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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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家族だけど朝食だけど過去話だけど

 異世界のベッドの中で、天上院は目を覚ました。

 夢で見た記憶は、今はもう戻れないだろう遠い地球の日本。

 お調子者だった父と、いつもマイペースだった母。

 二人は先立った娘を悲しんいるのだろうか。

 天上院は自分の「女の子をもっと抱きたい」という欲求の下、新たな人生を歩み始めた。

 出来ればこんな娘の事など忘れて欲しい。


 だが何故だろうか、悲しんで欲しいと思う自分自身がいるのにも、天上院は気付いた。

 異世界に転移したとはいえ、天上院にとっての両親はどこまで行ってもあの二人なのだ。

 例えこの世界で天上院がパートナーと言えるほどの人物を見つけ、その人と共に人生を歩むことになっても、それは変わらない。

 だからそんな世界で、いや世界を跨いでも二人しかいない両親に、安否を気にして欲しいと思うのは甘えなのだろうか。


「アハハ、元気かなぁ」


 弥子は天上院一家の一人娘だ。

 自分が死んでしまったあの家が、どうなってるのかわからない。

 何か感傷的な気分になってしまった天上院は、気を紛らわそうとスキルカタログを開くことにした。

 今後の異世界を生きていくうえで、何かの指標になるかもしれない。

 ページをぺらぺらとめくる天上院。

 思えばこうして一人になる時間が異世界に来て少なかったため、スキルカタログに目を通すことはなかなか無かった。

 そして彼女は、ある一つのスキルに目を止めた。


「……『異世界公衆電話』」


 『異世界公衆電話』

 このスキルの取得には、徳ポイントは消費されない。

 1徳ポイントを消費することで、1分間だけ自分の知る異世界の電話端末に非通知で電話を掛ける。


「……!」


 天上院はすぐにそのスキルを取得し、自分の知る番号に電話を掛ける。

 天上院が所持する徳ポイントは3ポイント。

 3分間だけ、夢をもう一度見れる。

 だが彼らが見ているかもしれない悪夢を晴らすにはそれで十分だ。

 電話のコール音が鳴り響く。

 非通知であることを気にせず、どうか受話器を取って欲しい。

 天上院は心から祈った。


「もしもし、天上院ですが」


 やがて聞こえる、女の声。

 その声は微かにかすれていて、おっとりとしていた雰囲気からは考えられないほど元気がない。

 だが間違いない。天上院弥子の母親、天上院陽彩だ。

 その声を聞いて喉元に何か熱いものがこみ上げてきたが、残念な事に時間は有限だ。

 それを飲み込んで天上院は声を絞り出す。


「母さん! 私だよ、ヤコだよ!」

「……え?」


 そこで天上院は二の句が継げなくなった。

 果たして次に何を言うべきか分からない。


「ヤ……ヤコちゃん?」

「そうだよ! 天上院陽彩の娘、天上院弥子!」


 そんな当たり前の事を、天上院は口に出す。

 残り時間はあと二分、時の流れが過ぎるのはこんなに早かっただろうか。


「や、ヤコ! 今どこにいるの!?」

「ごめん。今から言うことは信じられないだろうけど、全て本当のことなの!」


 天上院は物凄い速さで現在の自分の状況を説明した。

 途中で陽彩が奇声を発してドタドタと家を駆けるのが聞こえた。


「貴方! ヤコが! ヤコから電話が来たの!」

「ヤ、ヤコからだとっ!」


 残り時間は一分、もう時間が無い。


「お母さん、お父さん!」


 伝えなければ。

 喉が焼けるように痛いが、今はそんなことを気にしている暇はない。

 二人に自分は異世界でしっかりと生きていると。


「私は元気だよ! この電話は夢なんかじゃない!」


 残り時間は30秒、二人が自分の名前を叫ぶ声が聞こえる。

 嗚咽だって聞こえる。

 こんな状況になるまで両親を放っておいた自分に、今更罪悪感が湧いてくる。


「いつになるかわからないけど、また電話するから!」


 ツー、ツー。

