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43話後半 テレサちゃんは洋服が好き!

「リサじゃないか。こんなところで会うなんて」


 リサは買い物かごを片手に、神妙な表情で僕を見つめる。


「……アンタもなの?」


「何が?」


「『アンタもなのか』って聞いてるの!」


 僕を睨んだまま、距離を詰めてくる。言ってる意味がわからないのはいつものことだが、今日はいつにも増してわけがわからないぞ。


「お、落ち着けって。何が言いたいのかさっぱり……」


 慌ててリサから視線を逸らすと、彼女の買い物かごの中身に目が止まった。中に入っていたのは、大量のTシャツ。


「あれ。リサ、そのTシャツは……?」


 そこで、なんとなく彼女が言いたいことがわかった。彼女は僕がTシャツを持っていることに対して、『アンタもなのか』と言っていたのだ。


 つまり、お前もいまむらの文字入りTシャツが好きなのか、ということだ。


「違います」


「うわああああああああああ!!! この裏切り者おおおおおお!!!」


 途端、リサはカゴを抱えたまま全力疾走。バタンと大きな音を立ててドアを閉め、試着室に入り込んでしまった! ドアが半分しかなくて足が見えるタイプの試着室に!!


「ユート君!? 今のは!?」


 音を聞きつけてきたアリシアさんとテレサちゃん。


「リサです! リサが試着室に閉じこもりました!!」


 僕たちは試着室の前に立ち、説得を試みる。


「リサー! 試着室に閉じこもるなよ! なんでいきなり立てこもりなんか!」


 試着室の扉をノックしながら、僕は扉の向こう側に声を飛ばす。扉の下の部分が開いているので、もはや籠城にもなっていないけど。


「うっさい! アンタもどうせ私のことを馬鹿にするんだろ! 変なTシャツって!!」


 なにかと思ったらそんなことかよ! バカみたいな動機で迷惑をかけるな!!


「リサちゃん! 出ておいで! 絶対バカにしないから!」


「嘘つけ! 私はなあ! 小さい頃からなあ! 服のセンスがないってバカにされ続けてるんだよ! アンタみたいにバカにしないって言ったやつも最後は皆裏切った!!」


 扉の向こうから悲痛な叫び声が聞こえてくる。なんでいまむらの文字入りTシャツにそんな因縁めいた過去を背負ってるんだよ!!


「いいから帰って! 私はアンタたちが帰ったあとこのTシャツをレジに通して普段着にするんだから!」


「うーん、そこまで言うなら帰るよ。アリシアさん、テレサちゃん、今日は諦めて帰ろう」


「ちょっとは躊躇しろよ! 天才の私がこんなになってるのに心配もしないのかよ!」


 め、めんどくせえ。心配してほしいのかほっといて欲しいのかどっちかにしてくれ。


 リサの迷惑に手を焼いていると、テレサちゃんがスッと前に出た。


「こんこん! もしもーし!」


 試着室の扉をノックし、手をメガホンのようにしてリサに話しかける。


「……何よ未来の子。アンタも私のことを笑いに来たの!?」


「違うのです! 一緒にお話ししたいのです!」


「ふん。どうせアンタもそうやって、私のセンスを馬鹿にするに決まってるわ!」


「どうしてなのです?」


「決まってるじゃない! 私の好きなものはセンスがないからよ!」


 もはやリサは固く心を閉ざしてしまっている。他人を近づけまいと、狭い空間――扉の下の部分はないけど――から声を上げていた。


「テレサにはよくわからないのです。センスがないと、自分の好きなものを好きと言ってはいけないのです?」


「それは……違うけどさ。でも、みんなバカにするの!」


「じゃあ、テレサが『好き』って言ったら、みんなじゃなくなるのです!」


 テレサちゃんがそう言った時、試着室のドアがゆっくりと開いた。中には涙目のリサが。


「なんで……なんでアンタは私のことをそんなに構ってくれるの!」


「テレサは皆のことが大好きなのです! だから、友達になりたいのです!」


「うううう……うおおおおおおおおお!!」


 リサは涙を流しながらテレサちゃんに抱き着く。テレサちゃんは一瞬困ったような顔をしたが、すぐに笑顔になってリサをぎゅっと抱きしめた。



「私はリサ! アンタの友達よ!」


「リサちゃん! 私はテレサなのです!」


 試着室籠城事件が解決し、リサとテレサちゃんはすっかり意気投合して握手を交わしていた。やはり精神年齢が近い者同士気が合うのだろうか。


「テレサ! 私、このTシャツが好きなんだ!」


「おおおおお! カッコイイのです!」


「でしょ!? やっぱわかる!?」


 リサが掲げているTシャツには『Love or die』の文字。その他にもどこかの国の言葉がつらつらと書かれている。ゲーセンで学院生が着てる奴だ。


「これなんかね、チェーンが付いてるのよ!」


「キラキラしてるのです!」


「このドクロマークとかどうよ!」


「これはちょっと怖いけど……リサちゃんはカッコイイのが好きなのですね」


「そう! そうなの! カッコイイのよ!」


 なんか盛り上がってきてるな。アリシアさんも僕もいつも手を焼いているあのリサと話が合うなんて、もしかしたらテレサちゃんはなかなか手練れなのかもしれない。


「これを見て、テレサ!」


「『ベストフレンドフォーエバー』……?」


「『ずっと友達』って意味よ。私たちはこれからも、ずっと友達でいましょう! いまむら仲間として!」


「ずっと……友達……! うんなのです! テレサとリサちゃんは、ずっと友達なのです!」


 なんてことだ。あのリサと友達になってしまったぞ。テレサちゃん凄いな。僕は思わず膝を打って感心してしまう。


「ありしー、ゆー君! テレサは二人ともずっと友達でいたいのです!」


「うん。ずっと友達でいよう。約束するよ」


「やったのです! 今日は友達がたくさんできたのです!」


 ……そっか、テレサちゃんはこれまで友達を作れなかったんだよな。こうやって服を選ぶことも、おしゃべりをすることもかなわなかった。


 彼女の無垢な笑顔を見ていると、凄く心が洗われる気がする。一人称をオレにして、怖い口調を保っていた彼女は、本当はとても優しい一人の少女だったのだ。


 そんなテレサちゃんに友達が出来て、僕も嬉しくなった。

おまけ

テレサ「リサちゃんとおそろいの服を買ったのです!」

ユート(ベストフレンドフォーエバーTシャツ、買っちゃったかあ……)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ テレサちゃんの純粋さが眩しい! ……穢れ淀んだ私には直視出来ないレベルだ(笑) いや、マジで。 [一言] 精神年齢の親い者同士で通じるモノがあったのでしょう。 …
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