決戦(Ⅶ)
今回おまけが長めです。
現在生徒会と帝国主義に反対する全校生徒たちの間の勝負に・・・
勝敗をつけるため、いたるところで争いが起こっている。
それは非暴力的なものもあるし、暴力的なものもある。
しかし全校生徒側は相手が暴力で問題を解決させようとしてきても・・・
非暴力で物事を行おうとしている。
だが・・・
時には“例外”ということも必要だ、ということに誰かは気づく。
そしてそれに誰かが気づき、誰かが動いたとき、絆同盟にとっては負け、となる。
それを考慮して、多くの点で工夫がこなされていた。
しかしそれは絆同盟にとって最大の弱点でもあった。
故に現在、体育館ではそれを見抜かれ、押されていた。
「この腰抜けどもが・・・なぜ武器を捨てる!?貴様らには生徒会としての誇りというものがないのか!?」
2年生徒会副会長である山崎が、警備部1年最高責任者の仁井の言葉で武器を捨て始めた警備部の生徒たちをみて怒鳴る。
「まさか貴様ら・・・あのチビが怖いとでもいうのか?」
“あのチビ”
というのはおそらくは厳島のことであろう。
生徒会が生徒会を批判する。
・・・地獄の犬たちのように、お互いでお互いに食いつく。
「所詮はたかが警備部の最高責任者じゃないか!たった1人に何を恐れている!?こっちには会長も賤ヶ岳さんもいる。」
山崎は先ほどの仁井の「厳島さんは許してくれた」という言葉で勘違いをしているようだった。
「・・・そういうのじゃないんですよ、山崎さん。」
この期に及んでも、まだ勝利を目指し・・・
無茶苦茶なことをしてこようとする山崎に対し、仁井は静かに言った。
「俺たち警備部は・・・本当の意味でやることを理解したんです。・・・な、みんな?」
「あぁ。」
警備部の生徒たちは一度捨てた自らの武器を再び持ち始めた。
「たしかに俺たちは警備部の生徒は警備部である前に生徒会、そして生徒会である前にこの高校の生徒です。・・・ならばこの高校のために、この高校の総意を通すため・・・我々もできることをするのみです。」
そういって警備部の皆はこちらに向かって今にも噛み付きそうな体勢をとっている山崎を初めとする、もと警備部ではない残りの警備部に向けて自らの武器を向けた。
その対応に、生徒会側も焦りが生まれる。
つい先ほどまで隣で共に自らの敵だと思っていた者たちに武器を向けていた味方が、急にこちらに武器を向けたのだから。
「・・・ふざけるな・・・貴様らの行いは自らの組織を裏切る、ということなのだぞ。後でどうなるか・・・」
「覚悟済みですよ、副会長。」
そう仁井は言うと、自らの襟にあった菊の紋章を力ずくでとって地面に捨てた。
「・・・皆、この件に関しては山崎さんの言うとおりだ。生徒会を辞めさせられる可能性は十分にある。覚悟の決まっていない者は生徒会側として残り最後まで自らの思いを貫け。」
しかし仁井のその言葉はもはや不必要だった。
気づけば仁井に賛同した警備部の者は皆、すでに自らの襟についていた生徒会の証となっている“菊の紋章”を地面に捨てていた。
(・・・すみません、厳島さん。また勝手な行動しました・・・ですが、こうでもしないとこの状況は打破できないんです。・・・許してもらえますよね・・・?)
仁井はうつむいてそんなことを思いつつも、厳島ならこの状況でどのように打開するのか、ということを考えて前を見る。
・・・おそらく同じであろう。
厳島であれば、自らを犠牲にしてでも皆を守る。
・・・川口のように。
(・・・ですよね、厳島さん。・・・今更文句は言わせませんよ。)
フッと微笑み、目の前の暴走寸前の生徒会をにらみつける。
「山崎さん、我々警備部は・・・あなた方を全力で止める!!」
放送室前では生徒たちが何人か眠っていた。
「ちょっと甘く見すぎだろ、人騙し生徒会。俺がまさか催眠スプレーをもっていないとでも思ったのか?」
何人も眠っている中心には2人の男性が立っていた。
「驚いたな。カウンター専門で来るかと思えば・・・まさか近づいた瞬間にスプレーを撃たれるなんて。」
関ヶ原は最初の3人をカウンターのような戦法で眠らせた。
その動きから伝達部の生徒の皆は関ヶ原がスプレーをもっていないものと過信した。
結果近づいた瞬間にスプレーを出され眠らされた、というパターンらしい。
おかげでまた3名が眠らされ、もともと8人の伝達部・・・
しかも、1人は桶狭間と一騎打ちをしているため、7人となった伝達部のうちの6名が眠らされていた。
「相手ながらお前の反射神経には驚いたっぺ。」
「悪いな、俺とてそう簡単に眠っちまうわけにもいかないんでな。」
残りの1人は、中島が伝達部で一番信用している生徒・・・
鷹村だった。
「うちのリーダーとのあんたらのリーダーとの一騎打ちを邪魔させるわけにはいかない。そう・・・リーダーに言われてるからな。」
「そうはいかないんだっぺ。本来なら空気を読んでやりたいのも山々なんだが、今回だけは勘弁だっぺ。」
そういうと、「お互い苦労が耐えないな」というような無言の笑みを2人は浮かべた。
「なら・・・しゃぁねぇな。」
「お互い、お互いの馬鹿リーダーのために尽くすのみだっぺな。」
「そういうこったな。」
そういうと2人は走り距離をつめていく。
(足を引っ掛ければ動きを封じ込められる。)
関ヶ原は鷹村の足を引っ掛けようと足をだすが、ジャンプであっさりと交わされてしまう。
「甘いな、同じ手が2度も通用するかっての。」
「そうか?これはどうだ?」
そういって出していた足をそのまま鷹村のほうへと勢いよく進める。
結果、鷹村を後ろから追っての転倒法、となってしまった。
関ヶ原の足は見事に鷹村のかかとあたりにあたり、勢いがかなりあったために鷹村はバランスを崩す。
(いまだ!)
関ヶ原は持っているスプレーを撃とうとした。
だが・・・
(ッ!!)