 そんな音と共に、異世界公衆電話の通信は切れた。


 扉がノックされる音が聞こえる。

 天上院は扉に振り返るが、扉は沈黙したまま。

 天上院の返答を待っているようだ。


「どうぞ」


 扉が開かれ、ガラードが寝室に入って来た。

 軽く頭を下げると、天上院に微笑む。


「おはようございます、テンジョウイン様……テンジョウイン様?」


 天上院に微笑んだガラードだが、その顔は困惑した表情に変わる。


「大丈夫ですか? なにやら目が赤いようですが……」

「え?」


 言われて天上院は部屋にある鏡を見る。

 そこには目を真っ赤に充血させた天上院がいた。


「あ……」

「ひょっとして寝室に何か問題がありましたでしょうか? そうでしたらすぐに解決させていただきますが」

「ううん、大丈夫」

「本当ですか? 何やら頬も赤いですし、風邪でもお引きになったのでは……」

「本当に大丈夫だから。泊めてくれてありがとう」


 そう言って天上院はベッドから起き上がり、ガラードの下へ歩いて行った。


「我が家で朝食を食べていかれませんか?」

「喜んでいただくよ」


 昨日の夜は体力の消耗が激しかったため、王宮の風呂から出た後に近くのお店で軽い食事を取ってからすぐに寝室へ行ってしまった。

 その為、現在天上院はかなりお腹が空いている。


「では食堂までお連れします」

「よろしくね」


 ガラードの家は、海底都市にあるティーエスの家とは異なるベクトルで豪華だ。

 ティーエスの家は、支配者階級である為、民の反感を買わないよう、それでいて威厳が出るような豪華さだった。

 ビジネス的な豪華さと言えばいいのだろうか。

 だがガラードの家はまさに逆。

 ドーン、ドーン、ドドーンという効果音が聞こえてきそうなほど、高級そうな家具や調度品がその邸宅にあり、自らを誇示するかのような家だった。


 朝っぱらからその豪華絢爛さを目にすると、前世は一般家庭で、今生に至っては家無しの浮浪者に過ぎない天上院は顔を覆いたくなるような眩しさである。


「うん、凄い家だね」

「お褒めいただき光栄です」


 ガラードは天上院の言葉に謙遜をしない。

 それもそうだ。大したことは無いと言えば相手への侮辱になりかねない。

 むしろそれを誇りに思い、笑って受け流すガラードは立派と言えよう。


「ここが食堂です、天上院様」


 そこにはティーエスの家でも見たような黒くて大きな両開きの扉があった。

 毎度思うが何故金持ちの家は食堂とリビングで別れているのだろうか。

 別に面倒だしリビングで食べればいいじゃんと思う天上院である。

 食堂に繋がる扉に立っていた、ガラードの家で働いているメイドがその重厚な扉を開けた。


「いらっしゃい、お待ちしていたよ。人間殿」


 天上院を食堂で待ち受けていたのは、ガラードと同じく銀髪で、壮年の男性だった。

 ハクヒョウ、というのだろうか。

 白い豹の顔をした男が腕を組み、堂々たる姿で食堂の上座に座っている。


「おはようございます、お父様」


 ガラードが、父と呼んだその男に向かって挨拶をする。


「うむ、それと……テンジョウイン殿、だったかな?」


 男はその目で天上院を舐めるように観察する。

 薄気味悪さを感じた天上院は、一歩後ろに下がる。


「ククク、そう怖がることはない。別に取って食おうとしているわけじゃないのだ」


 そう言って男は立ち上がり、天上院の下に向かって歩いてくる。

 そして天上院の耳元に顔を近づけ、そっと囁いた。


「『導き手』殿に、ご無体を働いたりはしないさ」


 そう言ってガラードの父親は再び上座に向かって歩いて行った。

 しかしすぐに席に座ることなく、上座に最も近い位置の椅子を引いた。


「どうぞお座りください。私の名前はサー・ランスロウ、きっと貴女の役に立つでしょう」





 ランスロウに促されるがままに席へ座った天上院は、運ばれてくる朝食に舌鼓を打つ。


「テンジョウイン殿はどうしてこのエンジュランドへ?」


 パンを千切って口に運ぶ天上院は、一旦その手を止めてランスローに向き直る。


「ドレッド王女殿に連れられて、ここに来た次第です」


 一応この国において彼女は王女に位置する立場らしいので、敬称を付けた。

