苦悶の紫
サタンの力により、意識を失った天上院弥子。
通常の身武一体と異なり精神世界へと移動するわけではなく、サタンによって精神だけが奪われた状況のため、こうして体は残っている。
「さて、と」
ガンホリ・ディルドー。
混合世界の創世神としての立場を簒奪し、新たな神を僭称する者。
簒奪後も暫くの間は表に出ずに潜伏しており、直接手を出さずに現地の実力者を利用することによって活動をしていた。
その為に戦闘能力は低いかと思われていたが、被害者の証言によってそれは否定された。
現場のみでの対処は不可能という判断により、すぐさま対策班が編成。
早速確保、もしくは始末する為に調査が開始されたが、偏執的なまでに自分の痕跡を隠す性格のようで難航。
たまに姿を見せたかと思えばすぐに消えてしまう、まるで霧のような存在。
手に掛かっている者達との直接的接触は禁止となっているため、最早ガンホリの計画が順調に進んでいるのを歯噛みしながら監視するだけというあまりに情けない状況。
しかしそれでは全世界を統合管理する役目の者達として面目が立たない。
対策班のみでは解決不可能という判断が下されたことにより、遂に特例が発動された。
「オシマイ、だね」
天上院弥子へと手を伸ばすガンホリ・ディルドー。
現状この世界の支配者としての立場であるガンホリは天候や病魔の蔓延、生態ピラミッドの状況や物体の性質など、指先一つで自由に変更出来る。
この世界に転移した異世界人の天上院弥子とて、それに逆らうことは出来ない。
ガンホリの手に触れられれば身武一体も強制解除され、そのまま天上院弥子という存在が消去されるだろう。
しかしそれは許さない。
伸ばされたガンホリの手が、手首から斬り落とされた。
「……キミ、は」
手首が斬り落とされたにも関わらず、その断面からは血すらも流れることはない。
当然だろう、人ではない。人の形をしている化け物。
しかし化け物の暴虐を止めたのは、一人の少女だった。
問答無用で地獄行きの罪人だった少女。
今ここで神の力を受けるに足る器を完成させた七色の英雄、最後の一人。
苦悶の紫、清宮姫子。
「汚い手で、天上院様に触れないで下さい」
悪魔によって奪われたはずの左目に宿る紫色の輝き。
どうして彼女が天上院弥子を守る為、ガンホリの前に立ちふさがったか。
それは少しまで遡る。




