【第19話】森の実習と勇者の試練
ついに迎える学園生活の本格的な授業。
アデルは新しい知識を学び、友人たちと絆を深めながらも、次第に「未知の力」への好奇心を募らせていきます。
そんな中で行われた森での実習――それはただの訓練ではなく、アデルたちを試す真剣な戦いの舞台となるのでした。
朝の柔らかな光が、アデルの寮の窓から差し込む。
目を覚ますと、すでにメイドのアリスが朝食を整えていた。テーブルには焼き立てのパン、ふわふわのスクランブルエッグ、ハム、彩り豊かな果物、そして香り高い紅茶。ほんのり甘く、心を落ち着かせる香りが部屋いっぱいに広がる。
「アデル様、おはようございます。しっかり朝食をとって、元気に出かけてください」
アリスの声には、控えめながらも力強い励ましがこもっていた。
アデルは微かに笑みを浮かべ、パンに手を伸ばす。
「ありがとう、アリス。…うん、朝食、とても美味しそうだね」
二人はゆっくりと朝食を取りながら、学園生活や授業のことを少し話す。アリスの声に耳を傾け、柔らかな笑顔を交わすだけで、昨日の女神との不思議なやり取りが少し遠くに感じられた。
食事を終えると、制服に着替える。淡いブルーのシャツに学園の徽章が光るジャケット。鏡の前でネクタイを軽く締め直し、背筋を伸ばす。
「よし、準備完了」
アリスは紅茶の残りを片手に扉の前まで見送り、アデルは軽く手を挙げて応えた。朝の光に包まれ、学園の門へと歩を進める。
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授業の日々は、穏やかだが濃密だった。
魔法の基礎、剣術、歴史、言語――毎日新しい知識が胸に積み重なっていく。時に理解できずに頭を抱えることもあれば、思わず笑みがこぼれる瞬間もある。
ランドルフ王子やクリスとも顔を合わせ、互いに軽口を交わし、時には競い合う。ほんの些細なやり取りから、友情の絆が少しずつ育まれていった。
ある日の午後、剣術の授業後に教師から森での実習の案内があった。
「森の奥には中級以上の魔獣が出現する可能性があります。立ち入り禁止区域には決して足を踏み入れないこと。安全が第一です」
アデルは真剣な表情で頷く。ランドルフ王子、クリスも同じく緊張を見せる。心の奥底で、まだ見ぬ危険に胸がざわつく。けれども、それと同時に、未知の力を試せる期待感も芽生えていた。
その日から数日間は、学んだ知識や魔法の応用練習が中心で、実習への準備が少しずつ整えられた。装備の手入れ、魔法の確認、仲間との軽い訓練――日常の中に小さな緊張が積み重なり、森での一日への期待と不安が混ざり合う。
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そしてついに、森での実習の日が訪れる。
木々の間から差し込む光が揺れ、地面に葉の影を落とす。鳥の声が心地よく響くが、どこか張り詰めた空気が漂う。
教師は注意事項を再確認する。
「禁止区域には絶対に入らないこと。危険な状況に遭遇した場合は、すぐに報告するように」
生徒たちはうなずき、緊張を新たにする。しかし、授業の初めから少し自信過剰な伯爵子息は、周囲の羨望を集めたい一心で、教師の目を盗み立ち入り禁止区域へ足を踏み入れてしまう。
森の奥から、甲高い悲鳴が響いた。
アデルは心臓が跳ね上がるのを感じ、反射的に駆け出す。ランドルフ王子もクリスも、互いに無言で視線を交わしながら、森の奥へと走った。
そこには、熊のような角を持つ、赤く光る瞳の巨大な中級魔獣が、暴れる伯爵子息を襲っていた。生徒たちは逃げ惑い、枝や葉が折れる音が森に響く。アデルの心は恐怖と好奇心で揺れ動く。自分の力が通用するのか、倒せるのか――その未知への緊張が全身を駆け巡る。
クリスは冷静に怪我をした生徒たちを防御し、安全な場所へ誘導する。その落ち着きぶりに、アデルは少し息をのむ。
「俺も……負けてはいられない」
彼は心の中でそう決意し、ランドルフ王子と同時に魔法を構える。
火球、雷撃、氷の矢――ありったけの攻撃魔法を魔獣に叩き込む。咆哮と共に森の地面が揺れ、木々がざわめく。魔獣は暴れながらも、少しずつ力を失い、最後にドシンと倒れた。
森に静寂が訪れる。汗でびっしょりのアデルとランドルフ王子は、しばし立ち尽くす。心臓はまだ早鐘のように打ち、身体には小さな震えが残る。
やがて二人は互いに視線を交わし、力強くハイタッチを交わした。
「……やったな」
「ああ……!」
教師たちが駆けつけ、驚愕の表情を浮かべる。まだ実戦経験も浅い12歳の少年たちが、巨大な魔獣を倒してしまったのだから。クリスに保護された生徒たちも迅速に手当てされ、一命を取り留めていた。
森を後にする道すがら、アデルは静かに心の中で誓う。
「リリアンヌのために。友のために。世界のために――この力を正しく使う」
その胸に、恐怖と緊張、そして達成感と希望が同時に広がっていた。
まだまだ試練は続く。けれど、今日の経験が、彼らの成長の確かな一歩になったことを、アデルは深く噛み締めた。
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森での実習で遭遇した魔獣との初めての実戦。
恐怖を超えて力を発揮し、仲間と共に乗り越えた経験は、アデルたちの胸に確かな自信と絆を刻みました。
まだ12歳の少年少女にとって、これは始まりに過ぎません。
彼らの未来に待ち受けるさらなる試練に――どう立ち向かっていくのか。
次回もぜひお楽しみに♡




