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第4話 魔法練習場跡地

 ジャックに案内されるまま、僕は学園内のとある一画に足を運ぶ。

 ここはあまり来たことがない場所だ。人も殆どいないし、なんだか少し不気味な感じがする。


「ジャック、ここって」

「ここは元々魔法練習場があった場所だ。まあ今は移転しちまったから『魔法練習場跡地』になるのかもな。移転した後何か建物を建てる予定があったみたいだけどそれが頓挫していまは寂れて誰も寄り付かねえ」

「へえ、そんな場所があったんだ」


 全く知らなかった。

 ジャックはやっぱり物知りだね。だけどこの興味を勉強にも活かせたらいいのに。


「ここにそのヴォルガさんって人がいるんだね」

「ああ。奴を慕う奴らと一緒にここにたむろしてるって話だ」


 そんなことを話しながら歩を進めると、柵で仕切られた開けた場所に出る。

 足元に落ちている半分朽ちた看板には『第二屋外魔法練習場』の文字。どうやらここで合っているみたいだね。


「――――あいつらみたいね」


 警戒した様子のクリスの目線の先には十人程度の生徒がいた。

 男女入り混じったその人たちは、みんな体つきがよくて鍛えられているように見える。


 その中でも一人、群を抜いてガタイの良い生徒がいた。


「……あの人、だね」


 僕よりもずっと大きな体に、厚い胸板と太い腕。

 ワイルドに伸びた黒い髪と獰猛さを強調する牙と爪。

 間違いない、あの人が目的の人『ヴォルガ・ルー・ジャガーパッチ』その人だ。


「こんにちは。少しお話よろしいですか?」


 堂々と正面から近づきながら声をかける。

 するとヴォルガさんの周りにいた人たちが警戒した様子で僕の進路を塞ぐように立つ。


「なんだお前は? こんな所に何しに来やがった」

「痛い目見る前に帰ったほうがいいぞ?」


 うーん。見るからに歓迎ムードじゃない。

 何か間違えたかな?


