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【第32話】「帰省編――父への報告」

今回はアデルが父である公爵に、学園での出来事や仲間たちとの関係を語る場面です。

傲慢で男尊女卑な公爵にどう向き合うか、アデルの覚悟が垣間見える回となっています。

父との対話を通して、彼自身がどう成長しているのか、ぜひお楽しみください。

母シャーリーもリリアンヌも、姉妹も、リリアンヌも、そして使用人たちも、みな笑顔で自分を迎えてくれた。これ以上ないほどの幸福――その感覚が胸の奥にじんわりと広がる。


だが、ふと視線を上げたとき、父である公爵の姿が見当たらないことに気づいた。


「お父様は……?」


問いかけに、母は穏やかに微笑んで答える。

「今日はお仕事が長引いて、出迎えには来られなかったの。あとで時間ができたら、挨拶に行きなさいね」


アデルは頷き、少し寂しさを覚えながらも、家族とのひとときを素直に楽しむことにした。

(まずは母やリリアンヌに会えた……それだけで十分だ)


――そして数時間後。


夕食を終えたアデルは、父のいる書斎へと通された。

重厚な扉を開くと、机の奥で書類をめくる公爵が顔を上げる。


「アデル……よく帰ってきたな」


その低い声に、アデルは背筋を伸ばし、深く一礼した。

「父上、ただいま戻りました」


公爵は口角を上げ、満足そうに言った。

「ふむ……学園での活躍、耳に入っているぞ。第一王子ランドルフ殿下とも懇意にしていると聞いた。よくやった、さすがは我が息子だ」


その声音には誇らしげな響きがあった。

だが、すぐに鋭い視線を投げかけてくる。


「……しかしだ。表彰の場に、女も並んだそうではないか?」


アデルは父の意図を悟り、わずかに息を整えて答えた。

「はい。クリスも表彰されました。彼女は女性ですが、努力と才覚により、誰もが認める実力を持っています」


公爵は鼻を鳴らす。

「女の力など、たかが知れておる。いずれ限界が見える。そんな者と深く関わって、お前に何の益がある?」


その冷ややかな言葉に、アデルは唇を噛む。だが視線は逸らさなかった。


「父上。ランドルフ殿下とは計略で仲良くなったのではありません。信じられる友だからこそ、共にいるのです。……そしてクリスもまた、私にとって大切な友人です。性別や身分で切り捨てられるような存在ではありません」


「ふん……」


公爵は椅子に深く背を預け、面白くなさそうに呟いた。

「若いな、アデル。友情など脆いものだ。結局は権力と地位が物を言う。いつかお前も思い知るだろう」


アデルは静かに首を振った。

「……たとえ父上がそうお考えでも、私は違います。得か損かではなく、共に歩みたいと願える相手がいる。それが、私の誇りです」


短い沈黙が流れる。

公爵は息子の強い眼差しを一瞥し、やがて書類へと視線を戻した。


「……勝手にするがいい。ただし、私の顔に泥を塗るような真似だけはするな」


その一言を最後に、話は終わりを告げた。

アデルは深く頭を下げ、胸の内でひとり決意を固めた。


(父上の価値観をすぐに変えることはできない……だが、僕は僕の信じる道を進む)


そしてアデルは、静かに書斎を後にした。




ここまでお読みいただきありがとうございます!

アデルの父である公爵は、権威を振りかざす典型的な人物として登場しました。

そんな父の前でも、アデルは「ランドルフ王子やクリスは信頼できる友人だ」と真っ直ぐに語りました。

このシーンは、彼がただの理想論ではなく、実際に努力と人間関係を築いてきた証として描きました。


次回、物語はさらに動き出します。

どうぞ楽しみにお待ちください!


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