鷹村は前方にわざと倒れつつも、睡眠スプレーを使ってきていた。
関ヶ原はそれに対し、体をひねってどうにかわす。
が、バランスを崩し、そのまま転倒してしまった。
結局2人とも倒れてしまった、という結果がある。
「やるね、あんた。」
「お互いに・・・だろ?」
再び2人は立ち上がり、自らの相手の方へと向かっていくのだった。
そして・・・
その2人の苦労の源であるリーダーたちはというと・・・
2人の一騎打ちもすでに始まっていた。
しかし中島はスプレーを何本ももっていることもあり、完全にスプレーに頼った動きをしている。
結果、桶狭間は距離を詰められずにいる。
(闇雲に撃っても当たらない・・・けどスプレーなら予備はありますし・・・ここは確実に相手を疲労の道へと進めるべき・・・ですかね。)
中島はそんなことを思いつつも、ゆっくりと歩きながら両手にスプレーを持ち、スプレーを撃ちまくっている。
しかもそのスプレー、中島自身が改良したものでスプレーの先端にストローのような細いノズルがついており、射程が非常に長くなっている。
一方話をつけるためには、相手を追い詰める必要がある桶狭間は中島との距離を詰めたいわけだが・・・
相手がとにかく長い射程をもったスプレーを乱射しているので思うように近づけずにいる。
その上、かわすために走りまくっていることもあり、息まできれている。
なので直撃すれば、即で眠ってしまうだろう。
(くそ・・・中島め、こっちが疲れてくるのを狙ってやがるな・・・てか、あのスプレーセコくね?)
そんなことを思っても、実際近づけない。
桶狭間は中島が何本もっているかもわからないスプレーがきれるのを待つしかなかった。
一方階段では・・・
「逃がしません。」
1回の攻撃をかわしても、そこから連携でつなげてくる凛動の動きに川中は苦戦していた。
凛動の動きは、どんな攻撃でも必ず次につなげられる攻撃法となっている。
そのため攻撃が止むことはなく、ひたすらに連続でやってくる。
川中は1個1個の攻撃はかわしたり防いだりしているものの、やはり少しずつ押されてもいた。
(ここは・・・打って出るか・・・)
しかし少しの隙はできている。
その隙をつけば押せるものの、こちらが攻撃をするということはかわされれば逆に自分にも隙ができる。
ということは空手をやっている川中からすれば十分理解できていることだった。
確実に相手の動きをとめられる法を使わないと、逆にこちらがピンチとなる。
まして凛動の場合、隙ができても1回の攻撃は防げても、連携で必ず追い込まれてしまう。
だがこうしている間にも、上の階では陽炎と時津風が腐りきった考え方をしている奴と戦っている。
・・・彼は強い。
だからこそ、負けるなんてことはないと信じたいが、時間がたつにつれて追い詰められているかもしれない。
(・・・打って出よう!!)
その心配が川中の判断を焦られた・・・
川中は打って出て、隙をみせた凛動に近づく。
「・・・!?」
その隙をみせた瞬間に向かってきた川中に、凛動は一瞬焦りの表情を見せたが・・・
後ろの上り階段へと下がった。
(速いッ!?・・・だが隙はできたままだ。)
凛動が下がったのは、上り階段の3段目。
緊急で下がった場所にしては、意外と高い段数へといった。
それは凛動ができるだけ高いポイントに逃げたかったからでもあった。
何しろこの場所なら、隙がまだできている凛動を追って階段を上ろうとする川中の背へ・・・
ジャンプして階段を飛び降りれば回れてしまうのだから。
そして川中の手が凛動にあと少しで届く、といったところで凛動は階段を飛び降りた。
咄嗟のジャンプだったので、つい川中も見逃してしまった。
そして見逃してすぐに気づく。
背に回られた、ということに。
(しまった・・・!)
凛動の武器は川中の背中を見事に直撃し、川中は階段でバランスを崩した。
そしてそのまま足を上り階段に引っ掛け、目の前の階段へと思いっきり転倒したのだった。
その階段の上・・・
上の階の廊下では、4名の男性が竹刀をぶつけ合っていた。
「陽炎、てめぇ会長からの頼まれ事を忘れたのか!?悪いが忘れたとは言わすつもりはねぇぞ!」
「忘れてなどいない。だが生徒会をやめることで、会長からの頼まれごとを解決する方法もある。」
神威と陽炎はそのようなことを言いつつ、竹刀と竹刀を交える。
片方が攻め、隙ができたらもう片方が攻める。
そのようなことを繰り返している。
「笑わせるなよ、生徒会を辞めた分際で何を言ってくれるじゃないか。」
「お前のいる内部と俺のいる外部の両面で行えばより効率的に行えると考えたまでだ。」
「そのためにジャスティスを抜けたってのか・・・?」
神威は竹刀をより強く握り、陽炎をにらみつける。
「お前は俺にジャスティスを抜け、リーダーである飛沫に逆らい竹刀を向けた裏切り者と共に問題を解決していけってのか?」
「神威、お前が怒る理由もわかる。だが話をきいてくれ。」
2人は一旦離れ、距離を置く。
その場で立ち止まり、2人はにらみ合う。
「会長を裏切り、飛沫を裏切ったお前を生徒会内には誰一人もうお前を仲間と思っている奴はいない。」
神威は「そんな奴の話などきけない」という目で陽炎を見る。
「じゃぁ、なんでお前はそこまで俺に怒ってる?なぜもっと全力で攻めてこない?」
「なに?」
「誰一人いないのであればお前も俺を敵視してるんだろ。完全に敵視したお前ならもっと強いだろ。」
陽炎は、神威がまだ自分を仲間と見ていてくれているということを見透かして言う。
「たとえ皆がお前を信用しなくても俺はお前を信用してやるつもりではいた。・・・けどな、たとえお前でもリーダーである飛沫に竹刀を向けちまったってところで俺はお前を信用できなくなった。」
「そうか?・・・ならもっと全力でこいよ、アホ。」
「はぁ・・・」
神威は陽炎の言葉に呆れ果てた様子で、深くため息をついた。
