【第27話 】 決闘の約束――少女の誇りを懸けて
学園に広がる称賛の声。しかし、それは同時に新たな火種を生んでしまいます。
侯爵家の嫡男セリオが、ついにクリスへ挑戦状を突きつけ……!?
表彰式から数日後。
学園の空気は、確かに変わりつつあった。
アデルとランドルフ王子、そしてクリスは、同級生たちから尊敬と憧れを集める存在となり、自然と取り巻きができるほどの人気を得ていた。
とりわけクリスは、魔法の才能と努力で認められた「最初の女子生徒」として、多くの後輩たちの希望となりつつあった。
だが、上級生たちにとっては違った。
秩序を重んじ、伝統を守ってきた者からすれば、平民の少女が表彰されたことなど――耐え難い屈辱だった。
その不満を象徴する存在こそ、三年のセリオ・ヴァルディア。
侯爵家の嫡子にして、生徒会長。剣も魔法も一流で、強いカリスマ性を持つ彼には多くの信奉者がいた。
そして、ついにその矛先は、アデルたちに向けられる。
昼休み。
アデルたちは中庭で、木陰の下に並んで弁当を広げていた。
笑い合うささやかな時間。その輪に、冷たい影が差し込む。
「ランドルフ殿下。ヴァレンティア公爵家のご子息。初めてお目にかかります」
振り向けば、数人の取り巻きを連れたセリオが立っていた。
彼は深く一礼し、静かな笑みを浮かべて言葉を続ける。
「ヴァルディア侯爵家の嫡男、セリオと申します。この度は、中級魔獣討伐のご功績――誠におめでとうございます」
だが、その祝辞の中に、クリスの名はなかった。
ランドルフ王子がすぐに気づき、静かに問い返した。
「ありがとうございます。しかし、先輩。功績を挙げたのは三人。――お忘れではありませんか?」
セリオの目が細くなり、口の端に冷ややかな笑みが浮かぶ。
「……ああ。確かに、平民の娘もご一緒でしたね」
クリスの胸がひやりと冷たくなる。
セリオは、あくまで礼儀を崩さぬまま続けた。
「ですが、彼女が成したのは防御魔法による保身に過ぎません。結果として生徒が助かったのは、偶然と言うべきでしょう。魔獣を討伐なさったのは、殿下方お二人ではありませんか?」
「っ……!」
クリスは悔しさに唇を噛む。
だが、セリオはさらに畳みかける。
「女であり、しかも平民。前代未聞の表彰は確かに話題にはなりますが……次も同じことができるとは到底思えません。――殿下方も、そのような者と群れるより、我らと交流を深められた方が有益かと存じますが?」
露骨な侮蔑に、ランドルフ王子は、
「クリスの防御魔法は仲間を救った! あの瞬間、彼女の判断と結界がなければ、多くの命が失われていた。奇跡などではない、努力と実力の結果だ!」
アデルも毅然として言い放つ。
「彼女は勇敢に仲間を守り抜いた。その価値を認めないのは、事実を歪めることと同じです」
二人の言葉に支えられ、クリスは心に勇気を宿した。
彼女は立ち上がり、真っ直ぐにセリオを見返す。
「……私は防御魔法で仲間を守り、皆で勝利をつかみました。それを奇跡だと言うのなら、私はその“奇跡”を何度でも起こしてみせます。だから――貴方に貶められる覚えはありません!」
その言葉に、セリオの眉間に皺が寄る。驚きと苛立ちが入り混じった表情。
「……なるほど。女が私に言い返すとは、面白い」
そして、冷ややかに告げる。
「ならば証明してもらおう、クリス・アルベール。今日の授業後――闘技場にて、私と決闘を。攻撃でなくとも構ない。その“防御魔法”が、どれほどのものか拝見しよう」
周囲にどよめきが走る。
クリスは喉が渇き、足が震えそうになる。
だが、両隣から温かな手が肩に置かれた。
「君ならできる」
「僕らが保証する。クリスの魔法は誰よりも優れている」
その言葉に、クリスは大きく息を吸い込み、勇気を奮い立たせる。
「――わかりました。その闘い、受けて立ちます!もし私が勝ったら、女だからと侮辱したこと……皆の前で謝罪していただきます!」
宣言に、中庭がざわめきに包まれる。
セリオは冷酷な笑みを浮かべ、ゆるやかに頷いた。
「わかった。僕が負ければ謝罪しよう。……ただし、君が敗れたら、二度と女が出しゃばる真似はするな」
こうして、決闘の約束は交わされた。
中庭に集まる視線は、恐れと興奮と期待で揺れていた。
少女と上級生の戦いは、もはや避けられない――。
その一戦は、学園の秩序をも揺るがす戦いの幕開けとなるのだった。
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クリスとセリオ、立場も実力も大きく違う二人が、ついに正面からぶつかることになります。
果たして防御魔法で挑むクリスは、セリオに対抗できるのか――次回をお楽しみに!