 あんな誘拐犯に敬称など付けたくはないが、この家と彼女が懇意な可能性や、この国が階級に厳しかった場合、現状保護されている立場である天上院がどうなるかはわからない。

 無論その時は強行突破という手段になるのだろうが、それも成功するかどうか。

 先程自分を助けるといったランスロウの言葉も、どこまで信用していいのかわからない。

 天上院は今朝の夢で、改めてここが異世界であると痛感し、気を引き締めなおしたのだ。

 だが、そんな彼女の思惑は他ならぬランスロウによって砕かれた。


「あのジャンクか……」

「お父様!」


 ボソリと呟いたランスロウに、ガラードは立ち上がって大声を上げる。


「食事中だ、座れ」

「訂正してください」

「その必要はない、事実を言ったまでだ」

「……ジャンクって、どういう意味ですか」


 睨み合う二人に、天上院が質問する。

 ランスロウはゆっくりと天上院に振り返り、それに答えた。


「あの女のことさ。精霊に選ばれなかった分際で、みじめにもがく欠陥品」

「お父様!」


 ガラードが憤怒の表情でランスローを怒鳴りつける。

 それ以上は許さない、言葉にせずとも顔が語っていた。


「ククク、いいか。最愛の娘ガラードよ」


 ランスロウはそんな彼女の怒りを涼しい顔で受け止める。


「ジャンクのスクラップは、お前がやるのだ。そして君臨せよ、永刻王に」




 ガラードの家を出た天上院達は、王宮に向かって歩いていた。

 ランスロウの話以降、ガラードは一言も喋らない。

 俯いてしまい、足取りも重くなっている。


「ドレッドは……」


 ポツリと、ガラードの口から呟きが零れた。

 二人は足を止めない。

 ガラードの独白を、天上院はただ聞くだけだ。


「ドレッドは、私の唯一の友達なんです」


 片や幼女誘拐犯。

 片や清廉潔白そのものにしか見えない女の子。

 間違ってもこの二人が友達になるようなビジョンは見えない。


「子供の頃に私が虐められてた時、ドレッドが私を助けてくれたんです」


 天上院はガラードの話に返事をしない。

 ただその足を止めることなく、ガラードの言葉を受け止めている。


「弱かった私は、誰よりも強かったドレッドに憧れました。私は彼女みたいな強いガンマンになりたかったんです」


 ガラードは自分のホルスターに入った銃、〝ディラン″を右手で軽く撫でる。


「だから精霊にこの銃を授かった時、凄い嬉しかったんです。私もドレッドと同じ土俵に立つことが出来るんだって」


 しかしガラードはその手を握り締め、絞り出すような声で言葉を発した。


「でも、誰よりも期待された、ドレッドは」


 精霊に銃を授かることが無かった。

 それはもう、クランの口からも、ランスロウの口からも聞かされた。

 憧れ補正が入っているとはいえ、ガラードは話を大きく盛るような人物には見えない。

 ドレッドは誰よりも強かった、という言葉は本当なのだろう。

 銃を授ける精霊というもの自体が想像しずらい天上院にとって、その存在がどのような基準で銃を授けているのかわからない。

 だが、誰よりも才能があったらしいドレッドが銃を授かれなかったのは、なんらかの理由があるのだろう。


「私は、あの時ドレッドに何も言うことが出来ませんでした」


 ガラードの手から血が出ている。

 彼女の腕が獣化し、人間のそれより伸びた爪が彼女の掌に食い込んでいるのだ。

 だがガラードがそれに気付く様子はない。

 物凄い形相で地面を睨み付けている。


「私はドレッドに助けられながら、彼女を助けることが出来なかったんです」





 王宮に着いた二人は迷うことなく訓練所に向かう。

 扉を開けると、中には目を閉じて座禅を組んでいるドレッドと、直立不動の姿勢で立っているクランの姿があった。


「来たよ、ドレッド」


 天上院がドレッドに声を掛ける。


「……やっぱりな、そうだと思ったぜ」


 座禅を組んだドレッドは、その目を開ける事無く天上院に言い放つ。


「なに言ってんの?」

「お前、全然身武一体を使いこなせてねーな」

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