それから自らの持っている竹刀に膝で蹴りをいれ、まっ二つにした。
そして、ちょうど半分に割れた竹刀を、両手で1本ずつもって構える。
・・・その姿はかなり不恰好だが、竹刀の長さを短くしたことで手回りが速くなったし、何より両手で攻撃できるようになった。
「これで2本。1本100%の力を出せるとして、100×2で200%だせるんだぜ?俺を本気にさせたらもう勝ち目はねぇぞ、陽炎。」
「それでこそお前らしいじゃないか。」
「・・・俺が勝ったら俺の話をきいてもらおう。」
「じゃぁ、俺が勝ったら俺の話をきいてもらおうか。」
2人は共通の思いを持ちつつも、お互いをにらみ付け合う。
「・・・こいよ、どうせ話をきかないんならぶん殴って話をきけるようにしてやるよ。」
「そういうお前がこいよ。話があわないときは拳で語れ、それが男の流儀・・・そう常に言ってたのはお前だ、アホ。」
「今回は拳じゃねぇが・・・我ながら正論だな。相手をぶっ飛ばして勝った方が正論、これで文句ねぇだろ?」
「あぁ。ジャスティスらしいやり方だ。」
そういうと2人は再びため息をつき、同時にお互いに向け走り出した。
「動きは悪くはねぇが、所詮はスポーツ格闘技か。」
一方時津風と飛沫とでは、飛沫が若干押していた。
何しろ飛沫には手加減、という言葉がない。
故に全力で防御に徹する、ということだけで手一杯の状況だった。
(野郎・・・変に竹刀をカーブさせてきやがって・・・)
おかげで次、大体どこら辺に竹刀がくるか、ということがわからない。
自分の間近で受け止めないと、途中でカーブされたらスカして喰らってしまうのがオチであろう。
そのため、常に飛沫の攻撃を自分の間近で受け止めているため、攻撃するチャンスがないのだ。
「さっきまでの勢いはどうしたんだ?この俺に手も足もでない、なんてつまらないオチはねぇだろうな?」
「少しは黙ってろ、カス。」
攻撃にかわすことに専念しても、飛沫の攻撃は止むことはない。
このまま押されているときに、あの「S&W」を使われたら・・・
時津風は焦り始めていた。
それと同時にもう1つまずい点があった。
・・・左手が痛み始めたのだ。
おそらく竹刀と竹刀のぶつかり合う衝撃が大きかったのだろう。
左手はついこの間、闇討ちでの陽炎戦において叩かれた部分だ。
このままいけば左手は徐々に力が落ちてくる。
となれば当然100%の力は出し切れず・・・
隙が生まれる。
今のままでも十分まずいのに、最悪の事態だった。
(チッ・・・こりゃぁ本気でまずいな・・・)
今回ばかりは時津風も苦笑できずにいた。
再度放送室前。
放送室前では現在も関ヶ原と鷹村がお互いのリーダーの思いを守るためにこの身のすべてをかけていた。
2人は何度もお互いを転倒させあっていた。
転倒させれば隙が大きくでる。
すなわち転倒させたもんがこの勝負を征する、と考えていたからだ。
やはり1回はかわせても、その後の追撃で足をとられるとどうしてもバランスを崩してしまうらしい。
だが実際上手く足がかかっても、倒れるときにスプレーを撃つので結局意味がなくなってしまっていた。
「さすがに・・・痛ぇな。」
鷹村はもう何度転倒したかわからないほど転倒していたがそれでも立ち上がって関ヶ原のほうを見る。
「ま、この痛みもお互い様、か。」
鷹村はそういって、わずかに苦笑しつつ、転倒して制服についたほこりを払い落としている。
(このままじゃラチがあかないっぺ・・・どうにかしないと。)
大まかに見れば、足を引っ掛けるところまでは大体上手くいく。
問題は引っかかって、転ぶところで相手がスプレーを撃ってくるところだ。
当たったら当然眠らされるため、近距離にいられない。
だが足を引っ掛ける、というのは当然近距離だ。
急いでその場から離れないと眠らされる。
そして離れるが、完全に離れきった後には相手は立ち上がっている。
どうにか今まで相手のスプレーに当たりはしなかったが・・・
こちらとて転倒させられたダメージもあるわけでスピードも落ちてきた。
下手をしたら当たってしまう可能性も増えてきていた。
(どうにか相手を転ばせる方法を考えないとまずいっぺ・・・)
一番助かるのは勝手に自分でバランスを崩して転んでくれること・・・
だが、そんなことがあるわけもない。
ということは物に頼らなければならないわけだが・・・
辺りを見渡しても、伝達部とジャスティス配下の眠らされた生徒のみ。
さすがに彼らを踏ませるわけにもいかないし・・・
相手とて生徒は踏まないようにある程度の注意をしながら動いてもいた。
(・・・どうする・・・?)
さらにまわりをみるがこれといって・・・
(ッ!!)
そのとき、ある物が関ヶ原の目に入る。
それはちょうど自分の左後ろのほうにある放送室の扉だ。
これはジャスティス配下の連結部分の破壊によって、放送室内部側によって倒された扉だ。
放送室の扉は、マイクの音が外に漏れないように厚く作ってあった。
だからあれに足を引っ掛けて、転ばさせる、というのは十分な可能性がある。
だが問題はどうやってその扉に足を引っ掛けさせるか。
そしてどうやって放送室内部へと相手を誘導するか、である。
(・・・)
もう一度あの厚い扉をさりげなく見る。
いや、相手をあちらへと追い込めば、あの厚さだ。
めちゃくちゃ攻撃されて押されてバックしているときは放送室内部は見ていないはず。
何しろ正反対にいる関ヶ原との攻防で忙しいからである。
そんな状態なら、不意に扉の角に足を引っ掛けてバランスを崩す可能性が高いのではないか?
だが実際今は関ヶ原が押されると放送室内部へと行く方向にある。
・・・この戦法をとるには関ヶ原と鷹村のポジションチェンジが重要となるわけだが・・・
どうすればいい・・・?
そんな時、ずいぶん前に十六夜がいっていた言葉を思い出す。
「押してダメなら引く」
つまり今回の場合は、自分が押すのが無理なのであれば、自分が放送室に退けばいいのでは?
