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女だけど女の子にモテ過ぎて死んだけど、まだ女の子を抱き足りないの!  作者: ガンホリ・ディルドー
第三章 獣人のドレッド
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また浮気ですか天上院様

「この方角に天上院様がいるのですね……」


 星がきらめく月夜の晩に、清宮姫子は地を駆ける。


「走って下さい、けるべろす」

「「「ガウ!!!」」」


 清宮の指示にケルベロスはその三つ首とも声をそろえて返事をする。

 そして夜が明けたころ、清宮は中央王都に辿り着いた。


「ね、眠いですわ……」

(キミってひょっとしてバカかい?)


 清宮に強烈な睡魔が襲う。

 それはそうだ。

 一度も休憩せずにテンション高く騎乗して走り回ってれば疲れる。

 天上院が二泊三日で、更に転移陣を利用した距離を清宮は一晩で走りぬいたのだ。

 彼女のケルベロスも凄いがそれ以上に清宮がアホである。


「ご、ご飯……それと眼帯を買わなければ」

(キミこの世界のお金持ってないでしょ)

「……」


 悪魔さんの最もなツッコミに固まる清宮。

 ご飯を食べて眼帯を買って疲れたので今日はもう寝ようとか考えていた彼女にとっては泣きたくなるくらいの現実である。

 愛しの天上院に会いたいのは山々だが今の姿を見せる事などとてもできない。

 転移した時は美しく整っていた黒髪と服も今は見る影もなくボサボサだったりヨレヨレである。

 見た目が派手で注目される分逆に恥ずかしい。


「どうしましょう、このままですと不審者一直線ですわ」

(よく分かったねキミの頭で。偉い偉い)


