サタンの独白 上
私の視界が晴れていく。
覆っていた暗闇が退いて、離れていったヤコとの距離が近付いてくる。
「……やはり、無理か」
サタンが呟くように漏らした声は、ガラスが割れたような音と共に響いた。
幻術の空間が割れ、残ったのは拘束から逃れた私とヤコ。
そして自らの心臓をナイフで貫いた姿の魔王、サタン。
拘束から既に逃れているということは、ヤコもまたサタンの幻術に打ち勝ったのだろう。
今回サタンが掛けた幻惑は、初めて私と出会った時のような目くらまし程度のレベルではないのだが、一体明確な対処法を知らないヤコがどのように抵抗したのかは気になる。
だがそれよりも、今は満足そうな笑みを浮かべて横たわっているコイツから話を聞くのが先だ。
「まだ生きてるんでしょう」
「ほっほっほ、もうすぐ死ぬがのう」
本当に、何がしたかったんだこの人は。
絶対に人の命令など聞くタイプではないにも関わらず、あのガンホリと名乗る化け物の言う事には従っていたようだ。
一体何がこの人を動かしたんだ。
「そんなに険しい顔をせんでも、教えてやるから安心せい」
心臓から赤い血がとめどなく流れているにも関わらず、さして苦でもなさそうにサタンは微笑んで、ぽつぽつと喋り出した。
当然のように、出会った時から私に幻術を掛けていたという話は嘘だったらしい。
勿論ガンホリからそのような命令はあったのは間違いないが、そもそもサタンの生き甲斐は、この世に並ぶ者がいない最強の魔族である自分を、単体で超える力を持った実力者に出会うこと。
そんな可能性の芽を摘むような命令は拒否し続けていた、
しかし何故今回このように私達の身武一体を引き裂くような真似に手を貸したのかというと、ガンホリへの義理立てらしい。
サタンは数百年前に、女神イーリスに一度肉体を滅ぼされ、魂を封印された。
あまりに強力過ぎる個体は、生まれて来たことが罪となり、『天罰』を受ける。
別に『魔王』だけではない。『覇狼』も、『禍流』も、すべからく天罰を受けた。
無限に幽閉される魂の牢獄の中では、怒りも、悲しみも、感情は全て枯れ落ちる。
ただ浮かんでは消える思考だけが、己の正気と自我を保った。
何故私はここにいるのか、何故私は生まれて来たのか。
私は、私を殺せる者がいなかったからここにいる。
もし誰かが私を倒せたなら。
生まれた来た意味も、分かるかもしれない。
そんなことを毎日毎日、数百年も考えていた。
いつしか考えは想いに代わり、願いになった。
願いが極まった時、魂は封印から解放された。
解放された瞬間、何が起こったのか理解が出来なかった。
そして次に訪れたのは解放感ではなく、激しい重圧。
「ボクに従え、化け物共」




