森へ入ったけど出会えたけど結婚したけど
私はそのままカモン王家の城の一室を借りて一晩を過ごした。
その翌日に朝食を頂いて、古代森林の入り口の前に案内されることとなった。
朝食もピア王女と一緒に食べたのだが、「これが最後の食事かもしれません」とかピア王女が真剣な顔で言ってきた。
いや、大丈夫よ多分。今まで「お前死ぬぞ」って言われて死んだことは、姫子ちゃんに刺された一回しかないから。
「では、ご武運を祈ります」
「ありがとうございます、では」
古代森林の入り口にて、ピア王女に見送られた。
入り口は大きな鉄の壁で封鎖されており、そこから横に果てしなく石垣が連なっている。
美少女感知センサーは、森林の奥深くへ強い反応を示し続けている。
フィスト以来、全くと言っていいほど女運が無いのだ。
今度こそ、必ずモノにしてみせる。
そう決意して、私は古代森林へゆっくりと足を踏み出した。
◇◆◇
やっばいねぇこれ。
私は今、全速力の完全変態モードで古代森林の中を駆け巡っている。
森の中へ一歩踏み出した時点で、肌にひりつくような痛みが走った。
最初の内はまるで警告のようにピリピリするだけだったが、森の中に歩を進めるにつれて抵抗は攻撃性を増した。
入り口から50mほど歩くと、木々が仄かに光を放っていた。
御伽噺のような幻想的空間に見惚れたのも束の間、その木々の枝から突如として花が咲いたと思うと、花びらが私に向かって吹雪いてくる。
突然花が咲いた時点でマズいと思うべきだったのかもしれないが、花があまりに鮮やかで綺麗なものだったから対応が遅れてしまった。
花びらは私の真上まで降り注ぐと、突然として針の様に丸まって勢いよく落ちてきた。
究極性技で花びらを防ぎながら、ペニバーンとロウターを呼び出して完全変態モードに移行。
全速力でその地獄の花びらゾーンを抜けたはいいが、今度は地面から突如として槍の様に鋭い木が伸びてくる。
そこもロウターの力で宙を舞って回避するも、木々同士がお互いに枝を伸ばし合って檻の様に私達を閉じ込めた。
(マズいな主、どうする)
「あの檻をぶち壊すしかないでしょ!」
(海を割った経験のある主からすればあの程度は容易いはずだ。いくぞ!)
三人で力を合わせて枝の檻をぶち壊すと、なりふり構わなくなったのか、全攻撃のオンパレードが始まった。
花が矢のように襲い掛かり、枝の檻で行く手を妨害すれば木々が槍のように襲い掛かる。
だが、美少女感知センサーの示す反応もかなり近い。
「いっけええええええ!」
私は最後の抵抗とばかりに立ちはだかった枝の壁から放たれる花の矢を翼で防ぐと、ペニバーンで一気にブチ抜いた。
位置的にはこの枝の壁の先に、追い求めた美少女がいるはず。
「よっしゃああああああ……あ?」
ついに枝の壁を抜け、指し示す反応の目の前へ辿り着いたその場所には、私の腰の高さほどの小さな苗木があった。
「ん……なにこれ」
どう見ても苗木だ。
周りの木々全てが成長して大きな木になっている中、この苗木だけは小さいままだ。
でも美少女感知センサーは間違いなくこの苗木を指し示している。
「ふむ、なるほどね」
ついにぶっ壊れたか。このセンサー。
いやぁ、前々からおかしいと思ってたんですよね。
エンジュランドにいた頃、一応美少女であるドレッドと紛れもない美少女であるガラードに微妙な反応を示し続け、昨日の別れる瞬間になって突然ドレッドに向けて強い反応を指し示すようになった。
もう完全に故障である。
そして遂には女どころか人間という枠を飛び出してしまったのだ。
「帰るか……」
なんだろう、凄く疲れた。
完全に無駄足である。
結局動画で見た女性の居場所はわからないし、この森にはもう美少女感知センサーが示す存在は無い。
完全変態モードを解除し、森の入り口に向かって踵を返す。
「……」
「……」
振り返った私の目の前に、緑色のドレスに身を包んだ半透明の美しい女性が浮いていた。
その青い瞳で私を「じーっ」と見つめてくる、可愛い。
髪は紫がかった黒で、肌はもの凄く白い。
いや、白いというよりは透明で、目を凝らすと少し透けている。
間違いなく動画で見たあの美少女だ。
こうしちゃいられない、溢れ出る思いを伝えなければ。
愛の言葉を紡ごうとすると、それより一手早く目の前の美少女が口を開いた。