そうすれば相手は追いかけてくる。
わざと押されているように見せかけて、扉に引っかからないように放送室の一番奥まで行く。
案外鷹村も自分が押していれば、扉の存在などほとんど気にしないだろう。
そしてそこまで行けば相手もその扉を超して、だいぶ奥地まできているはずだ。
そこから反撃していけば・・・
今度は相手が先に扉のところを通る仕組みとなる。
(これでいくか・・・!)
関ヶ原は咄嗟に今考え付いた対応法を信じることにしたのだった。
放送室前の廊下の奥のほうでは2人が守ろうとすべきリーダー2人が一騎打ちをしている。
「スプレーをかわすだけでは何にもかわりませんよ?」
中島は余裕の笑みを浮かべつつ、射程の長い催眠スプレーを桶狭間に向かって乱射していた。
(くそ・・・少しは手加減してくれると思ってたんだけどなぁ・・・)
桶狭間は心の奥底でまだ少しの甘えがあった。
「中島が少し手加減してくれるかも」
と考えていたのだ。
だがこれは今まだに中島が何度もいってきたように、リーダー同士の一騎打ち。
真剣勝負そのものなのだ。
したがって“手加減”などということをするつもりは彼女はサラサラなかったらしい。
(にしても・・・こいつ、どんだけスプレーもってんだよ・・・)
中島がゆっくりと歩いたその周辺には3~4個のスプレー缶が落ちていた。
これはいわゆる「スプレー切れ」、中身がきれたものだ。
中島は自分に相手を近づけないように、ほぼ休みなくひたすらにスプレーを乱射していた。
その分、中身のなくなりも早い、ということだ。
当然中身のきれたものは必要ないわけで、その場に捨てて新たに自分が持っているスプレーをだしている。
彼女はもうスプレー缶はすでに3~4個なくなった、というのに顔色一つ変えずに乱射を続けている。
自分の持っているスプレーを見るも、中島の現在使っているスプレーのような射程を長くするノズルもなければ・・・
使う要素もない。
彼女を連れ戻すには眠ってもらっては困るのだ。
「どこまで粘れるんですかね?」
彼女はまた1個、スプレー缶を捨てて、制服の内ポケットから1つスプレー缶を取り出した。
「はぁ・・・はぁ・・・お前がこっちに戻ってきてくれるまではどこまででも粘る予定だぜ。」
「くっ・・・まだ諦めないんですか。」
「諦めねぇよ。・・・それにお前を取り戻さないと、後ろで必死こいてる関ヶ原に面目もたたねぇのよな。」
そんな余裕付いた言葉を軽々しくいっている俺だが・・・
正直かなり体力は疲労状態にある。
帰宅部な俺からすればハードすぎる運動だ。
桶狭間は心のなかでそんなことを思う。
「ま、それだけ息が切れていれば息をとめて突っ込んでくるってのも不可能ですよね。」
「・・・あ・・・」
そっか!!
これは所詮スプレー!
最初に息をとめて突っ込んでればよかったんじゃね!?
・・・ただこのスプレー・・・
護身用だかなんだか知らないが、今までにかけてきた生徒会は皆眠っちまってる。
ほんのちょいでも吸ったらネバーランドへと旅立てるわけだ。
いくら最初は息が切れていないとはいえ、そのまま突っ込んでも中島は両手のスプレーを一気に浴びせてくるだろう。
相手のスプレーは射程が長いもんなんだ、俺から近づけば格好の良い的でしかない。
そんなに一気に浴びせられたら、さすがに不可能だろ・・・
夢の中への一途を辿る。
どうせ最初から無理だろ。
「・・・」
「・・・」
今の桶狭間は、桶狭間自身でもびっくりしちまうぐらい冷静だった。
“思い立ったら決行”
なんて行動を今までに彼はしていたわけだ。
今、中島が「それだけ息が切れていれば息をとめて突っ込んでくるのも不可能」という言葉を発した。
本来なら、“今でもいけるぜ!”とか思って、無理にでも息をとめて突っ込んでいっていたかもしれない。
しかし今の桶狭間は“仮に最初に突っ込んでもスプレーを浴びてやられるだけ”という考察までだした。
「・・・中島、俺も十六夜風に言うと「成長した」んだよ。その手の釣りにはのらねぇぜ。」
「・・・意外と冷静です。」
・・・いつかの光景を思い出させる・・・
こいつは自分自身が感じている痛いところを何の前触れもなく突いてくる。
「あぁ・・・意外と冷静だろ?それが俺流の本気の出し方なんだぜ。」
「真逆だと思ってました。」
「だろ?俺自身びっくりだぜ。」
なんて話をしている間に、さりげな~くあの長い射程のスプレー対策を考えている。
(勘弁してくれよ・・・俺が持ってるのはたった1つの射程の短いスプレー。こんなもんで何ができるってんだ。数学的思考がない俺はどうすりゃいいんだよ・・・)
基本この高校は文型だが、その中にも“どっちかというと文型、でも理系もいけます”というチートが混じっていることもある。
将軍とかまさしくそれに該当する。
そういう人は、あらゆる方面からの物事の見かたが出来る人だ。
だからこのたった1つのアイテムだけでも、それを駆使してどうにかこの場を打開できるかもしれない。
(だけど俺はなぁ・・・)
なんてことを思って、再び中島のほうをみると、彼女は先ほどと変わらないゆっくりとしたペースで両手のスプレーを桶狭間のほうに向けて歩き出した。
(・・・そういえば・・・)
そのとき、徐々に後退しながら、桶狭間はあることに気がついた。
先ほどから中島はほとんど動いていない。
もちろんそれはスプレーに頼っているから動く必要がないというわけだが・・・
これってもしかしたら相手は油断しているのではないか?