 自らの置かれている状況に気付いた清宮はオロオロする。

 彼女はいつもこうなのだ。

 感情的に行動し、どん詰まりしたところで漸くヤバいと気付く。

 前世では彼女専属の優秀な従者がフォローしていたが、この世界にそんな存在はいない。


「-----?」

「へ?」


 そんな彼女に青い制服に身を包んだ人物が声を掛けてきた。

 中央王都の治安委員である。

 この世界に来たばかりの彼女は魔力による会話方法を知らない。

 以下、『』に囲まれた言葉は治安委員の言葉である。


『君、名前は?』

「え……あう」

『エイ・アウさんだね。貴方は左目が無いようだけれど、魔族の方ですか?』

「あ、あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ」


 この清宮、ポンコツである。

 因みにこの世界では魔力による会話など誰でもできる技能であり、治安委員はまさか清宮が会話能力を持っていないとは思わない。


『あ、あいきゃん? んー、ちょっと局まで付いて来てもらっていいですか?』

「へ、い、嫌! どこに連れて行こうというのです!」

『あー、パトロール中に怪しい姿の人物を確保。これより局へ向かいます』

「離してください!」


 お金はない、会話も出来ない、頼りになる人もいない。

 ないないないの三拍子に、清宮の右目からは涙が出てきた。

 こんな時に悪魔さんからは何の反応も無い。

 涙目の清宮が治安委員の局員にいよいよ連行されそうになった時、救いの手は差し伸べられた。


「あっ、エイちゃーん! 待たせた?」

「へっ?」


 この世界に来て初めて清宮の耳に届いた日本語。

 それは見たこともない浅黒い肌をした軽装の少女の口からによるものだった。


『すみませーん。この人、私の友達なんですよ。彼女極度の人見知りで、ご迷惑をおかけしました』

『そうですか、こちらこそ申し訳ありません』

『いえいえ、ではお勤め頑張ってください』


 清宮は目の前で起こっている出来事をオロオロしながら見る。

 しかし一つわかるのは、突然日本語で話しかけてきた少女のおかげで自分は助かったのだということだ。


「あ、ありがとうございます」

「いいのよ。貴女、転移者でしょ?」


 清宮は自分を救ってくれた少女にお礼を言うと、少女は清宮に微笑みかけた上、その正体まで看破した。


「な、何故それを?」

「ふふっ、さっきの貴女と全く同じ反応を数日前に見たってだけよ」


 清宮の目の前に現れた救いの手。

 赤の他人であるはずの自分に手を差し伸べてくれた親切な人の名を知りたくて、清宮はその名前を尋ねる。


「貴女様のお名前はなんとおっしゃられるのですか?」

「私? 私はフィスト。フィスト・ライン」


 それはつい先ほど天上院と森で別れ、魔大陸に戻るため中央王都の転移陣へ向かっていたフィストだった。



「ふぃすと様、ですか?」

「そうそう! ちょっと長くなりそーだし、私の友達がやってるお店でも行きながらお話しよ?」


 フィストのお誘いは完全に善意からくるものだが、清宮はまだ見知らぬ人間からのお誘いに対して無警戒で付いていくほど、この世界に気を許していない。


「えっと、私お金持ってないんです」


 その為まずは自分にいいことをしても見返りなど一つもないということを主張する。

 見方によっては好意で話しかけてきた人を守銭奴扱いする失礼な行為だが、清宮のこの行動は仕方のないものだと思われる。


「ん? わかってるって」


 しかし、フィストと名乗る人物はそんな清宮に対して金品的な要求はしないようだ。


(カラダで払え的な?)

(女性ですよ?)

(キミだって女の子が好きじゃん?)

(確かに)


