狂暴
音速、と形容するのが相応しいだろう。
肉眼で追えないという程ではない。
だがそれを視認したところで避けられるかどうかは別の話だ。
考えても見て欲しい、車の何十倍もありそうな巨体が、捕食者としての意志を持って走っているのだ。
単純な重量の問題として、その巨体に当たれば家どころか城などまるで砂のように崩れ落ちるし、ましてや人に当たろうものなら即死か良くて重態である。
「なるべくお互いとの距離を開け! 防ごうとは考えるな、出来るだけ離れるんだ!」
こんなもの相手にして密集隊形など取ろうものならあっという間に全滅である。
防ぐとか避けるとかの問題では無く、当たらないように逃げるのが精一杯だ。
しかもあの野郎、どうやら狙う敵を選んでやがる。
民間人がいる地域に走り、襲い始めたかと思うと、慌てて対処しに集まって来た兵達にいきなり目標を切り替えて暴れまわり、態勢を立て直す為に兵達が退くと再び民間人を襲い始める。
あぁ、畜生。効率的だよ、間違いない。
「こっちを向けぇ!」
自分でもやけっぱちだったのは理解していた。
おまけに扱いなれていない銃と獣化したのだ、狙いがいつも以上にブレていた。
それでも注意を少しでもこちらに向けてくれればいいと思い、なるべく顔を狙って撃った。
それが思わぬ展開を呼び寄せることになるとは。
「グゥィ!? イィオォオオオオン!」
私の、撃った、銃弾が。
フェンリルの目玉に命中した。
そりゃ痛いだろう、転げまわるフェンリル。
あーあ住宅街が更地になっちまうよ。巻き込まれた住民がいないといいなぁ。
アホみたいに大きい化け物が、随分と生物的な行動をするのを見て、我々は一瞬呆けて事態を見守った。
やがて呻くように立ち上がるフェンリルに、我に返った砲兵達が一斉に攻撃する。
相変わらずあまり効いていなさそうに見えるが、今回は少し様子が違う。
いつもなら多少煩わしそうに身を振るうのに、今回は立ち上がったまま微動だにせずだ。
しかし押し潰すように放たれる圧力は、先程までと比べ物にならない。
殺意の奔流を幻視する程に、フェンリルは怒り狂っていた。
潰れていない片目で真っ直ぐ射抜くのは、その仇。
つまり私だ。
「ォウ」