(咄嗟に何かが起これば、すぐには対応できない・・・とか。)
たとえば・・・
今、俺の持っているスプレー缶を中島のほうに投げたり、とかな。
中島は今、何度も何度もくどいようだが“両手にスプレーをもっている”。
だから桶狭間がスプレー缶を投げれば、キャッチすることはまずできない。
本来ならここで普通の人はかわすだろう。
だけど、積極的に動く必要性を感じておらず、最低限度に相手を追い詰める程度にまでしか動いていない相手からすればこれはいきなりの不意打ちで回避もできない。
人はそれが致命傷にはならないと脳で理解できていても・・・
目を閉じたりとか、動きがとまったりとか何かしら隙ができてしまう。
その隙の大きさは個人差があるが。
・・・ま、中島にどれぐらいの隙が生まれるかはわからないが・・・
少しでも隙ができれば、それは距離を詰めることにつなげられるのではないか。
中島との距離をつめるには、要はスプレーの射程内に入ったときそのスプレーを撃たせないようにすればいい。
(・・・これ、いけるかもな。)
中島のできるだけ近くまで全力で走り、相手がスプレーを向けた瞬間にこっちもスプレーを投げる。
急な行動で相手がパニくってるときにさらに距離を縮め、中島のスプレーを取り上げる!!
・・・ただ失敗すれば敗北決定でもある。
(・・・だがいつまでもこんなことやってるよりは・・・)
こうしている間にも、後ろでは関ヶ原が苦労を重ねているのだ。
少しでも問題を早く解決して、できるだけ楽をさせてやらなければ。
(・・・よし、行こう!)
桶狭間の覚悟は決まったのだった。
一方廊下では、時津風・陽炎・飛沫・神威の4人はひたすらに相手を倒すことのみを考え、竹刀と竹刀をぶつけ合っていた。
現在飛沫と時津風、神威と陽炎が勝負を行っているわけだが・・・
どちらも絆同盟にとってはあまり良い方向性ではない。
飛沫・神威が時津風・陽炎を押していたのだ。
やはり時津風・陽炎は基本的に剣道の教えを守って相手を傷つけないために、できるだけ竹刀を弾き飛ばすように戦っている。
本来の剣道なら防具をつけるが、現在はそんなものはない。
そのためわずかながらに“手加減”といっても良いような、完全な力を出し切れていない。
それに比べて飛沫・神威は相手をボコすことを前提に竹刀をふっているため、躊躇というものがなく、自分の力の全力を出し切れていた。
これは大きな差だった。
「ハハッ、大口叩いてた奴をぶっ飛ばす前ってのはワクワクするな。」
飛沫は今、まるで人生の生きがいを行っているかのような楽しげな様子と笑みを浮かべながら、時津風を攻めて攻めて攻めまくっている。
時津風自身は左手の痛みがより響くようになり始めていて、少しずつ守りにも隙が生まれかけていた。
(左手のがこれ以上響く前に決着をつけねぇとな・・・)
時津風はそこで打って出ることにした。
1秒でも長引けば、その分不利になる。
自分自身の防御より早期決着を優先したのだ。
「そういう台詞は・・・」
「あぁ?」
時津風は、飛沫の竹刀を左手に負荷がかかることを承知の上で最大限の力ではじき返した。
今までより、まったく違うレベルの強さで竹刀をはじかれた飛沫はバランスを崩す。
その上で、時津風は竹刀を振りかざす。
「チッ・・・」
「勝ってから思う存分言うんだな!!」
時津風はここで決着をつける予定だった。
そのため、どれだけ左手に負荷がかかろうとここで終わらせるために全力をかけていた。
「なっ!?」
隣で陽炎と竹刀をぶつけ合っていた神威は、普段滅多に見ることがない、飛沫が焦り顔で守りに徹している様子に驚きの様子を見せる。
「余所見してる暇なんてあんのか、アホ。」
神威が余所見をした時の隙に乗じて、陽炎も全力で攻め始めた。
「くそ・・・この俺が雑魚相手に押されてる・・・だと!?」
飛沫は今現在進行形で起こっている事実に「信じられない」といった様子で守りの構えを見せている。
「ミスっちまったか。この隙に乗じて攻めてきたという判断は素晴らしき良い判断、さすがだぜ陽炎。」
神威は神威で、言葉だけに余裕が感じられるが、実際は苦笑いで無意識に後退していた。
飛沫と神威の2人は徐々に後退しながら、お互いに近づいていった。
そして真隣に来たとき、飛沫は陽炎の、神威は時津風の竹刀をはじいた。
「なっ!?」
時津風も陽炎も、自らが今まで勝負してきた相手ではない、予想外の方向からの攻撃に混乱する。
それから華麗な身のこなしで神威と飛沫はポジションをチェンジした。
「へぇ~・・・神威、意外と今でもできるもんだな。」
「だな、正直俺もびっくりだぜ。体は脳より覚えていたんだな、素晴らしき俺のKA☆RA☆DA☆!」
「・・・」
飛沫はその神威の態度をみて、にらみつける。
「おい、そりゃ反則じゃねぇのか?」
時津風はそんなことをいうが、時津風自身目の前にいるのがそんな言葉が通用する連中ではない、というのは心底理解している。
「この勝負を1対1と誰が言った?反則とか言いがかりつける前に自分の脳で考えてみろよ、雑魚。」
・・・ま、当然こういう反応だよな、飛沫なら。
と予想できていた答えに時津風はため息をつく。
「すなわちど~れだけパートナーとの息があっているか、が重要なわけだ!ま、俺と飛沫ちゃんとのシンクロ率は100を軽く超えちゃうんだけどね~!!」
(・・・こいつはホント、頭大丈夫か・・・?)
