てみれば、関ヶ原と鷹村がいた。
「よっ、アホリーダー。いつまで長引かせてるんだ?」
関ヶ原は退屈したような顔でこちらに言う。
「あまりに遅いから来て見れば・・・リーダー、もし俺たちのことを考えての彼らの断りなら正直迷惑です。」
「・・・おいおい・・・」
関ヶ原は「言いすぎなんじゃね?」という顔をする。
この状況をみるに、中島はおそらく「鷹村たちのためにやめられない」というのもあったのだろう。
・・・そこは気づけなかった・・・
「で・ですが・・・!」
「俺たちは元々正式な生徒会じゃないですし、辞めようと思えばいつでも辞められます。でも俺たちがそうしないのは俺たちが生徒会にいたいからです。・・・リーダーは違うでしょう?」
「・・・」
「川口副会長だって、大事なのは一歩踏み出す勇気、といっていたじゃないですか。勇気をだして一歩踏み出せば、あとは彼らが先導してくれます。・・・な?」
鷹村の言葉で桶狭間は頷き、関ヶ原も頷く。
「それに俺たちは違うチームにいても同じこの高校の生徒ですし、同級生でもあります。」
「・・・」
「今はお互いに敵対していますが、この時期を越えれば今度はきっと生徒会と生徒がともに協力していく時期になります。」
敵対しているのは今だけ、時期をこえればまた協力できる時期がくる。
そういうことか。
「・・・あなたは自分の進みたい道に進んでください。」
「・・・ホントに・・・いいんですか?」
鷹村の言葉に中島が俺たちにとって希望ある言葉を言った。
「はい。伝達部のことも任せてください。」
「・・・」
すると彼女はゆっくりと頷いてから、こちらを再び見た。
「・・・また・・・お世話になってもいいですか?」
「今まで散々いってきたろ?人の話をきこうぜ。」
俺は自分でもわかるぐらいの意地悪な笑みを浮かべて、彼女に言った。
「・・・これからもよろしくな。」
俺は彼女の前に手を差し出す。
・・・ま、アレだ、再開の握手とかさ、そういうのってあるじゃん?
この場合は再参戦の握手?
ま、そんなところだ。
「・・・こちらこそよろしくお願いします。」
やれやれ・・・
ホントようやくだ。
どんだけ長引かせたんだよ・・・
っていうのも、俺の交渉術が悪かったのが原因だが。
俺は今度こそ彼女がこの同盟から離れてしまわないように・・・
強く強く思いをこめて握手をした。
廊下では4名が2対2で竹刀をぶつけ合っている。
「前よりキレはましたんじゃないか?」
「お前も前より、より容赦がなくなったな。」
陽炎と飛沫は一進一退、押しては退き押しては退きの互角の攻防を繰り返していた。
「ほれほれ、どうしたよ、ときっち?お前はそんなもんか?」
一方時津風は不調だった。
神威に押されていた。
というのももう左手が限界に達していたのだ。
その上に神威は技術や小回りよりも、1回1回の攻撃が重たい力押しタイプだったため、竹刀と竹刀がぶつかり合うたびに左手に痛みが響く。
・・・正直今の場合は最悪の相手だった。
「・・・」
とはいえ、神威にも疲れが見え始めてもいた。
動きが明らかに悪くなっている。
前々に比べてだいぶ隙も見えるようになってきたが、先ほどもいった通り、左手が限界に達しているため上手く攻められない。
(バスケをやっているときいたが・・・体力的にはそうでもないのか・・・?)
なんて時津風は思うが、よくよく考えればバスケはものすごく体力を使うスポーツだ。
試合中はほとんど走り回っている。
シュートをするたびにジャンプはするし、ボールは投げるし・・・
あっちいったりこっちいったりで忙しい。
時津風のなかで、何よりも疲れるスポーツベスト3のなかで、バスケはサッカーと並んで最も大変なスポーツとして見事にランクインしていた。
つまりそんなに大変なスポーツをやっている奴がこんなに体力が少ないわけでもないし・・・
ま、帰宅部でもない、いわば「現役」のバスケ部に所属しているらしいので、体力低下なんてものもないだろう。
(ならなんでだ・・・?)
そこを不思議に思った、まさにそのときだった。
「・・・!」
神威が片方の竹刀を落とし、片膝をついて横腹あたりを押さえかがんだ。
右手にもっていた半分の竹刀を床について杖のようにしていて、どうにかバランスを保っているような感じだった。
「なっ!?」
「お・おい!」
隣で互角の勝負をしていた陽炎・飛沫の両者も一旦勝負をやめ、神威のもとに駆け寄る。
「神威、やっぱお前・・・!」
「よせよ、それ以上言うな。俺が格好悪くなっちまうじゃねぇか・・・」
何があったから知らないが、おそらくかなり痛そうだ。
「こうなっちまってる地点ですでに十分格好悪ぃよ。」
「さすがは我がリーダー、思いやりにかけるその言葉、しびれるねぇ・・・」
彼はそういった無理に作った笑みを飛沫に向ける。
「とりあえず保健室に連れて行くべきだろ。」
「敵の情けなんてうけねぇよ、情けねぇ。」
神威はそれを断る。
相手には相手なりのプライドがある、ということだろうか。
だがこんなときにプライドうんぬん言っている場合ではないだろう。
「お前らの手など借りん。こっちの問題はこっちでどうにかする。」
飛沫もこうはいうが、どうみても協力したほうがいい。
ここから保健室まではかなり距離がある。
1人で運ぶのはそうとう大変だし、時間もかかる。
・・・ここはプライドもへったくれもあるか。
「協力するって。」
「いいっつってんだろ。」
強情な奴だ・・・
そんなに人に借りを作るのが嫌なのだろうか。
ま、借りなんてことは思わなくてもいいのだが。
「雑魚は引っ込んでろよ。」
「てめぇな、どこまでカスなんだよ!」
「あぁ?」
飛沫が時津風の胸倉をつかむ。
時津風も胸倉をつかまれたことでつかみ返し、にらみ合いが続く。
「喧嘩してる時間があんなら手をかせよ、アホども。」
陽炎の的確な言葉に2人はお互いに手を離し、それから飛沫が時津風に向かってにらみつけながら言う。
「・・・借りを作らせた、とか思うなよ。」
「安心しろ、これぐらいのこと、借りなんて言わせねぇから。」
そういうと2人は頷いて、手を貸す。
こうして4人は一時休戦をして、保健室に向かうこととなった。
・・・こうして皆、各自の決着に勝負をつけていった。
最後の決着、そして決戦の終結を目指し、各自、各自の道を進み続ける。
「決戦(Ⅷ)」 完
皆さん、地震は大丈夫でしたでしょうか?
・・・こちらはかなり揺れました。
ですが、どうにかこうにか無事でいます。
福島原発とか、余震とかすごく問題になっちゃっていますよね・・・
被災地の方々へ心よりお悔やみ・お見舞い申し上げます。
正直いきなりのことで今でも混乱しています。
皆さんも無事であることを願っております。
・・・今回は早めに更新しておきたかったので「おまけ」はなしです。
・・・ホントすみません。
では、また会いましょう。