「いやだからお話を」

「お前と話すことはないって言ってんだよ……!」


 そういって一人の生徒が僕の胸ぐらを掴もうとした瞬間、


「待て」


 低く、ドスの効いた声が放たれ手が止まる。

 その声の主はもちろんヴォルガさんだ。彼は興味深そうに僕のことをジッと見ている。


 ふう、それにしても危なかった。もし本当に掴んでたらクリスが黙ってなかった。見れば「ちっ」と剣を握った手を離してる。あのままだったら問答無用で斬りかかってたね。


「その白髪と赤い瞳……お前が噂の『二人目の光』だな?」

「え、あ、はい。カルスです、よろしくお願いします」


 聞き覚えのない二つ名で呼ばれて戸惑ったけど、なんとか自己紹介をする。

 この学園で二人目の光魔法使いだからそんな呼ばれ方をしてたんだ。


「知ってると思うが俺がヴォルガだ。歓迎しようじゃないか」


 そう言ってヴォルガさんは僕の前にやってくる。

 近づくとその大きさがよく分かる。ダミアン兄さんと同じくらいガタイがいいね。

 生まれながらの戦士の体格って感じだ。


「で、Aクラスの生徒たちがこんなところに何のようだ。お前たちが楽しめるような物はここにはないと思うぞ」


 そう言ってヴォルガさんはちらとクリスのことを見る。どうやら僕だけじゃなくてクリスのことも知っているみたいだ。


「私のことも知ってくれているなんて光栄ね」

「剣聖の娘が入学するとなれば知らぬ方がおかしい。いつか手合わせしたいと思っていた所だ」

「へえ、いい根性してるじゃない。なんなら今ヤッてもいいのよ?」


 挑発するように笑みを浮かべるクリス。

 なんで話し合いをしに来たのにそんなに好戦的になっちゃうの……心臓がバクバクだよ。


 一触即発の空気。

 先に口を開いたのはヴォルガさんだった。


「それは魅力的だが……今はやめておこう。悪いが俺の興味は今、目の前のこいつに向いてるのでな」

「あら、それは残念」


 ふう、なんとか回避出来たみたいだ。

 よかったよかった。


 そうホッとしていると、今度はジャックが口を開く。


「あの、ちなみに俺は……」

「誰だお前は」


 撃沈していた。

 しゅんとして黙ってしまったジャックは置いておいて、僕はヴォルガさんに今回ここに来た理由を話す。


 派閥争いに参加しない道を作りたいこと。

 すでにサリアさんとセシリアさんという味方がいるということ。

 そしてヴォルガさんの力を借りたいということ。


 全ての話を聞いたヴォルガさんはじっくりと考え込んだあと、口を開く。


「……正直俺もあいつらの行動は目に余ってた所だ。戦う動機も不純であれば、取る手段も幼稚で稚拙。とてもじゃないが見ていられない」


 ほっ、よかった。

 ひとまずこの人もマルスさんの行動には辟易していたみたいだ。

 これなら味方になってもらうのも不可能じゃなさそうだ。


「じゃあ仲間に……」

「だが」


 僕の言葉を遮るように、ヴォルガさんは大きくそう前置き、


「俺は誇り高き『ジャガーパッチ』家の軍人。仕えるべき主人は自分で選ぶ、例えそれが一時の協力関係であってもな」

「……なるほど」


 つまり彼はこう言ってるのだ。

 お前が協力するに値する人物だと示せ――――と。


 試すように僕のことを睥睨するヴォルガさん。

 すると突然クリスが僕と彼の間に割り込んでくる。


「そんなに力比べがしたいなら私が相手になるわ。私はカルスの騎士であり剣、私が相手してもいいはずよ」

「貴様は下がっていろ、俺の今の興味はカルスだ。それに……お前のご主人さまもやる気みたいだぞ」

「へ?」


 クリスは振り返って僕のことを見る。

 そして目を丸くしたかと思うと、小さくため息をついてそこから退く。


「はあ、しょうがないわね」

「へ? どうしたのクリス」

「どうもこうもないわよ。カルス、あんた笑ってるわよ」

「……え?」


 自分でも気づかない内に、僕の顔は笑みを浮かべていた。

 ……どうやら僕はわくわくしてしまったみたいだ。目の前の明らかに強そうな人に喧嘩を売られて。


「うーん……僕って争いごととか苦手なはずだったんだけど。なんでだろう」

「そう落ち込むことはない。鍛えた力をぶつけ、競うことに喜びを見出すのは人として健全なことだ」

「そう、ですかね?」


 事実僕はわくわくしている。

 この人に僕の魔法が通じるのか、この人はどんな魔法を使うのか。

 そして……僕とこの人、どっちが強いのか。


「悪いねクリス。今回は僕が貰うよ」

「ったく、しょうがないわね。負けたら承知しないから」

「うん。ありがと」


 譲ってくれたクリスにお礼を言って、ヴォルガさんに向き直る。


「ということで、僕がお相手致します。いつやりましょうか」

「そうだな……明日、ここでやるとしよう。形式は『王国決闘法』に基づいて行う。お前が勝てば俺はお前に従う、もし俺が勝ったら……この話は白紙だ」

「勝っても何も要求しないんですか?」

「俺は戦えれば満足だ。俺に従いたいっていうなら話は別だけどな」


 本当に戦うことにしか興味がない人なんだ。

 まあそれならそれでいい。僕は思いっきりやるだけだ。


「決闘を行う上での手続きはこっちでやっておく。明日の放課後ここにくるだけでいい」

「分かりました、ありがとうございます。では……」


 僕とヴォルガさんはお互いの視線をぶつけ合い、同時に口を開く。


「「明日」」


 そう言って踵を返し、その場を離れる。

 これ以上何かを話すのは野暮だ。後は明日、存分に語り合えば良い。


 高鳴る胸を抑えながら、僕は帰路に着くのだった。

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