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40話前半 アリシアさんはテレサちゃんを止める!

「貴様程度に、このオレが負けると思うな!」


 テレサちゃんは激高し、地面を強く蹴って前進する。河原の柔らかい地面にクレーターができ、土が飛ぶ。


「私が、テレサを止めて見せる!」


 躍進してきたテレサちゃんに対し、アリシアさんは両手剣を持ち直し、素早く振るう。二人の刃がぶつかり、火花を散らしながら激しい金属音を立てる。


 刃渡りが短い短刀のほうが、エクヌカリバーよりも機動が速い。テレサちゃんは烈火のように短刀を振り回し、徐々にアリシアさんを追い詰めていく。


「どうしたどうした!? そんなものか!?」


 攻め続けるテレサちゃん。好戦的な笑みを浮かべ、さらに短刀を振り回す速度を上げる。彼女の言葉は、もはや(あざけ)りの意味さえ孕んでいた。


 しかし――ある瞬間、テレサちゃんは自分が重大な勘違いをしていることに気付き、ハッと目を開く。小さな声で『まさか』と呟いたのを僕は見逃さなかった。


 リーチが短く、瞬発性に優れているはずの短刀の攻撃が一度も当たらない。それどころか、むしろアリシアさんの剣の方が『速く』、テレサちゃんは自分が防戦一方であることを気付かされた。


「バカな! なぜこんなに速くなっている!?」


 動揺したテレサちゃんの攻撃のスピードを、もはやアリシアさんは凌駕(りょうが)した。彼女は一歩前進すると、聖剣エクヌカリバーの長さを活かし、テレサちゃんを後ろに大きく弾き飛ばした。


「だったら、これでどうだ!?」


 スピードでの戦いに勝てないと悟ったテレサちゃんは、ニヤリと笑うと、地面をガッと蹴り、アリシアさんの顔に土をかけた。目つぶしだ。河原の柔らかい土が飛散し、風と共に舞い、アリシアさんは目を瞑ってしまう。


「もらったあ!」


 その様子を見て好機だと感じ、テレサちゃんは再び肉薄(にくはく)し、短刀を振り上げる。


 ――が。


「そこだ!」


 アリシアさんは視界を失った状態で剣を振り下ろす。なんと『運よく』テレサちゃんの短刀の軌道上に入り、キン、という音を立てて弾くことができた。


「なにぃ!?」


 そんなことは予想していなかったテレサちゃん。思いがけず刃を弾かれ、後方へと退かざるを得なくなってしまう。


「どうなってやがる……光を失ってもなお、オレの一撃を弾けるっていうのか!?」


 テレサちゃんが動揺している間に、アリシアさんは目に入った土を取り除く。もう同じ手は二度と食わないだろう。手札を失ったのはテレサちゃんの方だった。


 一見すると、お互いまだダメージは受けていない。一進一退の攻防に見えるが、それは大きな誤りだ。


 この戦いを支配しているのは、アリシアさん。もはやこの戦いは狩り(ハンティング)だ。一瞬、彼女の背後に獅子のようなオーラを見た。あれはまさしく、今のアリシアさんが抱く『イメージ』だ。


「な、なんだアレは……」


 テレサちゃんにもきっと同じものが見えているだろう。冷や汗を流し、口を大きく開ける彼女は、自分が今狩られる側にいることを実感しているはずだ。


「武器で駄目なら、拳ならどうだ!」


 テレサちゃんは短刀を懐にしまい、自分の身一つで突進を始めた。やけになったようにも見えるが、実際はそうではない。自分の機動力をさらに上げ、武器を持っていてはたどり着けなかったスピードの境地へ至ろうとしているのだ。


 両手の拳をグッと握り、ラッシュを叩き込む。短刀を使わなくなった今、このゴーグルを介しても、テレサちゃんの連撃はもはや拳が分身しているようにすら見える。圧倒的な速度の世界で、アリシアさんは。


 パシッ、と残像の拳の中から本物の二つの拳を見つけ、両手でつかむ。自分の両肘を一度胸の方へ引き寄せると、一気にグッと押し出し、テレサちゃんは後方へと吹っ飛ばされた。


 それはまるで、『ベンチプレス』のフォームのようだった。


「バカな……あの速さでも追い付かないというのか!?」


 アリシアさんの成長ぶりに、驚きを隠せないテレサちゃん。まさか自分が一度膝をつくことになるとは思わなかっただろう。悔しさを押し殺すように歯を食いしばり、地面から立ちあがると。


「オレに本気を出させたのは……お前が初めてだ、アリシア!!」


 テレサちゃんは眦を裂き、両手の指を組み、力をこめ始めた。彼女の腕に黒い文様が現れ、それは徐々に全体へと広がっていった。


「一時的にオレの全力を200%まで引き上げた! もはやオレでも自分を止めることが出来やしない!!」


 テレサちゃんがそう宣言し、地面を強く蹴った刹那。アリシアさんは目を見開いた。


 速い。速すぎる。今までのテレサちゃんとはけた違いの速さだ。このゴーグルを通しても、もはや彼女の動きを追うことはできない。


 それはアリシアさんも同じことのようで、さっきまでの攻勢とは一転、もはや短刀による奇襲をエクヌカリバーで弾くしかできなくなってしまった。


「どうした!? そんなもんか!? それじゃ魔王になんか勝てるわけねえよ……な!」


 途端、背後からの不意打ちの蹴り。アリシアさんはそれを躱しきることができず、前方へ倒れてしまった。


 バタリ、と音が立ち、アリシアさんは気を失ったように地面に顔を伏せてしまっている。倒れたまま、ピクリとも動かない。


 背中への蹴りに対応できず、脊髄(せきずい)にダメージが入ってしまったのかもしれない。気を失っていれば、またテレサちゃんに勝てなかったことになる。


「ハア、ハア……ずいぶん粘ってくれたな。だが、それもここまでだ……!」


 肩で息をしながら、テレサちゃんは倒れているアリシアさんの方へ歩いて近づく。汗はダラダラと流れ、体力はもはや限界のようだ。


 短刀を持ったまま、テレサちゃんはアリシアさんを見下ろす。剣を取り返そうと手を伸ばす。


 刹那。


 テレサちゃんの短刀が、金属音を立てて弾かれ、宙を飛んだ。グルグルと回転し、地面に突き刺さる。


「な……に……?」


 アリシアさんだった。彼女は気を失っていたわけではない。気を失ったふりをして、テレサちゃんが気を抜くのを待っていたのだ。


「こうでもしないと、油断しないとおもったから」


「まさか、このオレがおくれを取っただと……?」


 アリシアさんの『負けたふり』にて、勝負は決した。アリシアさんの勝ちだ。

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