【第16話】初授業と、それぞれの力
アデルたちがいよいよ学園に入学!
初日は「魔法適性の公開テスト」という、入学早々に実力を試される場面から始まります。
多くの生徒が見守る中、ランドルフやクリス、そしてアデルの圧倒的な力が明らかになっていく――。
翌朝。王立魔法学園の広大な演習場には、新入生たちが一堂に集められていた。
初授業の内容は――「基礎魔法の発動」。
「入学試験の確認も兼ねて、一人ずつやってもらう」
杖を携えた老教授グレゴリーが、簡潔に告げる。
生徒たちはざわめきながらも順番に前へと出ていく。
最初に名を呼ばれたのは、裕福そうな服を着た子爵家の少年。
「は、はいっ!」
緊張した面持ちで杖を振ると、ぼんやりとした火の玉が一つ、ふわりと浮かんだ。
「火属性、初級発動……まあ基準は満たしているな」
教授の言葉に少年は安堵し、取り巻きの仲間たちが小さく拍手を送る。
続いて呼ばれたのは別の生徒。彼女は風を起こそうとしたが、わずかなそよ風が髪を揺らす程度だった。
「うっ……ご、ごめんなさい!」
「焦るな、次の授業でまた練習すればよい」
教授が手を振り、生徒は赤面しながら列へ戻っていった。
そんな凡庸な発動が続く中、演習場の空気が一気に変わる瞬間が訪れる。
「ランドルフ王子」
呼ばれた名に、場がぴんと張り詰めた。
王子は取り巻きの視線を当然のものと受け止め、堂々と魔法陣の中心へ。
杖を掲げた瞬間、黄金の光が天へと伸び、力強い魔力の波動が演習場を包み込んだ。
「すごい……!」「あれが王族の力……!」
生徒たちの驚嘆の声が漏れる。王子は表情ひとつ変えず、淡々と杖を下ろした。
次に呼ばれたのはアデル。
(……さて、どう見せるか)
すでに教授には全属性もちだと知られている。むしろ「どこまで隠すか」が問題だった。
魔法陣の上に立ち、杖を掲げる。
すっと力を解き放つと、同時に火・水・風・土――四つの属性が交差し、小さな光が舞い踊った。
完全な全属性展開ではない。だが、それでも周囲には十分すぎる衝撃だった。
「四属性を同時に……!?」「一度に扱えるなんて……」
ざわめきが広がる。
教授は目を細め、ひとつ頷いた。
「ふむ。抑えているな。だが、その才は確かにある」
アデルは苦笑し、さりげなく魔力を収めた。
(やっぱり、少しだけにしておこう……)
そして最後に名を呼ばれたのは――クリス。
「……はい」
彼女は平民ゆえに注目を浴びることに慣れていない。だが足取りは迷いなく、真っ直ぐに魔法陣の中央へ進んだ。
小さく息を吸い、杖を掲げる。
瞬間、紫色の炎がうねり、轟と音を立てて立ち昇った。
「なっ……!」「なんだあれは!?」
演習場が一斉にざわめく。
火属性のはずなのに、その炎は常人が扱う赤や橙ではなく、濃く妖しい紫。しかも制御されたまま、美しく燃え上がっていた。
クリスの額には汗が浮かんでいたが、瞳はまっすぐで、震えはない。
彼女は静かに炎を収めると、何事もなかったように頭を下げた。
「……ふむ。希少属性変異。珍しいな」
教授の声には、明らかな興味と評価が滲んでいた。
演習場にしんと静寂が降りる。
誰もが――ランドルフ王子、アデル、そしてクリスの三人を「別格」として認めた瞬間だった。
「さすが王子殿下……」「ヴァレンティア公爵子息もやはり……」「あの平民の娘、何者だ……?」
生徒たちの小声が交錯する。
アデルはそっとクリスの肩を叩き、笑みを見せた。
「すごかったよ、クリス」
「……ありがとう。でも、あなたほどじゃない」
彼女は悔しげに、けれど誇らしげに言葉を返す。
そのやり取りを見たランドルフ王子が、ふっと口元を緩めた。
「やはり……面白い学び舎になりそうだ」
こうして、学園生活の初日から――三人の存在は早くも際立ち始めていた。
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入学初日から波乱の幕開けです!
ランドルフやクリスの強さも見せつつ、アデルの全属性もちという事実が他の生徒たちに大きな衝撃を与えました。
教授の冷静な目線と、ざわつくクラスメイトたち……学園生活が一気に面白くなりそうですね。




