禁忌の蜜 上
薄暗い洞窟。
光源は漂う蛍のような緑色の光だけ。
辺りに散らばるのは敗れた呪符と壊れた鎖。
私と、全身にお札を幾重にも張り付けられ、立ったまま鎖で四肢を縛られている女性以外には誰もいない
口と目にだけはお札が張り付けられていないのか、女性は何も言わず、ボーっと虚空を見つめている。
「ねぇ」
話かけても返事はない。
口を開く気も無いように見える、そもそも耳がふさがれているから聞こえてないのかもしれない。
頬っぺた? と思われる場所に軽く右手を添えてみたが、変わらず反応は無い。
顔を近付けて目線を合わせてみる。
その黄金の瞳は、光無く濁っていた。
しかしこうして目線を合わせることで、その奥底には煮えたぎるような憎しみを感じることが出来た。
正直に、恐ろしいと感じた。
決して衰えることなく、長い年月で練り上げられた狂気。
全身に貼られているお札のうち、一つが、ボロボロになって剥がれ落ちた。
瞳に宿る憎しみが、心なしか力を増したように思える。
きっとこの人には、目の前にいる私など見えていないだろう。
この場所に閉じ込めた者に対して、どのような復讐をするか。
破れた呪符と、割れた鎖が、一つ、また一つと増えると共に、この人の闇も深くなる。
頬を触って分かったのだが、口は封印で塞がれていないようだ。
唇、いや軽く指で口を開いてみたところ、どうやら腔内にもビッシリと呪符が貼られているので気付けなかった。
歯にも、舌にも、暗くてよく見えないが、恐らく喉奥に至るまで貼り付けられた封印の呪符。
抵抗はない、こうして口を開いてみても、指を噛んでくる気配はない。
反応がないことほど、悲しいことは無いと思う。
完全に相手がこちらを見ていなくて、アプローチをしても無反応。
悔しかったのだと思う、だから私はイタズラをした。
「苦しかったらごめんね」
口の中へ手を突っ込み、舌に貼り付けられた呪符の端を指でつまむ。
そのまま手前に引くと、意外な程に封印の呪符は簡単に剥がれてきた。
綺麗なピンクの舌が露わになる。
瞳を見ると、いつの間にか私を見ていることに気付いた。
なら、これで十分だろう。
呪符が貼られたままの彼女の唇に、自らの唇を押し付ける。
金色の目に、怪訝な色が生まれた。
新しい感情が見れた、とても嬉しい。
もっと君の、色々な顔が見たいんだ。
一度キスをやめて、彼女の頬を軽く撫でる。
今度はしっかりと、目の間の私を見てくれていることに喜びを覚える。
【お知らせ】
称号スキル『夜の王』を発動します。