「貴女はだぁれ?」
見た目は美しい大人の女性。
だがその口調と仕草はまるで幼い子供のようだ。
軽くコテンと首を傾げ、頭に?マークでも浮かんでいるような表情で質問をして来た、可愛い。
「私は運命に導かれてここへ参りました」
「運命?」
「えぇ、貴女に愛を伝える為に」
そう言って私は未だにポカンとした表情の女性の手を取り、掌に口付けを……しようとして私の手は女性の体をすり抜けた。
幽霊のような見た目の通り、実体が無いのだろうか。
いや、身体がすり抜けるのは分かるとして、服まですり抜けるのはどういう原理だ。
「貴女は私を愛してくれるのですか?」
女性は私に、ふよふよと近付いてその手で私の頬に触れる。
実際には女性の手が私に触れても、肉感的に何も感じないのだが。
「えぇ、必ず私は貴女を幸せにします」
女性はしばらく私を「じーっ」と見つめた後、私の頬から手を離した。
「貴女の名前は?」
「ヤコ・テンジョウインと申します」
「私の名前はヴィエラです。運命の人、ヤコ」
目の前の美女、ヴィエラさんは私を運命の人だと思ってくれたようだ。
いやちょっと待って。私が言うのもなんだけど素直過ぎない?
「私が貴女の運命の人です」「そうですか、ではこれからよろしくお願いします」ってことだよ?
付き合ってくださいって告白したつもりが、婚姻届けに判子押してたって気分だ。
「私に付いて来てください、ヤコ」
ヴィエラさんはそう言って私の隣によって来た後、ふよふよと浮かびながらどこかに向かい始めた。
なんだろう、ミステリアスを通り越して何考えてるかよくわからない子だなぁ。
お互いに何も話さず歩いている空気に耐え切れず、私はヴィエラさんに話しかける。
「えっと……ここに来る途中なんか凄い襲われたんだけど」
「あぁ、アレは私が仕掛けた罠です。ヤコ」
やはりヴィエラさんがやっていたのか。
ヴィエラさんに会ってから一度も襲われていないし、以前に見た動画でも映像の最後にヴィエラさんが映り込んでいたので、ひょっとしてとは思っていた。
「なぜ襲ってきたの?」
「外からこの森に入ってくる者は、全て壊すか殺せとおばば様が言うからです」
おばば様って誰だろう。
というか怖いな、全て壊すか殺せって。
「おばば様って誰?」
「おばば様はおばば様です」
いや、うん。それを聞いてるんだけどね?
マズいなこの人、意思の疎通が普通の人とズレてる。
天然っていうの? いやそれもちょっと違うよね。
しょうがない、おばば様についてはいずれわかるだろう。
「私は殺さなくて大丈夫なの?」
「ヤコは運命の人だから、大丈夫です」
凄いなこの人、私の言ったことを一切疑わずに信じてくれてるのか。
段々ヴィエラさんの性格がわかってきた。
というか見た目と中身のギャップが本当に凄い。
「今はどこに向かっているの?」
「おばば様のところです」
そうか、おばば様に会えるのか。
先程の疑問が早く解決しそうで良かった。
というかそれはそれでヤバくないか?
おばば様って「外から来る人全員殺せ」って言った人でしょ?
出会った瞬間、私は殺されるんじゃなかろうか。
これは用心せねばならない。
「着きましたよ」
着いちゃったらしい。
私はすぐにでもペニバーンとロウターを呼びだせるように身構える。
「……ん?」
だが人がいるような気配はない。
ヴィエラさんに案内された場所は、少し開けた花畑の中央で大きな木がそびえ立っているだけだ。
足元に咲く花はどれも綺麗で、森の木々と同じく仄かな光を放っている。
「待ちかねたぞ、『導き手』よ」
「ッ!」
しわがれた声に驚いた私が振り返ると、真後ろに深緑のローブを被った人物がヴィエラさんと同じ様に浮いていた。
こんな近くにいたのに気付けなかったとは……
ストーカーの才能があるな、この人。
「おばば様」
「ヴィエラ、何故この者を生かした? 全員殺せと命じたはずだが」
「ヤコは運命の人だからです」
この人がおばば様か。
おばば様はヴィエラさんの返答を聞いて、何か考えているように沈黙する。
ローブには何か特殊な効果があるのだろうか? おばば様の顔は全く見えない。
だがこちらを観察するような威圧感だけは感じることが出来る。
「そうか、なら結婚するか」
ん?