神威の反応に、時津風は頭痛を覚えたらしい。
頭をおさえる。
「陽炎、お前とは5戦2勝3敗だったな。」
「あぁ。」
飛沫は陽炎をにらみつける。
「ま、お前のいう“正式な剣道”なんかじゃねぇが・・・ここでお前に追いつかせてもらうぜ。」
「そりゃ無理だ。」
「・・・ほぅ?」
飛沫にとっては陽炎のこの反応は若干“予想外”だったのであろう。
基本陽炎は強気ででることはないからだ。
それから飛沫はその陽炎の強気の理由を理解した。
”良きライバルを守るため”
そこにはすでに“生徒会”とか“帝国主義”とかいうものはなかった。
ただ単純にライバルとして、友として、味方を守る。
そういったライバルの多くを大切にする陽炎らしい考え方があった。
(・・・ならお前がそこまで強気になる理由を・・・態度で見せてもらおう。)
「新キャラ“ときっち”の能力を俺もこの身で理解しにいく、としますかね。」
「・・・」
「うちのリーダーを押したほどだ。期待してるぜ、ときっち?」
神威は両手にもった、もとは1本の2本の竹刀を強く握り締めて言った。
「さて・・・じゃぁ楽しい楽しい第2ラウンドといきましょうかねぇ!」
そんなハイテンションの神威の声が廊下中に響き渡った。
この響き渡った瞬間“第2ラウンド”は開始されたのだ。
こうして至るところでの勝負は、徐々に変化しつつあった。
押されつつも押す。
そのようにして、戦局は刻々と変わっていくのだった・・・
「決戦(Ⅶ)」 完
おまけ バレンタインデー・・・は一昨昨日だお
参加者→十六夜、五月雨、桶狭間
途中参加者→時津風、飛沫、神威、陽炎
回想参加者→卯月、川中、中島、砕月、凛動
十「3日前といえばバレンタインデーだったな。」
桶「そういえば明日、明後日、明々後日というように3日前も、なんか呼び方があるのかな?」
五「あ~、それ一昨昨日ってやつだよ。常識だろjk。」
桶(知らなかった・・・やっぱ俺は馬鹿なのか・・・)
十(知らなかった・・・こいつに言われるとなんか無性に悔しい!)
五「さて、それで一昨昨日はバレンタインデーだったな。」
十「略してBTD!」
五「略す必要性について謎だお・・・」
桶「あ~、もらえない人にとってはバイオレンスタイムデー(BTD)になるやつな。」
五「これがやりたかっただけだろ!!」
桶「俺はバレンタインデーなんて嫌いだ!毎年毎年俺のまわりはもらえるというのに・・・俺は・・・俺は・・・!!」
五「・・・乙w」
桶「大体な、日本では亡くなったら寺だろ、仏教だろ。なのになぜ祝うのだ!?クリスマスも同様だ、同様!!」
五「日本国憲法第20条、日本では信教の自由が認められています。」
桶「都合よすぎだろ、実際。しかもバレンタインそのものは男女の愛を祝うというものなのに、最近だと「義理チョコ」とかなんとか。・・・なんでもチョコあげりゃいいって問題じゃねぇんだよ!」
五「もらえるだけでも感謝だろ。」
十「・・・あの~、話進めません?」
桶「・・・。・・・で?みんな実際いくつもらった?」
五「でた、超メジャーな会話w」
桶「実際この高校、年間行事に関しては終わっとるレベルだからな。うちの高校でのバレンタインでの義理なんてほんの一握りだろ。」
五「説明乙w」
桶「で?いくつもらったの、諸君!」
十「そういうお前はどうなんだよ?」
桶「聞いて驚け!俺は去年の3倍もチョコをもらったぜ!!」
五(なんだかんだでもらってるじゃねぇか、チョコw)
十「嘘だ!桶狭間がそんなにモテるわけが・・・」
桶「失礼なことを言うな!ちゃんとチョコは去年の3倍もらったんだぞ。」
十「そりゃすごいな。よっ、人気者!!」
桶(去年が0個だったから、それの3倍をしても結局は0。0にはいくつかけても0なんだぜ!・・・嘘は言っていない。)
五「で、星矢は当然卯月からもらったんだろ?」
十「それがなぁ・・・」
~回想 十六夜・卯月ver~
十「なんでわざわざ物置地域になんて呼び出したんだ・・・人いねぇし、暗ぇし、怖ぇよ・・・しかも咲良はこねぇし・・・もう帰りてぇ~・・・」
卯「お待たせ!!」
十「・・・ホントに待たされたよ・・・で、何の用?」
卯「今日は何の日でしょう!?」
十「我が家の結婚記念日!!」
卯「違う!!」
十「いや、実際本当だからね。今日は親父が母さんにペコリペコリタイムをするっていってたぞ。」
卯「・・・そういう意味じゃなくて・・・今日はバレンタインデーでしょうが!!」
十「え?そうなの?」
卯「・・・」
十(あまりに縁がない話すぎてスッカリ忘れてた・・・あ、でもだからあんなに桶狭間が張り切ってたのか・・・)
卯「・・・そ・それで・・・べ・別にそういうのじゃないけど・・・チョコあげる。」
十「・・・ありがとう、咲良。」
卯「勘違いしないでよ!!義理よ、義理!!」
十「はいはい・・・」
卯「・・・嘘。」
十「?」
卯「本命よ、星矢。」
十「えぇ~!?」
卯「・・・?」
十「なぜツンデレで通さなかったし。僕としてはツンデレのほうが萌えr・・・」
ドカッ!
十「痛ッ!!てめ、何しやがる!」
卯「もう知らない!!」
~回想終了~
十「・・・ということだ。」
五「・・・お前、アホだろ、確実に。」
十「僕は本能をありのままに・・・」
五「お前なぁ、そこは主人公として「ありがと」ってもらっておけばそれでよかったんだよ。二次元と現実をくらべちゃダメだろ。」
十「だってツンデレのほうが萌えるんだもん☆」
桶「なんだか卯月が可哀想に思えてきた・・・」
十「お前、僕の方が可哀想だからな!!昨日卯月に殴られたの、結構痛かったんだからな。」
桶「自業自得だろ。」
十「だからってあいつ、脛を蹴ったんだぞ、脛!あそこがどれだけ痛いかわかるか!?」
桶(もうダメだ、この主人公・・・)
五「で、桶狭間は?・・・ぶっちゃけ中島あたりにならもらえそうだが・・・」
桶「あ、それね・・・」
~回想 桶狭間・中島ver~
中「今日はバレンタインデーです!チョコです!!あげます!!!」
桶「お・おぅ。」
中「では!!」
桶「・・・ちょっと待て。」
中「なんでしょう?」
桶(・・・少しからかうか。)
中「?」
桶「これ、本命?」
中「な!?ぎ・義理ですよ!」
桶「義理?・・・ギリギリラインの義理?」
中「・・・違います!」
桶「といいつつ?」
中「・・・」
桶(・・・あれ?なんで黙るの・・・?)