 その可能性も捨てきれないが、一応困っている所を助けてくれた恩人なのでとりあえず清宮は彼女についていくことにした。


「ヒメコちゃんっていうんだ?」

「はい、先程はありがとうございます」


 フィストに付いていきながら清宮は先程の事に対して礼を言う。


「気にしなくていいって。んでヒメコちゃんはこの世界の言葉がわからないんでしょ?」

「は、はい。でもふぃすと様の言葉はわかります。何故でしょう?」

「それは私が魔族だからね。人間よりも他人の魔力に干渉しやすいんだ」

「ま、魔族?」


 清宮は天上院のようななんちゃってお嬢様と違い生粋のお嬢様である。

 魔族と言われて彼女が知っているのは精々、昔話に出てくる鬼や童話の悪魔くらいのものだ。

 ゲーム的な存在を彼女は全く知らない。

 ついでに言えば魔法や魔力と言われてもパッとイメージが湧かない。

 事前知識が無かったからこそケルベロスも地獄の番人というおぞましいイメージが無く、頭が三つついてる可愛いワンちゃんというくらいの感覚しか無かった。


「あー、異世界人に魔力とか言っても分かりずらいか。なんだろ、じゃあ魔力をふわふわと名付けようか」

「ふ、ふわふわ?」

「うん、空気中にはそのふわふわが存在してて、この世界の生物は皆、そのふわふわを利用して生きているの」

「は、はぁ」

「ふわふわを介せば相手の言葉がわからなくても、意思を直接伝えることが出来るんだよ。今の私達みたいに」


 この説明なら、わざわざ魔力をふわふわに置き換える必要があったのかは甚だ疑問だが、清宮はある程度理解できた。


「なるほど、それは私にも出来ますでしょうか?」

「誰でも出来るよ、以前私が会った転移者は5分で出来たし」


 フィストの言葉通り、清宮はビッケの店に着くまでに魔力による会話をマスターした。





「な、なんですかこのお店……」


 清宮がフィストと共に辿り着いた店は異様な雰囲気を放っていた。

 骸骨の口が開いたような入り口、その周りを囲むようにある悪魔の彫像。

 お化け屋敷のような見た目の店である。

 今の清宮にとっては危ない感じの店にしか見えない。


「大丈夫なんでしょうか、不安になってきました」

「店の外観は人間基準じゃ、ちょっと趣味悪いよね……」


 しかし自分に会話方法まで丁寧に教えてくれたフィストを今更疑う気は清宮には無かった。

 入店するフィストに清宮も続く。


「いらっしゃ……」

「やぁ、ビッケ」


 店内には背中に小さな翼を生やした人物がグラスを拭いていた。

 入店したフィストに声をかけようとして、店内にいた人物は固まる。


「ん? どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよバカフィストォオオオオオオ!」


 フィストが固まってしまった人物に近づくと、その人物は大声を上げて怒り出した。


「治安局からヤコちゃんが指名手配されてからなぁにも音沙汰なかったから心配したのよ!」

「ご、ごめん」

「ごめんじゃないわよバカぁああああああああああ!」


 その人物は拭いていたグラスをフィストに投げつけた。

 それを右手でキャッチしてフィストは再び謝る。


「本当にごめんって、ビッケ。私も返事する暇無くってさ」

「もう! 店に来る暇が出来たならその前に一回は連絡よこしなさいよ!」

「すみませんでした……」

「あの……」


 怒りまくるビッケと謝りまくるフィストの間へ、清宮が遠慮がちに声をかけた。

 するとビッケは再び固まってしまう。


「どうしたのですか?」

「フィストがまた新しい女の子を連れてきた……!」

「違うから!」

「もうヤコちゃんだけじゃ満足できないっていうの……?」

「違うから! 彼女はそんなんじゃないから!」

「次はいよいよ私だったりするのかしら……」

「ごめんそれはないわ」


 清宮は正直この二人が何を言っているのか全く理解できない。

 だが彼女たちの会話の中で一つ気になることがある。


「あの……ヤコちゃんって誰ですか?」


 そう、ヤコちゃんなる存在だ。

 彼女の愛する天上院弥子のヤコという名前と全く同じ。

 この世界においてヤコという名前はフィストやビッケなどの名前と異なり明らかに日本人っぽい名前である。


「ヤコちゃん? ヤコちゃんはフィストの彼女よ。異世界人のね」

「ちょっ、ビッケ!」

「……異世界人、彼女」


 もうほぼ間違いない。

 清宮はその疑惑を完全な確信にすべく、もう一度質問をした。


「そのヤコちゃんという方の本名は、天上院弥子という名前ですか?」

「えぇ、そうよ」


 清宮の時間が、止まった。


「ふぃすと様が、天上院様の、彼女?」

「そうよ、どうしたの?」


 清宮はその時、呼吸の仕方を忘れた。

 呼吸が出来ないのにもかかわらず、認めたくない現実を反芻するために言葉を絞り出す。

 帰ってきたのはそれを残酷なまでに認める言葉。


「どうしたの、大丈夫?」

(アハハ……さぁ、姫子ちゃん。どーする?)


 清宮の頭の中で悪魔が嗤う。

 どうする? と聞きながら、返答は分かっているとでも言うように。


「あ、……あぁ」

「ヒ、ヒメコちゃん?」

「あぁあああああああああああああああああああ!」

(そう、それでいいんだ。ヒメコちゃん)


 ヒメコが叫ぶと、彼女の手に岩徹し(イワトオシ)が現れる。

 それを見たフィストとビッケは只事では無いと悟り、二人とも即座に戦闘態勢を取った。


「クソッ、どうなってるんだ!」

「わかんないけど、どう見ても様子が変よ!」


 長年の間、魔大陸を共に駆け抜けた二人は、一回のアイコンタクトで意思を決定した。

 清宮を殺さずに拘束する、と。


「あぁあああああああ!?!?」

(殺せ、姫子ちゃんの愛する女を奪った者を)


 清宮が岩徹しをフィストに振るう。

 清宮の岩徹しは確かにフィストの体を捉えた。

 しかしそれはフィストの残像であり、実際に彼女が切り裂いたのは何もない空間だった。


「最近私の幻術を見破るバケモンばっかと戦ってたけど!」


 清宮の真後ろに回り込んだフィストはそのまま清宮を背中から押し倒す。


「私はフツーに強いのよ!!!」


 そう、フィストは普通に強い。

 フィストの存在を美少女だから問答無用で見破ってしまう天上院。

 そして敵がどこにいても追尾技を利用して攻撃を当てるアイディール。

 この二人の存在がいたから彼女の幻術の力がかすんでいただけであり、彼女の幻術に何らかの対策を持たない者は成す術も無い。

 フィストは清宮の腕を絡めて関節技を決め、ビッケが清宮の頭に触れる。

 清宮の暴走の正体を探るため、彼女の身体を解析しているのだ。


「……! 彼女の体をコントロールしている何かがいるわ!」

「どうにか出来るの!?」

「今抗う心を活性化してる! もうすぐ止まるわ!」


 ビッケの言葉通り、清宮の暴走はやがて収まった。

 清宮の岩徹しを握る手は一度強く握りしめられた後、その手から岩徹しを手放した。

 手放された岩徹しは、消えるようにその場から無くなった。


「浮気する、天上院様が、悪いのです。惚れた者に、罪はありません」


 清宮は左目を抑えながら荒く息をする。

 そしてそのまま眠る様に気絶した。


「はぁ……いったいなんだったんだ」

「わかんない、でも彼女の意思じゃないはずよ」


 やっと動きを止めた清宮をみて一安心する二人。

 二人は倒れている清宮の姿を見た後、目を見合わせる。

 そして軽い溜息をついた後、どちらからともなく立ち上がり、各々の行動を開始した。 

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