【第31話】帰省編――再会の瞬間
アデルとアリスの関係に一区切りがつき、物語は「帰省編」へ。
馬車に揺られ、公爵邸へ帰るアデル。待っていたのは母と姉妹、そして――最愛のリリアンヌ。
久々の再会は、ほんの半月のはずなのに、永遠にも感じられるほど切なく、温かいものとなります。
馬車の窓から差し込む午後の光が、アデルの横顔をやわらかく照らしていた。
車輪の揺れに身を任せながら、彼は向かいに座るアリスをそっと見やった。
かつてのような恋慕の眼差しは、もうそこにはない。
代わりに、少し吹っ切れたような、どこか清々しい雰囲気が漂っていた。
(……そうか。本当に、終わったんだな)
胸の奥にかすかな安堵が広がる。
彼女が無理に笑うのではなく、自然に前を向こうとしているのが伝わってきて、アデルは静かに息を吐いた。
そうして思案に耽っているうちに、馬車はゆっくりと速度を落とし、やがて公爵邸の前に止まった。
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扉が開かれると、まるで祭りのような光景が広がった。
大理石の階段の上には、公爵夫人シャーリーが立ち、その両脇に姉妹のリリアとルチア。さらに玄関前には多くの使用人たちが整列し、一斉に笑顔で出迎えている。
「アデル!」
母の呼び声が、温かく胸に響いた。
彼らがこれほどまでに自分の帰りを待ちわびてくれていたのだと思うと、自然と目頭が熱くなる。
そして――その奥から。
銀色の髪が、陽光を受けてひときわ眩しく揺れた。
エメラルドの瞳が、真っ直ぐにアデルを射抜く。
リリアンヌ。
たった半月ほどの別れだったはずなのに、何年も会えなかったような気がする。
彼女の姿を目にした瞬間、アデルの胸は強く打ち、体は自然と前へ進んでいた。
「……アデル様」
震える声で呼びかけられ、二人の視線が絡む。
次の瞬間、互いに駆け寄り、ためらうことなく手を取り合った。
その姿を、母も姉妹も、使用人たちも、皆が微笑ましく見守っている。
アデルは喉が詰まって言葉が出なかった。
必死に声を絞り出し、やっと一言だけ――。
「ただいま……」
その短い言葉に、すべての想いを込めるのが精いっぱいだった。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
今回は「帰省編」の幕開けとして、公爵家での出迎え、そしてリリアンヌとの再会を描きました。
アデルが一番に伝えた「ただいま」という言葉に、彼の想いがこもっています。
次回お楽しみに✨




