食事したけど美味しかったけど危なかったけど
「ん……」
お腹の上に重みを感じたので、目が覚めた。
目覚めは悪い方なので、頭がボーッとする。
そもそも私なんで寝てたんだっけ。
次第に視界がクッキリしてくると、目の前にヴィエラさんの顔があった。
何やってんだろこの子。
「起きてたの? ヴィエラさん」
「はい。起きたらヤコ、寝てました」
「何してるの?」
「寝てるヤコ、見てました」
「そっか」
私はヴィエラさんを引き寄せて、胸に抱き込む。
そしてその紫がかった黒髪を撫でていると、次第に思考が回って来た。
そうだ、私は姫子ちゃんとお話して来た後、帰ってきてからそのまま寝たんだ。
「今何時だろ……」
ベッド脇の机に置いたスマホを手に取ると、時刻は夜の7時。
私がヴィエラさんとお昼寝を開始したのが確か3時くらいからだったので、わりとガッツリ寝ている。
「お腹空いた? ヴィエラさん」
「そういえば、空いています」
「それじゃ、なんか食べに行こうか」
生理現象にしては曖昧過ぎやしないかと思ったが、そもそもヴィエラさんが食事を行うようになったのが最近のことであり、空腹という感覚にもまだ慣れていないらしい。
暫くは私が気を付けて、食生活をサポートしていかねばならないだろう。
カチューシャを頭に着け、ホテルの外に出る。
夜のヘイヴァーの町は、落ち着いた雰囲気の街灯でどこか大人びた騒がしさがあった。
「どこで食べようかな」
やはり港町というだけあって、町の至る所で魚料理をアピールした料理店の看板が見受けられる。
中には店頭で料理を行い、料金を支払って受け取った後にテラス席で食事を出来るといった店もあった。
香ばしい匂いが食欲をそそるが、どれも非常に美味しそうなので選択に困る。
「ヴィエラさんは何か食べたいものある?」
「……あれ、気になります」
そう言ってヴィエラさんが指差したのは、ガラスで食事スペースと仕切られた調理場で、注文されたであろう魚介類を料理しているお店だ。
調理場には空気穴が設けられており、そこから漂う醤油の匂いが非常に食欲をそそる。
「うん、じゃあこの店にしよっか」
私はヴィエラさんと一緒に入店すると、店員さんに案内されてカウンターの席に座った。
どうやら食べたい魚介類を注文して目の前で焼いてもらうというシステムらしく、席には注文票とペンが置いてあり、それにチェックを入れて店員さんに渡すらしい。
「どれが食べたい? ヴィエラさん」
「あれと、あれ、あとあれです」
そう言ってヴィエラさんが指差したのは、海老とアワビとサザエ。
あぁ、絶対美味しいだろうなぁ。
私も白身魚の開きのようなものに目星をつけ、後は適当に選択して店員さんに注文を渡す。
昼間のジュース以来何も飲んでいないので、結構お腹が空いてきた。
◇◆◇
「あー、美味しかった」
食べ終わった私達は、お会計を済ませて店を出る。
え? ヘイヴァーの魚介類を食べる食事風景?
あくまで百合以外の部分に労力を割く気はございません。
そもそもやったところで中央王都の王城でやったケーキと紅茶のくだりがせいぜいです、諦めてください。
「あれが海の幸というものなんですね、初めてです」
ヴィエラさんも満足そうでなによりだ。
あまりにも美味しそうにヴィエラさんが食べるものだから店主がホタテのバター焼きをサービスしてくれたくらいである。
私も久々に焼いた白身魚という日本食に似たものを食べれて満足している。
今日の予定はもう無いので、適当にヘイヴァーの街をぶらついたらホテルに戻って明日に向けて寝るつもりだ。
「おーい、そこの女の子!」
「ん?」
振り向くと、そこにはジュース売りのおばちゃんがいました。
また貴女ですか、よく会いますねほんと。
またザクロジュースでも買わされるのかと思ったが、おばちゃんの一言で思わず固まった。
「昼間とはまた別の子かい? モテモテだねぇ」
勿論おばちゃんは冗談のつもりで言ったのだろう。
一切の悪意などなく、純粋に「色んな子と仲がいいんだねぇ」くらいの感覚で言ったはずだ。
だが、今の私には致命傷にすらなりうる。
「別の、子?」
やばい。
後ろを振り向くのが怖い。
でも振り向かなかったらもっと怖いことになりそうだ。
そぉっと振り向いてみる。
「ヤコ、どういうことですか?」
ヴィエラさんは私の肩に手を置き、上目遣いで聞いてくる。
息が私の頬をくすぐるようにして当たるが、今はそんなものに浸っている場合じゃない。
いや落ち着け、別にドレッドと私はなんの関係もないのだし、嘘や言い訳で塗り固める必要は無い。
「いや、普通に友達といただけだよ。ヴィエラさん」
「ともだち? それは私より大切なのですか、ヤコ」
「もちろん君の方が大切だよ、ヴィエラさん」
そらドレッドとヴィエラさんなら、ヴィエラさんのが大切ですわ。
自分の命と比較してもやっぱりドレッドより大切です。
ごめんねドレッド、私は助かりたいんだ。
「ねっ! 私と昼間の子はただの友達でしたもんね!」
「えっ!? そ、そうだね。悪ふざけで盛り上がったもんねぇ」
私の無罪を証明してもらおうと、おばちゃんに助けを求めると、びっくりしながらも頷いてくれた。
第三者が同意しているのを見たヴィエラさんは、若干まだ不審な表情をしているものの、一旦は納得してくれたようだ。
底冷えするようなオーラを収めて、おばちゃんの売っているザクロジュースが気になるのか、そちらに興味を向けてくれた。
助かった。




