【第17話】昼休みの誓い
新入生としての生活が始まり、アデル、ランドルフ、クリスの三人が初めて本音を語り合う昼休みのひととき。
ここで芽生えた誓いが、やがて国や世界を変える大きな力となる――その瞬間を描きます。
昼休み。
学園の中庭は、新入生たちの笑い声とざわめきで満ちていた。
購買でパンを買う者、芝生で弁当を広げる者――それぞれが初めての学園生活を楽しんでいる。
アデル、ランドルフ、クリスの三人は、大樹の下に腰を下ろした。
木漏れ日が揺れるその場所は、不思議と落ち着いた空気に包まれている。
「ふぅ……ここなら人目も少ないな。少し腰を落ち着けて話ができそうだ」
ランドルフ王子がほっと息をつき、パンを取り出す。
クリスも静かに弁当の包みを解いた。
その時、王子がふとアデルへ視線を向ける。
「ヴァレンティア公爵子息――アデル。君は、この学園で何を学び、何を成すつもりなのだ?」
問いかけは穏やかだが、眼差しは真剣だった。
クリスも箸を止め、興味深げに耳を傾ける。
アデルは一瞬ためらったのち、真剣な声で答えた。
「……僕は、この学園でしっかり学びたいと思っています。魔法や学問はもちろんですが、それ以上に――世の中に根付く“男尊女卑”の考えを変えていきたいのです」
二人の表情がわずかに揺れた。
アデルは言葉を重ねる。
「入学式でも、女性だからと席を譲れと言われる場面を見ました。……でも本来は、性別に関係なく能力ある者が正当に評価されるべきです。
僕が努力し、結果を残せば、周囲は変わる。周囲が変われば、やがて国も変わる。――その第一歩になりたいのです」
クリスの紫の瞳が大きく見開かれた。
胸の奥を突き動かされるような衝撃に、思わず息を呑む。
「アデル……そんなことを本気で考える人がいるなんて。私、ずっと夢物語だと思っていました」
ランドルフ王子はしばし黙してアデルを見つめていたが、やがてゆっくりと笑みを浮かべた。
「君は面白い。いや、感銘を受けたよ。僕は王族として、この国を導く立場にある。だが、君のように真摯に世界を見据える者に出会ったのは初めてだ」
「殿下……」
「アデル、クリス。共に学び、共に成長しよう。そして――いずれは国を、世界を変える力となろうではないか」
王子が手を差し伸べる。
アデルとクリスは一瞬驚き、だが迷わずその手を取った。
三人の手が重なった瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げる。
「はい。必ず……」
「私も、共に歩みます」
風が吹き抜け、木々の葉がざわめいた。
それはまるで、彼らの誓いを祝福しているかのようだった。
初めて三人で心を通わせた昼休みのひととき。
ここで交わされた誓いが、アデルたちの成長と、やがて国や世界を変える力へとつながっていく。




