39話前半 ダースとユートは腐れ縁!
「ユート君、今日はいよいよ……」
「はい。テレサちゃんを探しに行きましょう」
僕が用意していた全ての修行が終わった。ついにテレサちゃんとの再戦の日がやってきたのだ。ギルドのいつもの席で、僕たちは気持ちを新たにしてパンケーキを食べていた。
「これまでの修行で心・技・体を極めてきたからね。なんか次はいけそうな気がするよ!」
どの修行が心技体のどの部分に該当するのかは全然わからないが、アリシアさんがこれまで頑張ってきたのは事実で、彼女は見違えるように成長した……ような気がする。
「でもさ、具体的にどうやってテレサたちの居場所を探すの? シエラニアもかなり広いし、もしかしたらこの街にいないかもしれないよね?」
アリシアさんの言うとおり、シエラニアはとにかく広い。僕たちは今までこの街を遊びに遊びつくしてきたが、それでもまだ楽しいスポットが溢れている程度には広い。当然、たくさんの人が住んでいるんだから足でテレサちゃんを探そうとすればとんでもない苦労だろう。
「安心してください。もうだいたい居場所は見当がついているんです」
「えっ、すごっ!? なんで!? これから探しに行く雰囲気だったよね!?」
アリシアさんはかなり驚いているようだが、僕にとってはごく自然なことだった。なんせテレサちゃんと一緒にいるのがダースだ。しかも住居はダースが用意したという。
本当に不服でしかないのだが、ダースと僕はかなりの腐れ縁だ。冒険者になるずっと前から知り合いだった。あいつがどんな人間なのか、どんな思想を持っているのか、そして何をするのかは悔しいけど手に取るようにわかる。悔しいけど。
「テレサちゃんの住居を見つけるために、まずは話を聞くべき人物がいます。そして、その人は今からこっちに来ます」
あらかじめ準備していたことをアリシアさんに告げると。
「ユートさん、ボクに何か用でしょうか……?」
おっと、予定通り。僕たちの席にやってきたのはロゼさんだ。
彼|(女)には、僕がここに来るようにだけ伝えておいたのだ。
「ロゼさん……単刀直入に言いましょう。ダースに何か頼まれましたね?」
いきなり本題に入ると、ロゼさんはビクッと肩を震わせる。わかりやすく目が泳ぎ始めたぞ。
「ななななななな、なんのことですか? 断然身に覚えがないですよ!?」
「断然じゃなくて全然ですよ。どんだけ焦ってるんですか」
やはりこの反応はビンゴだ。ロゼさんはダースの居場所を知っている。
「も、もういい! ボクは部屋に戻る!」
「逃がしませんよ。もっと具体的に言うと、ロゼさんはダースに賃貸を貸しましたね?」
「しょ、証拠はあるんですか!? ボクがダースさんに頼まれて、賃貸を借りる保証人として契約書にサインしたって証拠が!」
もうそれ9割くらい自白だろ。もはや勝負はついたらしい。
「ユート君、これはどういうこと?」
「ダースは多重債務者なので、賃貸を借りることはできないんです。だから住居を手に入れるには協力者が必要。そしてダースが頼ったのがロゼさんというわけだ」
ダースが頼れる人間なんて数えるほどしかいない。女性には嫌われているからその時点で容疑者は半分に絞れているし、借金まみれの悪評が広まってるんだもん。もしこれでロゼさんが協力者じゃなければ、川の橋の下を探すつもりだった。
「うううう……ご、ごめんなさーい!!」
もう隠しきれないと思ったのか、ロゼさんはその場にペタンと座り、泣き出してしまった。
「別に責めてるわけじゃないですよ。でもあいつに関わると本当にロクな目にあいませんよ」
「『このままじゃ俺の命が危ないんだ! お前しか頼める人がいないんだ!』って言われて、ボクがなんとかしなくちゃと思ったんですー!」
本当に最低だなあいつ。『お前しかいないんだ!』とかクズのセリフそのものだ。
「ロゼさんが謝る必要はないんですよ。悪いのは100パーセント、ダースですから」
「でも、ユートさんたちに秘密してしまったボクも悪いと思います……本当にごめんなさい」
ロゼさんが自供してくれたので、これで確実にダースの居場所を見つけることが出来る。不服ではあるが、やはりあいつの考えは何もかも予想が出来てしまうなあ。
「アリシアさん、さっそくテレサちゃんのいる場所に行きましょう!」
「うん。ロゼさんも正直に話してくれてありがとね」
僕たちはロゼさんにダースの居場所を聞き、そこまで走っていったのだった。
「ここか……」
ロゼさんに教えられた建物は、いたって普通のマンション。こんなの普通に探そうと思ったら絶対に見つからないだろう。備え付けられた階段を上り、三階の部屋の前に立つ。
「じゃあ呼びますよ……」
部屋の扉をコンコンとノックをする。しばらく経っても返事がないので、もう一度ノックをすると。
「あーもう、うるせえな! 借金なら返さないし新聞はいらないし宗教は入らない! さあ帰った帰っ――」
すると中から顔を出したのは、相も変わらず間抜けな面をしたダースだった。
「お、お前はユート!?」
「一般人パンチ!!」
「ぶべらっ!!」
ロゼさんを悲しませた報復に、僕はダースの顔面に渾身の一撃を入れる。
「な、なにすんだよ!」
「なにすんだよじゃないだろこのヒゲ! 多重債務者の分際でマンションなんかに住みやがって! お前は川の橋の下がお似合いだ!」
久しぶりに対面して、なんとなく今までのストレスを解消してしまった。本当にこいつは地獄に落ちたほうがいい。このクズめ!
「そうだ! ユート、助けてくれ! こんなブラックな職場にいたら俺の身がもたない!」
殴られたところを抑えたかと思ったら、今度は僕の足に縋りついてくる。ブラックな職場ってなんだ?
「うるさいぞ! オレの部屋で騒ぐなと言ったのが聞こえなかったのか!」
その時、部屋の中から怒声を上げたのは、相も変わらず黒いスポブラにパーカー姿のテレサちゃん。
「……お前は、アリシア! どうしてここがわかった!?」
「テレサ。私の剣を返してもらいに来たんだ」
アリシアさんの言葉に、テレサちゃんは真剣なまなざしでこちらを見つめて。
「……表に出よう。話はそれからだ」
重苦しい空気が、辺りを支配した。