中「もういいです!!やっぱあげません!!」
桶(えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?)
~回想終了~
桶「・・・ということだ。」
五「お前、十六夜を超えるアホだな。」
十「てか、なに基本静かな中島をキレさせてるんだよ・・・」
桶「いや、からかいすぎたとは思ってるんだがな・・・」
五(いや、そのからかいが図星だったからダメなんだろうが・・・)
十(からかいすぎはよくないよね、うん。)
桶「チクショー、一昨昨日は気合を入れてワックスまでつけてきたのになぁ・・・」
五「・・・一ついいか?」
桶「なんだ?」
五「・・・もらう当日に張り切っても意味ないだろ、手遅れだ。いつも以上にもらいたいならもっと依然から張り切っておかないと。」
桶「あ!」
十「あ!じゃねぇよ。やっぱお前アホだわ・・・」
桶「・・・で?五月雨は?」
五「俺か?俺は去年と同じだ。」
十(0か。)
桶(0だな。)
十「そっか、ドンマイ。」
五(去年と同じ、3個キープ^^)
十「ま、みんなそんなもんか~・・・」
五「そういえば昨日、廊下で時津風が知らない女の子にチョコもらってたぞ。」
桶「なに!?あの野郎・・・」
五「でも断ってたけどな。」
桶「ますますなにっ!?」
十「“あげる”っていわれたら、もらわないと逆に悪いだろ。」
五(ツンデレとかいって茶化したやつが何を言う・・・)
桶「よし、あいつのところへ突撃だ!!」
第2会議室・・・
時「はぁ~、眠ぃ・・・」
桶「おい、時津風!!」
時「ん?どうした~?俺は今から憩いの場で昼寝をするつもりだったんだが・・・」
十「いつから第2会議室はお前の憩いの場になったんだ?」
桶「そんなことはどうでもいい!それより・・・お前女の子から昨日チョコをもらえそうだったのに断ったってホントか!?」
時「あぁ。」
桶「お前何やってるんだよ!!」
時「だって、いざチョコをもらってもホワイトデーで返さないといけないわけだろ。予算がつらいんだよ。」
十(そういえばこいつ、剣道ができるし、地味にモテるんだよなぁ・・・)
五(こいつの場合、もらいすぎで返せなくなる、というパターンか。)
ガチャリ
時「ん?」
飛「よっ、風。」
神「よっ、ときっち。」
陽「よっ、好敵手。」
桶「でた・・・三馬鹿トリオ・・・」
時「いや、陽炎はまともだ。」
飛「てめぇ、俺はまともじゃねぇってのか!!」
五(どう見てもまともじゃないだろ・・・)
桶「あ、そうだ!!ジャスティスの皆もきいてくれよ!!」
飛「・・・あぁ?」
桶「時津風がチョコを女の子からもらうと返すのが大変だからもらわないっていうんだが、そりゃ外道だよな!!」
飛「当たり前だ。女性にチョコなんて返さなくていい。」
桶(うわっ、サイテー・・・)
飛「バレンタインなんて女の男性への好感度アップ日でしかねぇんだ。したがって女性が好きでやってるんだから、返す必要なんてねぇよ。」
桶「くそ、なんでこんな奴がウルトライケメンで運動神経抜群で成績優秀の天才人間なんだ・・・」
陽「・・・性格は赤点決定だけどな。」
飛「陽炎、てめぇ喧嘩売ってんだろ!」
神「とりあえずもらえるものはもらっとく、それ常識だろ。」
十(なんか違う気がするぞ、それ・・・)
時「てかお前はもらえるものはもらっちゃダメだろ、砕川先輩がいるんだから。」
神「あ~、砕川なぁ・・・」
~回想 神威・砕川ver~
神(今日はバレンタインか・・・ま、1つは確保しておきたいな。)
砕川「あら偶然。神威じゃございませんか。」
神「おぅ。なぁ、チョコもってないか?」
砕「チョコレート、欲しいんですの?」
神「あ~、まぁ欲しいわな、男としては。ただお前がそんなに気が利いた女なわけが・・・」
砕「ジャジャ~ン!ですわ。」
神「なにっ!?ババアがチョコレートだと!?せめてババアが作るババロアだろw」
砕「・・・欲しいですの~?」
神「あぁ、欲しい!」
砕「だったらひれ伏して“輝さまお願いします”と言いなさいな。」
神「・・・なんで?」
砕「チョコ、欲しくないですの~?」
神「ぐっ・・・」
砕(いつも“ババア”なんて憎たらしいこといってるあなたが悪いんですのよ?バレンタインデーを利用すればこの通り、復讐ができますわ~♪)
神(くそ、この日にチョコをもらわねば俺は社会の負け組みだ。・・・だがこいつに頭を下げるというのはもはや男としての負け組みだ・・・くそ、どっちも選べねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!)
砕「ほら、どうしたんですの~?」
神(やはり俺は・・・男は捨てられん!!)
