幕間 ダースはブラックで働く!
俺の名はダース。シエラニア随一の色男で風来坊。
そんな俺が姉御について行ってから一週間が経とうとしている。俺は秘密の方法を使って賃貸を借り、とあるアパートで暮らしていた。
「姉御ー? 夕食を買ってきましたぜ!」
俺は奥の部屋のドアをノックする。姉御はいつも奥の部屋に引きこもっているのだ。俺はリビングで、彼女は奥の部屋で生活をする。そんな日々が続いていた。
「……今日の夕食はなんだ」
「カップ麺です」
「またインスタントか。お前は何か料理をしないのか」
「はい。普段はおがくずや土などを食べて生活をしていますから。これでも高級食なんですよ?」
「……まあいい。わかった」
姉御は呆れたような表情をして、俺の手にかけられたカップ麺入りのビニール袋をむしり取る。
「もういいから行け」
「は、はあ……わかりました」
姉御はそのままドアをバタンとしめてしまう。俺はその様子をただ呆然と眺める。
こえー。
怖すぎるぜ姉御。さすがはシリアスな未来出身という感じで、怖すぎてもう何も言い返せない。さっきから怖いしか言えてないぜ。
「あ、姉御? カップ麺はお湯を入れないと食えないでしょう。ポットにお湯を入れておきましたから、今持ってきますね――」
「開けるな!!」
ドアノブに手を掛けようとした瞬間、部屋の中から怒声が響き、すぐさまドアが開かれる。
「何度も言っているはずだが、聞いていなかったのか? オレの部屋に入ってくるなと言っているんだ」
「ごごごごごごめんなさいっ! ついうっかり……」
「ついうっかりで何回やってるんだ! もしお前がオレの部屋に入ろうものなら……」
「わかりましたから! もう二度とやりませんから!」
俺は深々と頭を下げる。姉御は怒りを抑え、ため息をついて。
「……わかったならもういい。お湯を入れてこい」
「はい、直ちに! ありがたき幸せ!」
俺は急いで台所へ走り、カップ麺にお湯を入れて姉御の部屋の前に戻る! まだ死にたくないっっっ!!
「持ってきました! 三分待ってください!」
「……よくやった」
カップ麺をささげるように渡すと、姉御はまたそれをむしり取るように鷲掴みして。
「熱つっ!」
床にボトリと落とした。スープが床に飛び散り、中身の麺がぶちまけられる。
「あーあ、鷲掴みなんてしたらそりゃ熱いですよ……」
「先に言え馬鹿者が!」
なんだろう。俺が悪いのかな? カップ麵って元々熱いものだよね?
最近気が付いたけど、いくらなんでもブラックすぎじゃないでしょうか。俺はクズだけど人権はあるんだよ。優しくしてね。
「ん……なんだこれ?」
姉御がカップ麺を落とした時の衝撃で、彼女の懐から何かが落ちたぞ。ビー玉みたいな丸いものだ。俺がそれを拾い上げようとすると。
「触るなッ!」
「ぶべらっ!?」
姉御は突然俺の顔面にストレートを入れて、ビー玉を拾い上げる。俺は廊下をゴロゴロと転がった後、壁に勢いよく衝突する。
「もういい! 今日はオレの部屋に近づくな!」
バタン! と大きな音を立てて部屋のドアが閉じられる。
……嵐のような数秒間だった。なんで俺、殴られたんだろう。もうやだ。ブラックすぎる。
姉御の強さをチラつかせれば借金取りも近づいてこないし、賃貸も借りられるし、いいこともある。でもこんなにブラックな職場はもう嫌だ……。
ユート、あとはなんとかしてくれ! 多分お前ならなんとかしてくれるだろう。よろしく頼んだ!




