【第30話】帰省前夜――涙の告白と揺るがぬ想い
学園決闘の騒動もひと段落し、季節は長期休暇へ――。
アデルはついに公爵家へ帰省し、リリアンヌとの再会を心待ちにしています。
しかし、その前夜。
彼を慕い続けてきたアリスが、ついに想いを告げ……。
切ない告白と、アデルの揺るがぬ一途な心を描く回です。
アデルはアリスの涙に射抜かれたように、その場から動けなくなった。
しばらくの沈黙ののち、彼はゆっくりと彼女の方へ歩み寄る。
「……アリス」
呼びかける声はかすれていた。
心のどこかで、ずっと恐れていた瞬間が今、現実になっているのだと悟ったからだ。
「ごめん……僕は、君の気持ちを知っていたのに、ずっと気づかないふりをしていた。君がこんなにも思い詰めていたなんて……」
アデルはそっと手を伸ばし、アリスの頬を濡らす涙を指先でぬぐった。震える肩に、胸が痛んだ。
「前にも言ったけど……僕の心にいるのは、リリアンヌだけなんだ」
その言葉は、刃のように鋭くもあり、祈りのように真剣だった。
「僕は彼女を裏切らない。側室なんて作るつもりもない。この世界の男尊女卑の制度を変えたいと思っている。男だからといって、好き勝手に女性を侍らせるなんて、間違ってる。僕は、誰もが平等に生きられる未来を作りたいんだ」
真摯な言葉が部屋に落ちたとき、アリスの大きな瞳が揺れた。
「……そんなアデル様だから、好きになったんです」
嗚咽をこらえるように声を震わせ、アリスはそれでも笑おうとした。
「困らせて、ごめんなさい。もう、諦めます。これからは……アデル様の描く未来のお手伝いができるよう、メイドとして仕えていきます」
その健気な笑顔が、逆にアデルの胸を締め付けた。
「……ありがとう、アリス」
言葉に詰まりながらも、アデルは静かに答える。
「でもね……きっといつか、君にも唯一無二の人が現れる。だからそれまで、自分を大切にしてほしい」
アリスは涙をぬぐい、深々と一礼すると、静かに部屋を後にした。
残されたアデルは、重い息を吐き出し、ベッドに身を投げ出す。
深い夜の静寂が降りる中、彼は天井を見つめ、かすかに笑った。
「はぁ……これでご満足ですか? 女神様」
まるで天界でこの茶番を眺め、面白がっている誰かに向けるように。
その声音には、諦観と苛立ち、そしてどこか寂しさが滲んでいた。
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最後までお読みいただきありがとうございます!
今回はアリスが勇気を振り絞って涙の告白をしました。
アデルは誠実に答えましたが、その胸中には重い葛藤もあったのではないでしょうか。
次回からはいよいよ「帰省編」本格突入!
リリアンヌとの再会、そして家族との時間……アデルを待つ出来事とは?
どうぞお楽しみに!✨