砕「ん?」
神「輝!!」
砕「あなた、人の話を聞いていまして?私のことは・・・ってえぇ!?」
神「愛してるぜ!!!」
砕「なっ!?!?///」
神「お前の愛があればチョコなどいらん!じゃぁな!!」
~回想終了~
五「・・・桶狭間よりも大馬鹿がいたのかよ・・・」
桶「まさか自分から逃げ出すなんてな。」
十「しかも公共の場で大声と“愛してる”宣言・・・」
神「ま、そんなわけだから俺は悲しくチョコは0個なわけだ。」
十「いや、お前はホントすげぇよ。ある意味お前が一番勝ち組かもしれん。」
陽(とはいってもこいつ、もらおうと思えばもらえたのに結局砕川先輩のために他の女性からのは受け取らなかったんだよな。)
十「そういえば陽炎はどうなんだ?」
陽「俺は義理ならあるが・・・」
神「なに!?貴様、俺に隠れてちゃっかりとブツを確保していたというのか!?」
陽「人聞きの悪いことを言うな。」
十「で、誰から?どんな風にもらったの?」
回想 陽炎・凛動ver
陽「243・・・244・・・245・・・」
凛動「・・・」
陽「250。よし、休憩!・・・先輩、ずっと俺の素振りなんて見てて楽しいですか?」
凛「・・・参考になりますので。」
陽「は・はぁ・・・(そんなこと言われもガン見されてもやりにくいのだが・・・)」
凛「・・・」
陽「今日は剣道はやっていくおつもりですか?」
凛「・・・いえ、今日は生憎用事があるので。」
陽「そうですか、わかりました。」
凛「・・・」
陽「・・・」
凛「・・・ところで、陽炎さん、今日が何の日かご存知ですか?」
陽「今日・・・ですか?」
凛「はい、今日・・・14日です。」
陽(あ~、そういえば神威のやつがバレンタインデーがどうとかいってたような覚えが・・・)
凛「・・・わかりましたか?」
陽「今日はたしかバレンタインデー、でしたっけ?」
凛「・・・正解です。・・・どうぞ。」
陽「・・・俺に?」
凛「はい。剣道の件、お世話になっていますので。今後もよろしくお願いします。」
陽「なんかすみません。」
凛「いえ、私からのほんの気持ちです。」
~回想終了~
十(今日ようやくまともなのが・・・)
神「納得いかん!くそ、あのババアには凛動さんみたいな“お気持ちの印”みたいなのはないのか?」
飛「砕川はお前の嫁だろ、自分でなんとかしろよ。」
桶「大体彼女がいるだけでも十分だろ、チクショー!」
その頃、警備部会議室では・・・
厳島「へぇ~、癒梨が人にチョコを、ねぇ・・・珍しいものもあるものだね。」
凛「いえ、厳島さんを守るための武道を教えてもらっている立場ですので・・・」
厳「ま、教えてもらっているかはともかく癒梨が人にチョコを渡すなんて珍しいことだと思うよ。人に物を渡せるようになった、なんていいことだよ。」
凛「・・・もしかして怒ってます?皮肉に聞こえます。」
厳(そんなにボクって皮肉家に見えるのかな・・・よく言われるから慣れてるけど。)
凛「・・・すみません。」
厳「いや、自己主張というのは大切だよ。それにチョコの件も怒ってなんてないよ。ようやく良い意味でボク離れもやってくるかな、と思ってね。(それに・・・怒る理由なんてそもそもないしね。)」
凛「・・・いえ、私は厳島さん一筋ですので。」
厳「はぁ・・・」
第2会議室・・・
時「はぁ・・・」
神「な~に、ときっち深いため息なんてついちゃってるの~?幸せが逃げてくぜ~?」
時(お前らが来た地点で俺の幸せはブラジルのほうにまでいっちまってるよ・・・)
桶「時津風?」
時「あぁ?」
桶「ということはお前は結局チョコは1つももらってないのか。」
時「いや、1つは受け取った。」
桶・神「なに!?誰!?誰だよ!!」
時「ったく、お前らの期待してるような展開じゃねぇよ。義理だよ、義理。」
桶「なんだ、義理か。」
神「なんだとはなんだ!義理でもチョコはチョコなんだよ!!・・・くそ、俺もやっぱババアにもらっておくべきだった!!」
十「・・・で?誰のを受け取ったんだ?」
回想 時津風・川中ver
時「~ってわけだ。」
川中「相変わらず大変だな、お前は。・・・っと、ここで分かれ道だな。」
時「じゃぁ、また明日な。言うまでもねぇが気をつけてな。」
川中「当たり前だ、私を誰だと思ってる?」
時「だよな。・・・じゃぁな。」
川中「あぁ。・・・っと・・・時津風!!」
時「ん?なんだよっ!!」
ヒュッ
バシッ
時「危ねぇな、いきなり物を投げるなよ。」
川中「軽く投げただろ。・・・じゃぁな。お前こそ気をつけて帰れよ。」
時「ったりめぇだ。俺を誰だと思ってる?」
川中「フッ・・・」
タッタッタッタ
時「・・・ったく・・・あぁ?こいつは・・・チョコレート?」
~回想終了~
神「・・・あの嬢ちゃんらしいな。」
時「いきなり声をかけられて振り返った瞬間に目の前に袋が飛んでたからな・・・あの投げは“軽く”ではなかった!」
十「それをキャッチできたお前はお前ですげぇけどな。」
飛「でもそれって半分強制的じゃねぇか。断る時間もなかったんだろ?」
時「ま、通常のチョコ渡しでもあいつのなら受け取ってもよかったんだがな。」
桶「お?というと?」
五「これはフラグか?フラグなのか!?」
時「いや、第5同盟の仲だからだ。・・・もととはいえリーダー様からの贈り物は絶対だろ。」
五「ここでも帝国主義がw」
時「それに・・・こういうのは初めてだったしな。」
十「え?」
時「今まで第5同盟の連中はバレンタインデーには卯月のバレンタインチョコでの男子生徒被害を防ぐために全力で動いてきた、一種の1年の中の山場でもあったからな。バレンタインなんて行事を楽しむ余裕もなかったわけだ。もちろんお姫様もな。」
十「・・・」
時「そんな第5同盟も解散した今、俺たちはフツーに行事を楽しめるようになった。・・・んで、今回がその記念すべき第1回、ということだ。」
桶「なるほどな。」
時「・・・で?ジャスティスの連中は結局何しにきたの?」
飛「人の安眠を妨害しにきた。」
時「やめてくれ、今はガチで眠いんだから。」
飛「あぁ↓~、さ↑よ↓~な↑ら↑~♪」
五「変な歌を歌うなw」
十「しかも音痴。」
飛「わざと音痴にさせれば寝れんだろ。ちなみに作詞・作曲は神威だから。」
時「どうりで変なわけだ。」
神「納得してんじゃねぇよ!!」
十「・・・さて、僕も咲良に茶化したこと、謝ってこようかな。」
桶「俺も中島にからかったことを詫びてこなければ。」
その後、十六夜と桶狭間も3日遅れとなったが無事チョコレートをもらえたそうな。
めでたし×2
神「って、結局もらえてねぇの俺だけじゃねぇか!!!」
「バレンタインデー・・・は一昨昨日だお」 完