ちょっと待て流れおかしくないか?
今必要な会話ゴッソリ抜けなかった?
「何故生かした?」の質問に対して「運命の人だから」ってアンサーで貴女は満足なの?
なんで運命の人だと思ったのかとは掘り下げなくていいの?
というかそれ以外にも何か聞くことあるよね貴女、主に私に対して。
「待ちかねたぞ、『導き手』よ」とか思わせぶりなことだけ言ってそれだけですか?
そんな私を置いて事態は進んでいく。
「はい、お願いします。おばば様」
「すぐに式を執り行う。こちらに来なさい」
そう言っておばば様は大きな木の方へふよふよと飛んでいく。
ヴィエラさんも私を手招きした後、おばば様と一緒に飛んで行った。
待って、これ行っていいの?
私まだ身を固める気無いんだけど。まだ女を抱き足りないんだけど。
少し呆然としていると、ヴィエラさんが振り向いて「来ないの?」とでも言いたげに首を傾げる。
「いや、今更逃げるわけにもいかないけどさ」
しょうがない、なるようになれだ。
地球にいるお父様お母様、私結婚します。
「ではこれより結婚式を執り行う……と言いたいが、花嫁衣装がまだじゃったな」
そう言っておばば様が軽く右手の人差し指で私達を指差すと、周囲の花から沢山の花びらが舞い上がった。
花びらは、しばらく私達の周りで台風の様に舞った後、私とヴィエラさんの服に凄い勢いでくっついてくる。
「何事!?」
「すぐに終わるさね」
花びらの嵐が収まると、そこにはカラフルなヴェール付きの花嫁ドレスを身に纏ったヴィエラさんと、同じくカラフルなヴェール付きの花嫁ドレスを身に纏った私の姿があった。
「うむ、似合ってるぞ。ヴィエラ」
「ありがとうございます、おばば様」
ドレスをよく見るとそれは花びらが綺麗に一つ一つ纏まってくっ付いて出来た代物だった。
ここに咲く花と同じく、ドレスから仄かな光を放っていてとても綺麗だ。
「あんたには……ドレスよりタキシードのがよかったかの?」
「いや、女の子ってのはなんだかんだドレス好きなもんっすよ」
この意味不明なフリフリ具合は嫌いじゃないです。
「では、これより結婚式を行う」
よっしゃ、仲人どころか招待客もいない結婚式が始まったぞ。
なんならエンゲージリングも用意してません。
神父さんはどうやらおばば様がやってくれるようだ。
「新婦よ。健やかなる時も病める時も、共に助け合って生きていくと誓いますか?」
おぉ、有名な文句だ。
どっちが先に「はい」って言うの?
新婦二人いるんだけども。
おばば様の威圧感が私に向けられたので、恐らく私だろう。
「はい、誓います」
「うむ。では新婦よ、貴女も誓いますか?」
紛らわしいなホントこれ。
「はい、誓います」
ヴィエラさんも誓いの言葉を言ってくれた。
なんだろう、勢いが急過ぎたせいでイマイチこれが現実なのか夢なのか判断しかねる感じだけど、それでもやっぱり「貴女と助け合って生きていくことを誓います」って言われると嬉しいもんだな。
マリッジブルー? そんなもん感じてる暇無かったわ。
だって結婚するかって話から10分以内に結婚式が開かれるんだもの。
世界記録じゃないのコレ。
「では、新婦同士の誓いのキスを」
うん、一ついいかな。
私ヴィエラさんに触れないんだけど。
どうやってキスすればいいんだろう。
それとなくヴィエラさんに顔を近付ければいいのかな?
が、そんなことを考えていた私の、いや正確にはヴィエラさんの足元にボコッという音と共に小さな木が生えてきた。
この木は先程ヴィエラさんと出会った場所に生えていた苗木だ。
美少女感知センサーがコレを指し示しているのだから間違いない。
「その苗木にキスをするのじゃ、『導き手』殿」
「えっ?」
「それがヴィエラの本体じゃからな」
……マジ?
え、なんだ? つまり植物人っていうのは所謂妖精ってことですか?
この苗木こそが目の前に浮いてるヴィエラさんの本体だと。
だからこそ美少女感知センサーはコレを指し示していたのだと。
つまりそういうことか。
ヴィエラさんは苗木の前で唖然としている私を見て、首をコテンと傾げる、可愛い。
「……よし」
もういっそ何も考えるな。
ツッコミをし始めたらそもそもこの結婚式から追求せねばならない。
そんな不毛なことをするより、今は目の前にいる美少女を喜ばせることを考えよう。
私は花畑の上に膝を付き、ヴィエラさん(の本体)に顔を近付ける。
うん、この森の植物と同じく、幻想的な光を放っていてとても綺麗だ。
その苗木のてっぺんを触り、中央の枝に唇を当てる。
キスしてみた感想?
近くの公園に生えてる木にキスしてみ、多分全く同じ。
人生初の誓いのキスは、樹木の味でした。
◇◆◇
ヴィエラさんと結婚式を挙げたその日の夜、私はヴィエラさんと最初に会った場所の近くに生えていた大木の中で、壁に寄りかかっていた。
あの後おばば様が「新居を作ってやろう」とか言ってこの木に穴を開けたかと思うと、「ここがお主の新しい家じゃ」とか言ってきた。
熊かよ。とか最初は思っていたけど、中に入っているとこれが中々快適でびっくりしている。
穴を開けたと言っても適当に開けたわけではないらしく、中はしっかりと研磨されてフローリングのようだ。
それでも私が寝っ転がったら数センチ程しか余裕が無くなるので、広いとは言えない。
なんだろう、泊まったことは無いけどカプセルホテルってこんな感じなのかな。
「ヤコ」
「ん?」
ヴィエラさんが私を呼ぶ声がした。
だが入り口に目をやっても、そこにヴィエラさんの姿は無い。
あれ、おかしいな。すぐ近くで声が聞こえたんだけど。
「ここよ、ヤコ」
今度はさっきよりもっと近くで聞こえた。
上を見上げると、そこには天井から逆さまになったヴィエラさんの顔が垂れ下がっていた。
「うぉっ」
「どうしたの? びっくりして」
「心臓に悪いから次からそこの穴を通ってこの部屋に入ってきてくれない?」
「わかったわ」
寝る前にショッキングなもん見ちゃったよ。
明日の朝イチで同じ光景みたら寝ぼけて叫んじゃうかもしれない。
いやほんと今まで会ってきた子とは全然違って驚きの連続だよ、落ち着く暇もない。
そもそもあのおばば様って人がよくわからな過ぎるんだよ。
何考えてんだろあの人、意味わかんないわ。
もうちょっとこちらサイドに気を使っていただきたい。
「こんな夜遅くにどうしたの?」
「新婚初夜っていうのをしてこいって、おばば様が」
おばば様が気が利くじゃないですかぁ!
いや流石ですおばば様、一目見た時から「あ、この人は素晴らしい人だな」と思っておりましたよええ。
私の目に狂いは無かった!
浮いていたヴィエラさんが私の前に降りてくる。
いやこうしちゃいられませんね、据え膳食わぬは女の恥ですよ。
一気にテンションが上がった私は、椿ノ宮の制服を脱ごうと手を掛けたところで再び冷静になった。
いや、だからどうやってドスケべすんのよ。
キスも出来なかったんだよ?
え、なに。まさかまたあの苗木とするの?
「えーっと。ヴィエラさんは新婚初夜はどうするか、おばば様に聞いた?」
若干自分の声が上擦っているのを自覚する。
いや、勘弁して頂きたい。何が悲しくて苗木とドスケべせにゃならんのだ。
「結婚した二人で一緒に寝ると聞きましたが?」
……そう、コウノトリ理論で行くのね。
いや構わないよ、うん。
普段は馬鹿にしてるソレも、今回ばかりは救われたと言っていいかもしれない。
ヴィエラさんはその場でクルッと一周回ると、ドレスからパジャマ姿に変身した。
そして穴倉の中に寝っ転がると、「一緒に寝ましょ?」と自らの隣をポンポンと叩く、可愛い。
その夜はなんかどうしようも無いモヤモヤとムラムラでイライラしました。
でもヴィエラさんの寝顔が可愛いのでよしとします。




